排卵誘発 アンタゴニスト法 | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

排卵誘発:アンタゴニスト法について説明します。


はじめに

体外受精では卵をたくさんとるために毎日注射をして卵胞をたくさん育てます。しかし注射を毎日打ち続けると採卵の前に排卵してしまいます。これはLHというホルモンが上昇してくるためです。そのためLHを低下させつつ卵胞をたくさん育てていく必要があります。

そこで必要となるのが排卵抑制剤であるアンタゴニストという注射になります。商品名ではガニレストやセトロタイドというものがあります。

このように排卵を抑えながら卵胞を育てて行く事を調節卵胞刺激法(以下COH)と呼びます。COHにはその他アゴニストを用いるロング法、ショート法等があります。ここではアンタゴニスト法について説明します。

(アゴニストとかアンタゴニストとか難しそうな名前ですが、両者とも排卵を抑える薬剤と考えてください。アゴニストはいわゆるロング法の事と思ってください。)


Aアンタゴニスト開発の経緯

以前はアゴニスト(ロング法)を使用していた施設が多かったのですが、アゴニストの欠点として以下のものがあります。

①長期間点鼻スプレーをしないといけない。

②排卵誘発剤の使用期間が長く、使用量が増える。

③卵巣過剰刺激症候群:OHSSの発生頻度が比較的高い。

④スプレー使用開始時にフレアアップの出現。

こういった欠点を減らすためにアンタゴニストが開発されてきました。

開発当初はアンタゴニストが肥満細胞からヒスタミン等を遊離して過敏反応を引き起こす事が問題となっていましたが、その後改良されヒスタミン有利作用の弱いアンタゴニストが発売されました。


Bアンタゴニストのメリット、デメリット

アンタゴニストの良い点として

①即効性

②調節性に優れる

③フレアアップがない

④可逆性


アンタゴニストの悪い点としては

①注射を毎日しないとけない(半減期が短いため)

②アゴニストで使うスプレーと比較し高額

③エストロゲンの低下する恐れがある

④使うタイミングが難しい

等があげられます。


Cアンタゴニスト法とアゴニスト(ロング法)の比較検討の報告

①妊娠率、分娩率には差が無いか、若干アゴニストのほうが高いという報告が散見されます。

②副作用のOHSSはアゴニストのほうが有為に多くなると報告されています。

③注射投与量はアゴニストのほうが多くなっています。

④LHサージの出現はアンタゴニスト法のほうが多く認められています。


Dアンタゴニスト法の投与方法

投与方法には以下の2通りがあります。

①固定日投与といって、卵胞刺激ホルモン投与の6日目から開始して1日1回0.25mgを皮下に注射する方法。

②卵胞のサイズが14~16mm以上になった時点から投与を開始する方法。

個人的には固定日投与よりは卵胞のサイズ、エストロゲン値、LH値を見ながら投与開始時期を決める②の方が良いと思っています。



このアゴニストとアンタゴニストの2つを車に例えて言うと、アゴニストはオートマチック車、アンタゴニストはマニュアル車に似ていると思います。

つまりアゴニストは機械が制御してくれて自動で楽なのに対して、アンタゴニストは我々人がきちんと管理していかないといけません。

しかし逆に言うと症例はそれぞれ異なるので、当然全ての症例がオートマチックというわけにはいきません。症例ごとにアンタゴニストを自在に使いこなしてテーラーメイドの治療を行う必要があります。

その結果患者にとってアンタゴニストは、より優しくよりマイルドな良い刺激法につながっていくと思われます。

国内においてアゴニストは20年以上の使用経験があるのに対し、アンタゴニストは3~5年程度の使用経験でしかありません。

アンタゴニスト法は今後更なる発展が見込まれます。

今後多数のエビデンスを重ねて最適なアンタゴニスト法のプロトコールを見つける事が大切と言えます。