ルチャが本場の価値で提供される喜び/FANTASTICA MANIA後楽園2DAYS初日 | KEN筆.txt

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鈴木健.txtブログ――プロレス、音楽、演劇、映画等の表現ジャンルについて伝えたいこと


1月13日に大阪で開幕した「NJPW PRESENTS CMLL FANTASTICA MANIA 2015」は高松、京都を経て17日に新木場1stRINGへ上陸。シリーズのラストを飾るのは18&19日の後楽園ホール2DAYSだ。毎年思うことなのだが、本場のルチャリブレの価値観を日本のファンに定着させたこの試みの意義は大きい。昭和の時代、メキシカンはアメリカンを中心とするヘビー級の大男の中へ混ざり、員数合わせのようなポジションに甘んじていた。マスラカス・ブラザーズは別格として、現地では帝王として君臨するエル・カネックでさえ持ち味を存分に発揮できる舞台に恵まれなかった。

そうした認識から脱却し、独自の価値観を初めて提供したのがユニバーサルプロレス。ウルティモ・ドラゴン、邪道&外道、ザ・グレート・サスケ、スペル・デルフィン(いずれも現在のリングネーム)などの人材を発掘した一方、スペル・エストレージャたちを招へいしその魅力を発揮できるリングを確立。90年代、ユニバからルチャに興味を持ったプロレスファンは多かった。

そのユニバから派生したみちのくプロレスもメキシコから人気選手を呼んだが、2000年代に入ると定期的に“ルチャ専門団体”として活動するプロモーションは消えた。AAAが単独で日本公演を開催することもあったが、メキシコの現在形が見られる機会が限りなく減りつつある中で2011年より始まったのが、このFANTASTICA MANIAだ。

私のように現地のニュースを追っていなくても理屈抜きで楽しめる。若い選手は見るだけで新鮮だし、アトランティスのように何度も見てきた存在は今なお元気に躍動する姿がじんわりと来る。リングアナウンサーも現地から招へいし、日本語とスペイン語によるコールもお馴染みに。試合中にはメキシコで聞かれる鳴り物の音を流し雰囲気を作る。


2DAYS初日はチケット完売の1950人=超満員札止め。客席には当たり前のようにマスクを被って観戦するファンが目についた。

オープニングマッチでまず沸かせたのはアンヘル・デ・オロ。側転からのノータッチ・ムーンサルト・アタック…いわゆるサスケスペシャルを難なく決めた。

オロとトリオを組んだ獣神サンダー・ライガーとタイガーマスクもハーフ&ハーフマスクで登場。石井智宏&YOASHI-HASHI&外道に勝利。オロの肩に掛けられているのはCMLL世界ライトヘビー級のベルトで、1・17新木場にてOKUMURAを相手に防衛を果たした。

初来日のバルバロ・カベルナリオは原人というか原始人。頭に人骨が刺さっているのがたまらない。大森隆男や征矢学にはない何かが、ここにはある。なお、パートナー・OKUMURAのセコンドとして下田美馬も登場。

パートナーのKUSHIDAを飛び越えて相手の2人にドロップキックを放っていったトゥリトン。変幻自在に飛び回ったが、最後はOKUMURAのジャベ(腕取り逆片エビ固め)に敗れた。

こちらが今シリーズ話題の和製ルチャドールお二方。ツタンカーメン(ツタン仮面?)は、倒れ込み式ヘッドバットもこのポーズのまま放ち、案のじょうかわされていた。

後ろから見ると、ツタンカーメンさんのマスクはこうなっております。仮面というか、お面ですよ。

この日の1試合のみだけのためにメキシコから飛来したマスカラ・ドン。腰クネダンスや中西学ばりの「ホーッ!」に興じるなど、見るからにゴツいルチャを披露。

新日本でもお馴染みのマスカラ・ドラダはリング内外を飛び回り田口隆祐と内藤哲也をほんろうした。

同じく新日本の常連ルチャドール、ラ・ソンブラがハリウッドスター・プレスでキャプテン・ニュージャパンから3カウント奪取。

翌日の最終戦メインでスペシャルシングルマッチをおこなうドラダとソンブラが挑発合戦。G1クライマックス公式戦でも実現していない、事実上の新日本におけるナンバーワン・ルチャドール決定戦だ。

ボラドールJrが保持するNWA世界ヒストリックウェルター級王座にグラン・ゲレーロが挑戦。昨年も同王座の防衛戦をおこなっているボラドールだがその後、マスクを脱ぎ現在は素顔でファイトしている。だが、入場時にはマスクを被って登場した。なお、グランはウルティモ・ゲレーロと同じく『We Will Rock You』で入場。

マスクマン時代は水色のイメージが強かったが、一転しシックな黒づくめでこの日は臨んだ素顔のボラドール。雪崩式フランケンシュタイナーで逆転すると、最後はスパニッシュフライ(不知火・改と同型)で防衛に成功。

ナショナルライトヘビー級王座防衛戦に臨むメフィストのセコンドに着いた高橋裕二郎が「こいつもCHAOSみたいなクソチームにはいたくねえとよ! バレットクラブのニューメンバー、そしてメキシコのナンバーワンルード、メフィスト!」と紹介。これでバレットクラブはまたメンバーが増えた。

ピーンと伸びた体勢から縦横無尽に飛びまくったストゥーカJrは、往年のスペル・アストロをほうふつとさせた。

試合の方はメフィストがデビルズウイングス(雪崩式ダブルアーム・フェースバスター)で防衛に成功。

「ブラック・キャット・メモリアルマッチ」としておこなわれたセミファイナルでは、棚橋弘至&2代目ミスティコ&スティグマが入場したあと、幸枝夫人とご息子の亨さんがリングに上がり花束と記念品が贈呈された。幸枝さんは、スティグマがネコさんの甥であることを紹介。その後、ネコさんの入場曲『HEAD OF A SECTION』が流れたのがたまらなかった。

レインメーカーの入場シーンに思わず見入るスティグマ。

オカダ・カズチカ、ポルボラ、中邑真輔の3人でポーズ。

神の子とレインメーカーが対峙。サイズがまったく違うにもかかわらず、ミスティコは正面からニラミ合いを仕掛けていった。

肉体美を誇るポルボラに負けじとコーナーに登り、そして相手を倒してポージングに興じていたノリノリの逸材。

ネコさんの遺志を継ぐスティグマは166cmと小柄ながら191cmのオカダに対しても果敢に向かっていった。

伝家の宝刀・ミスティカ(竜巻式ワキ固め)が鮮やかに決まり、ミスティコがポルボラにギブアップ勝ち。テクニコ軍が3人揃って勝ち名乗りをあげた。


メインイベントは昨年9月に開催されたアルベルサリオ81のメインと同一カード。その一戦でアトランティスに敗れ素顔になったにもかかわらずウルティモ・ゲレーロはマスクを被り登場。



もちろんこれにはアトランティスが何度も抗議。ゲレーロはマスクを脱ぐことを拒否していたが…。

自分から「わかった!」とばかりに勢いよくコーナーへ登るとマスクを脱いだ。素顔になっても、その色気はまったく褪せていない。


これが52歳の舞いだということが信じられるか!? 大陸王子の異名で1991年2月にSWSへ参戦し初めて日本へやってきたアトランティスは、2003年に第3回ふく面ワールドリーグ戦で優勝、4年後の第4回では準優勝を果たすなど日本でもその実力者ぶりを刻んできた。今なおこうしてバリバリに動けるのは、本当に感慨深い。


アトランティーダをディフェンスしたゲレーロは、十八番のゲレーロスペシャル(雪崩式リバース・ブレーンバスター)で3カウントを奪い、マスクを剥がされたレバンチャを達成。試合後には、その喜びをマイクで日本のファンに伝えた。

さて、極上のルチャを見たあとはメキシコ料理が食べたくなる。さっそく自宅に戻り在宅タコスに興じてみたのだが、具を入れ過ぎてじつにポルキーな大きさになってしまった。やっぱりちゃんとしたお店で食べた方がいいに決まっている。というわけで、最終日のあとはお隣の御茶ノ水にあるメキシコ料理屋「エル・マル・アミーゴ」をオススメします。