イスラム国の人権侵害と戦争犯罪の実態をまとめます | 西陣に住んでます

イスラム国の人権侵害と戦争犯罪の実態をまとめます

イスラム国

(Dailymail)



イスラム国という名前の国際武装テロ集団ISILによる日本人人質事件を日本メディアが連日報道していますが、これには極めて大きな問題が一つあります。それは何かと言えば、ISILが具体的にどのような極悪非道行為を働いているのか?ということをほとんど報道していないことです。これはインターネットのコンテンツでも同様で、日本語サイトではほとんどISILの蛮行の全体像を把握することが困難であると言えます。このため、ほとんどの日本人は、なんとなくイスラム国は極悪非道行為を働いているようだということについては知っていますが、その具体的な極悪非道行為についてはほとんど知らないと言えるのではないでしょうか。


そして、このような状況においては、日本政府が世界に先立って行なっている人道支援の意義が正しく評価されているとは言えず、「日本の人道支援政策はイスラム国をいたずらに刺激してに喧嘩を売るものであり、日本人人質に対する重大な人権侵害でもある」等の極めて偏った論調が、あたかももっともらしく一般に多く出回っているのが現状であるかと思います。


そもそも日本の一部マスメディアの論調は、日本政府の見解自体を正しく把握していないで思い込みで政府批判を行っているものもあります→[古賀茂明氏の「アイアムノットアベ発言] 。前の記事でも示したように、まずは安倍首相がどのような発言をしていたか、外務省のウェブサイトの[記録] で確認することが最低限の前提となります。


このあたりのメディアの状況については、次の記事で書くことにして、この記事では、まずはISILの人権侵害と戦争犯罪の実態がどういったものなのかということをWikipedeia英語版[Human rights abuse and war crime findings] のセクションのファクトの部分を中心に抄訳することにより、説明したいと思います。


私はどちらかというとWikipediaをあまり信じない方なのですが、こと英語版については日本語版よりも公平性と合理性が格段に高く、比較的参考にしています。ISILの記事についても、直接取材をしたジャーナリストによる豊富な1次資料の参考文献(日本版は日本メディアが1次資料を伝聞して報道した2次資料が中心)を基により国際的な論点が具体的に記述されています。もちろん、国連やNGOの報告や国際紙の報道がすべて正しいとは限りません。しかしながら、参考文献をたどっていけば、その報告および報道自体を直接検証することもできます。まずは、↓こちらをお読みください。






【イスラム国の人権侵害と戦争犯罪】


国連は、ISILは2014年6月までに数百人の戦争捕虜と民間人千人以上を殺害したと報告している。また、国連は、2014年8月にシリアのタブカ空軍基地付近で発生した最大250人のシリア軍兵士の大量殺害をはじめとする大量残虐と戦争犯罪に関与したとしてISILを告発した。他にも、イラクのスパイカー基地で発生した1095~1700人のイラク軍兵士捕虜の銃殺と他数千人の行方不明、およびシリアのパルミラ地方のガス田で発生した200人のシリア人捕虜の銃殺が明らかになっている。2014年11月、人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチは、リビアのダルナにおいて、同月イスラム国に合流した組織が3件の処刑と少なくとも10件の公開鞭打ちを行ったこと、また3人のダルナ住民を斬首するとともに政治的理由により裁判官、公務員、治安部隊等、数十人を暗殺したことを報告した。


メモ異教徒と少数民族の迫害


ISILが異教徒や少数民族に対してイスラム教への改宗を強要するために行った殺害脅迫、拷問、身体の切断の事例、および所謂イスラム国への忠誠を拒否した聖職者の殺害の事例が多数報告されている。特にシーア派イスラム教徒、アッシリア先住民、シリアとアルメニアのキリスト教徒、ヤズィーディー教徒、ドゥルーズ派イスラム教徒、シャバク人、マンダ教徒が暴力の対象になっている。2014年9月2日、アムネスティ・インターナショナルは、ISILが非アラブおよび非スンニー派の地域社会を系統的にターゲットにして何百、何千の人々を殺害・誘拐したこと、また2014年6月10日以降に占領した地域から83万人の異民族を強制移住させたことを報告した。ISILがほぼ占領したイラクのニーナワー県から移住させられたのは、何世紀も共存して暮らしていたキリスト教系アッシリア人、シーア派トルクメン人、シーア派シャバク人、ヤズィーディー教徒、ミトラ教徒、マンダ教徒である。ISILによる異教徒と少数民族の民間人殺害事例としては、Quiniyehにおけるヤズィーディー教徒70~90人の殺害、Hardanにおける60人の殺害、Sinjarにおけるヤズィーディー教徒200~500人の殺害、Ramadi Jabalにおけるヤズィーディー教徒60~70人の殺害、Dholaにおけるヤズィーディー教徒50人の殺害、Khana Sorにおけるヤズィーディー教徒100人の殺害、Hardanにおけるヤズィーディー教徒250~300人の殺害、al-Shimalにおけるヤズィーディー教徒10数人の殺害、Khocho におけるヤズィーディー教徒400人の殺害と1,000人の拉致、Jadalaにおけるヤズィーディー教徒14人の殺害、Beshirにおけるシーア派トルクメン人700人の殺害が知られている。またISILの関与が疑われている民間人殺害事例としては、モスル付近Badush刑務所におけるシーア派670人の殺害、イラクのTal Afar刑務所における改宗を拒否したヤズィーディー教徒200人の殺害がある。国連は、2014年8月のイラク北部侵攻の際、ヤズィーディー教徒5,000人がISILによって殺害されたと推計している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ISILが2014年下旬にKobani出身の14~16才のクルド人少年150人を拉致して拷問とリンチを行ったと報告した。アルジャジーラとワシントンポスト紙は、ISILに反乱を仕掛けたシリアのGhraneij、Abu Haman、Kashkiyehのスンニー派Al-Shaitat部族700人をISILが殺害したと報道した。そして国連は、ISILに忠誠を誓わなかったという理由で、2014年6月にISILがスンニー派のイスラム教聖職者を大量に殺害したと報告した。


メモ民間人の処遇


国連は、6月5日から22日までの17日間にISILはイラクの民間人の1000人以上を殺害し、1000人以上を負傷させたと報告した。ISILは、数10人の若者をISILの兵士が射撃している写真を公表した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、5月29日にISILがシリアの村を襲撃し、少なくとも6人の子供を含む少なくとも15人の民間人を殺害したと報告した。シリア人権監視団の報告は、6月1日にISILがHama県の村に住む102歳の老人とその一族を殺害したと報告した。ロイター通信は、2014年の6ヶ月間にISILがシリアで1878人(大部分は民間人)を殺害したと報告した。デイリーメール紙は、ISILが、同性愛・姦通・ポルノ視聴・禁止物品の使用と所持・レイプ・神の冒涜・イスラム教の放棄・殺人等の様々な行為を犯した男女をイスラム教に反する罪で処刑していると報道した。その処刑にあたっては、公衆の面前で罪状を読み上げた上で、投石・はりつけ・斬首・高層ビルからの突き落とし等の様々な方法が用いられている。


メモ少年兵


フォーリンポリシー誌は、ISILが9歳以上の子供を兵士として募集・誘拐し、軍の訓練キャンプに送っていると報道した。キャンプでは、人形を使って斬首を練習させ、ISILの宗教観を植えつけている。ロメオ・ダレール少年兵問題対策団体は、子供たちが前線では人間の盾となり、ISIL兵士に対して献血を行っていると報告した。


メモ性的暴行と性奴隷


ISIL支配地域、特に少数派のキリスト教徒およびヤズィーディー教徒の在住地域において、女性や少女に対する性的虐待や性奴隷化の事例が多数報告されている。ある報告書によれば、2014年6月のISILによるイラク諸都市の占領に伴って、誘拐やレイプを含む性犯罪が増加している。ガーディアン紙は、ISILの過激派が占領政策を女性の肉体にまで拡張し、支配地域の女性を捕えてレイプしていると報道した。ダーゲンス・ニュヘテル紙は、ISILの兵士が非イスラム教徒の女性捕虜に対して性交渉をもつこと及びレイプすることをISILが公認していると報道した。シティズン紙は、強硬派のサラフィー主義者が複数の女性と婚外性交渉することは聖戦下では合法であるとするISILの見解を報道した。ウッドロウ・ウィルソン国際センターは、ISILが比較的高齢の女性捕虜については奴隷市場で売買し、若い女性捕虜についてはレイプするか結婚していると報告した。ただし、結婚については一時的なものであり、一度性交渉を行った後にすぐに他の兵士に譲るという家畜のような扱いをしている。2014年10月2日、国連は、8月にISILが450~500人の女性をイラクのニーナワー県に連行し、そのうち150人の未婚の女性についてはシリアに連行して兵士に報酬として与えたり、性奴隷として売買したと報告した。10月中旬、国連は、ISILが5000~7000人のヤズィーディー教徒の女性を拉致し、奴隷として売買したと報告した。2014年12月、イラクの人権省は、ISILがセックスジハード(前線兵士への性的サービス)への参加を拒否したイラクのファルージャ市在住の女性および少女150人を殺害したと報告した。


メモジャーナリストへの攻撃


ISILは何人もの地元のジャーナリストを拷問し、殺害している。アルジャジーラは、2013年12月にISILの自爆テロリスト2人がイラクのテレビ局のサラディーン本社を襲撃し、5人のジャーナリストを殺害したと報道した。2014年10月の時点でISILは9人のジャーナリストを拘束している。2013年から2014年の間に12人の欧米ジャーナリスト、支援活動家、および外国の民間人の計23~24人がISILの人質となった。このうち、ポーランド人ジャーナリスト1人は脱走に成功した。アメリカ人ジャーナリストの2人は斬首され、その映像が公表された。オランダ人・フランス人・スペイン人ジャーナリストの計8人は身代金と引き換えに解放された。イギリス人ジャーナリストと支援活動家の2人はまだ拘束されている。2015年1月8日、アル・アフバール紙は、リビアのISILメンバーが2014年9月に消息を絶ったチュニジア人ジャーナリストを処刑したと報道した。同じく2015年1月、ISILは、ラッカへ移動中の日本人ジャーナリストの後藤健二氏を拘束し、他の日本人と合わせて身代金2億ドルを要求した。


メモ斬首と大量処刑


数不明の多くのシリア人とイラク人、数人のレヴァノン兵士、少なくとも10人のクルド人、2人のアメリカ人ジャーナリスト、2人のイギリス人支援活動家、3人のリビア人がISILによって斬首されている。ISILは地域住民を脅す目的で斬首を行い、一連のプロパガンダ映像を通してその模様を西側諸国に伝えた。捕虜に自分たちの墓を掘らせた上でその前に一列に並ばせて銃殺することで墓に死体を落とすという行為を時折行っている。またファイナンシャルタイムス紙は、ISILがラッカからの脱走を企てた外国人兵士約100人を斬首したと報道した。


メモ文化的・宗教的遺産の破壊


UNESCOは、ISILが「文化の浄化」という名目でイラクの文化遺産(キリスト教徒、ヤズィーディー教徒、他の少数民族の古代文化遺産)を破壊していることを警告している。ISILは、活動資金を獲得するために、シリアとイラクから工芸品を盗み、売却目的でヨーロッパに密輸している。その利益は年間2億ドルにのぼる。またISILは、モスル博物館を占拠しているが、博物館所蔵の彫像がイスラム教に反するとして破壊を示唆する脅しをかけている。さらにISILは、墓前における崇拝行為が偶像崇拝と一致するとして、ブルドーザーを使って建築物や古代遺跡を破壊している。2014年7月、ISILは、預言者ヨナの墓と礼拝所、Imam Yahyaの13世紀のモスク、預言者Jerjisの14世紀の礼拝所を破壊するとともに12世紀のモスク内にあるHadbaの塔を破壊しようとした。ちなみに、歴史的崇拝遺産の破壊が戦争犯罪の一つであることは、ロンドン憲章とハーグ条約に明記されている。


メモ臓器の密売


SILは、無許可の医師による輸出チームを編成することで、兵士、捕虜、少数民族の子供を含む人質から臓器を摘出して売買するシステムを確立したと複数のメディアが報道した。


メモ生活コストの高騰


ISILは当初、石油の密売・強奪・身代金等で得た富を使って、食費と燃料費に対する補助金をISILを支持する住民に支給していた。しかしながら、2014年末になると、軍が支配する都市で物価が急騰し、施策が無力化している。デイリーメール紙によれば、有志連合がモスルとシリアで空爆と地上作戦を開始して以来、主食の価格は2倍以上になると同時に軍の拠点における物流が機能しなくなり、物不足、価格のつり上げ、ブラックマーケットが発生するにいたった。リットル当たりのガス価格は、イラク政府支配地域では450ディナールであるが、ISILが支配するモスルではその4倍である。同様に、灯油価格は、イラク政府支配地域での3万ディナールに対してモスルでは25万ディナールである。米50kgの価格は3カ月で1万ディナールから7万5千ディナールに、調理用ガスボンベ価格は14000ディナールに高騰した。



メモメモメモメモメモメモメモ



以上を読んでいただければ、ISILの極悪非道を大まかに把握することができるかと思います。なお、あまりお勧めしませんが、Wikipediaの一部の参考文献をたどれば、これらの蛮行がいかにむごたらしいかを写真で確認することができます。[例]


現在、日本では一人の日本人人質の後藤健二さんの命が重要視されています。もちろん後藤さんの命が非常に重要であることは疑いの余地がありません。なんとか無事に生還していただければと強く祈っている次第です。ただし、その命と同じように現在命の危険にさらされているおびただしい数の難民に対する人道支援も極めて重要であるということも疑いの余地がないと考えます。