論理的誤謬のサブリスト-8 不当帰納資料(情報偏向:記憶バイアス) | マスメディア報道のメソドロジー

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メモリ


帰納的推論は実験的に導いた経験的な原理と正しい情報を前提にして蓋然的な結論を導くものです。
換言すれば、帰納的推論によって正しく蓋然的結論を導くためには、次の3つの要件をクリアする必要があります。

・推論の「論証構造」が正しいこと
・推論の根拠となる理論的な「原理」が完全であること
・推論を記述する資料である「情報」が正しいこと

不当帰納情報は、このうち情報に偏りあるいは誤りがあるため、正しく結論を導くことができない場合を意味します。
不当情報が生じる原因としては、大別して情報偏向と情報歪曲があります。
この記事では情報偏向のうち記憶バイアスについて対象にします。

観察者が認知を行うにあたっては、観察者が過去に受けた経験に影響を受けますが、
その経験の記憶がバイアスを持っていることが知られています。
このバイアスは記憶バイアスと呼ばれています。

人間が情報を記憶するにあたっては、次のようなステップを通して情報処理されます。

記銘:情報を符号化して憶える
保持:情報を貯えておく
想起:情報を検索して想い出す

これらの各ステップで情報処理機能に障害が生じた場合に情報を忘却あるいは誤認することになります。
ここで、記憶バイアスの具体的な事例を分類すると次の2つに集約されます。

記憶選好:記憶の選好は情報特性と記憶プロセスに影響を受ける傾向がある。
記憶錯誤:特定の状況下において、記憶を錯誤する傾向がある。

以下、個別に説明します。

(1) 記憶選好

記憶の選好は、情報特性記憶プロセスに影響を受けることが知られています。
まず、情報特性という観点では、
情報が符号化・貯蔵・検索にどれだけ有利な特性を持っているかによって記憶機能の活性化/鎮静化が生じます。
一方、記憶の方法である記憶プロセスという観点では、
情報がどのようにして符号化され、貯えられ、検索されたかによって記憶機能の活性化/鎮静化が生じます。
つまり、情報特性は記憶選好の内的要因であり、記憶プロセスは記憶選好の外的要因であると言えます。
記憶選好によるバイアスをフィルタリングするためには、
この記憶選好の内的要因と外的要因をの影響を適正に把握することが重要です。

(2) 記憶錯誤

特定の状況下において、記憶の各ステップにおける情報処理機能のいずれかが不全を起こすと情報の忘却が起こり、
その上で各機能のいずれかに錯覚が生じると記憶を錯誤することになります。


以下に、このカテゴリーに属する誤謬のリストを示します。


I remember Clifford


[論理的誤謬のメインリスト] 演繹と帰納

[論理的誤謬のサブリスト-1] 不当演繹立論(形式的誤謬)
[論理的誤謬のサブリスト-2] 不当演繹原理(理論的原理不全)
[論理的誤謬のサブリスト-3] 不当演繹資料(概念曖昧と概念混同)
[論理的誤謬のサブリスト-4] 不当帰納立論(情報欠如)
[論理的誤謬のサブリスト-5] 不当帰納原理(経験的原理不全)
[論理的誤謬のサブリスト-6] 不当帰納資料(情報偏向:認知バイアス)
[論理的誤謬のサブリスト-7] 不当帰納資料(情報偏向:社会バイアス)
[論理的誤謬のサブリスト-8] 不当帰納資料(情報偏向:記憶バイアス)
[論理的誤謬のサブリスト-9] 不当帰納資料(情報歪曲)


B-3 不当帰納資料 invalid deductive documentation


B-3-3 記憶バイアス memory bias

(1) 記憶選好 memory preference

【フォン・レストルフ効果 Von Restorff effect】
目立つものは想起しやすい傾向がある。

【異様効果 bizarreness effect】
普通の事物よりも異様な事物の方が想起しやすい傾向がある。

【ユーモア効果 humor effect】
ユーモアが効いた情報は想起しやすい傾向がある。

【気分一致記憶バイアス mood-congruent memory bias】
その時の気分に一致する情報は想起しやすい傾向がある。

【思い出の突起 reminiscence bump】
思春期から青春期の個人的思い出は想起しやすい傾向がある。

【系列位置効果 serial position effect】
最初と最後に記憶した情報は想起しやすい傾向がある。

【コンテクスト効果 context effect / cue-dependent forgetting】
たどる手がかりがある/ない記憶は想起しやすい/しにくい傾向がある。

【自己関連付け効果 self-reference effect】
自己に関連付けて記銘した記憶は想起しやすい傾向がある。

【自己関連効果 self-relevance effect】
他人と関係のある記憶よりも自分と関係のある記憶の方が想起しやすい傾向がある。

【自己創造効果 generation effect / self-generation effect】
自分が創造した情報は想起しやすい傾向がある。

【モダリティ効果 modality effect】
視覚よりも聴覚を通して受け取る情報(特に最後に受け取る情報)の方が想起しやすい傾向がある。

【画像優位性効果 picture superiority effect】
文字による学習よりも画像による学習の方が内容を想起しやすい傾向がある。

【テスト効果 testing effect】
聞いたり書いたりするよりもテストをした方が情報を長期間保持して想起しやすい傾向がある。

【再現期間効果 spacing effect / lag effect】
短期間毎に繰り返し提示される情報よりも長期間毎に繰り返し提示される情報の方が想起しやすい傾向がある。

【ツァイガルニク効果 Zeigarnik effect】
完成されたタスクよりも未完成のタスクの方が想起しやすい傾向がある。

【初頭効果 primacy effect】
最初に示されたものをより鮮明に想起する傾向がある。

【親近効果 recency effect】
最後に示されたものをより鮮明に想起する傾向がある。

【男女差の目撃記憶 gender differences in eyewitness memory】
目撃者は同性の人物に関する情報をより詳細に想起する傾向がある。

【ポリアンナの原理 Pollyanna principle】
ネガティブなことよりもポジティブなことをより正確に想起する傾向がある。

【逐語的効果 verbatim effect / fuzzy-trace theogy】
説明の記憶において、聞いたままの言葉よりもその主旨を想起する傾向がある。

【持続性 persistence】
トラウマとなっている事象を想起したくない傾向がある。

【幼児健忘 childhood amnesia】
3歳以前の記憶は想起できない傾向がある。

【処理困難効果 processing difficulty effect】
取得に困難を要する情報ほど記銘する傾向がある。

【順番待ち効果 next-in-line effect】
自分が話す順番が次に来るときに提供される情報は記銘しにくい傾向がある。

【選択的知覚 selective perception】
不快な情報の記銘を拒絶し、すぐに忘却する傾向がある。

【記憶忘却バイアス fading affect bias】
ポジティブな記憶よりもネガティブな記憶を忘却する傾向がある。

【グーグル効果 Google effect】
国際的サーチエンジンによってオンライン検索できる情報は忘却しやすい傾向がある。

【記憶抑制 memory inhibition】
無意味な情報を記銘・保持・想起しない傾向がある。

【想起バイアス recall bias】
関連する先験情報の有無により記憶の想起に差が生じる傾向がある。

【処理水準効果 levels-of-processing effect】
情報の記憶方法の違いによって想起のレベルが異なる。

【舌先現象 tip of the tongue phenomenon】
多数の同様の記憶が想起されて互いに妨害するため、事物の一部を想起できても全体を想起できないことがある。

【リスト長効果 list-length effect】
情報が多いほど、記憶する件数は多くなるが、記憶する割合は少なくなる傾向がある。

【マジカルナンバー7±2 magical seven plus or minus two】
短期記憶におけるチャンク(情報のユニット)の記憶可能容量は5~9個である。

(2) 記憶錯誤 paramnesia

【過誤記憶 false memory】
詐称の意図なしに、誤った記憶を想起することがある。

【一貫性バイアス consistency bias】
過去と現在は一貫しているとして、過去の意識と行動を誤って記憶する傾向がある。

【選択支持バイアス choice-supportive bias】
過去に自分が行った選択を実際よりも高評価する傾向がある。

【平準化と強調化 leveling and sharpening】
平準化による情報の喪失と強調化による情報の不当選択によって記憶が歪められる傾向がある。

【誤情報効果 misinformation effect】
事後情報が影響して記憶が不正確になることがある。

【バラ色の記憶 rosy retrospection】
過去の記憶を実際よりも美化する傾向がある。

【クリプトムネシア cryptomnesia】
自分の経験に基づかない記憶を自分のオリジナルな創造であると誤認する傾向がある。

【情報源の混同 source confusion】
歪められた記憶を創出することで、挿話的な記憶と他の情報を混同する傾向がある。

【スリーパー効果 sleeper effect】
情報の内容よりも信頼性の程度の忘却が早いため、時間とともに信頼性の低い情報の信頼性が高まる傾向がある。

【テレスコーピング効果 telescoping effect】
近い/遠い過去の事象を実際よりも古く/新しく感じる傾向がある。