論理的誤謬のサブリスト-7 不当帰納資料(情報偏向:社会的バイアス) | マスメディア報道のメソドロジー

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マスメディア報道の論理的誤謬(ごびゅう:logical fallacy)の分析と情報リテラシーの向上をメインのアジェンダに、できる限りココロをなくして記事を書いていきたいと思っています(笑)

社交界


帰納的推論は実験的に導いた経験的な原理と正しい情報を前提にして蓋然的な結論を導くものです。
換言すれば、帰納的推論によって正しく蓋然的結論を導くためには、次の3つの要件をクリアする必要があります。

・推論の「論証構造」が正しいこと
・推論の根拠となる理論的な「原理」が完全であること
・推論を記述する資料である「情報」が正しいこと

不当帰納情報は、このうち情報に偏りあるいは誤りがあるため、正しく結論を導くことができない場合を意味します。
不当情報が生じる原因としては、大別して情報偏向と情報歪曲があります。
この記事では情報偏向のうち社会バイアスについて対象にします。

この世界は、個人がそれぞれ単独に存在しているわけではなく、社会を形成して他者と共存しています。
その社会のシステムによって生じる認知バイアスがここで取り扱う社会バイアスです。

ここで、社会バイアスの具体的な事例を分類すると次の5つに集約されます。

自己意識と他者意識:自分および他者を意識することが意思・判断・行動に影響を与える傾向がある。
集団意識:集団を意識することが意思・判断・行動に影響を与える傾向がある。
内的要因と外的要因:社会的属性と内的/外的要因の関係性に先入観を持つ傾向がある。
社会的過剰評価:社会的属性を根拠にして事物を過剰評価する傾向がある。
社会的錯覚:特定の状況下において、社会的認識を錯誤する傾向がある。

以下、個別に説明していきます。

(1) 自己意識と他者意識

人間は、他者の存在によって逆に自我に目覚めると同時に自分を他者の視点から捉える意識を持つことになります。
そしてこの意識が、ときに現実を不当に歪めて、自分の意思・判断・行動に影響を与えることになります。

(2) 集団意識

人間は個人・対人レベルで生じる心理に従って集団を構成し、
集団を構成することで生じる心理に従って他の集団との関係を構成します。
これはある意味、神が設計したかどうかわかりませんが、ケイオス的な決定論的挙動であると解釈することができます。
この認知バイアスは、町内会から国際社会までの様々な社会レベルに共通した社会秩序の時空間挙動を規定する
基本原則になっている可能性があります。

(3) 内的要因と外的要因

人間は、自分・他者・自分が帰属する内集団・自分が帰属していない外集団といった社会的属性
内的要因(素因:社会それ自体がもっている性質)・外的要因(誘因:社会の意思・判断・行動に影響を与えるトリガー)
との関係性に先入観・偏見を持つ傾向があります。
この先入観・偏見は、痴話喧嘩から戦争までの様々な社会レベルにおけるディスピュートの本質的要因になっています。

(4) 社会的過剰評価

個人にとって、自分と他者のフレームワークは必然的に与えられた前提であり、
しばしば自分に対して過大評価しますが、このことは極めて自然な現象であるかと思います。
これには、自己という自分にだけ存在する特異な存在を特別視する心理効果や、
個人の利益追求を動機とした自己アピールとの混同など、種々の要因が影響を与えているものと考えられます。
一方、人間は家族を皮切りに様々な集団に帰属するのが普通です。
人間がある集団に帰属する本質的な理由は、その集団に帰属することによって恩恵が得られるか、
その集団の規範を支持しているかのいずれかであると考えられます。
この帰属を根拠とする状況対人論証によって、誤った過剰評価が生じるのも極めて自然な現象であると考えられます。

(5) 社会的錯覚

認知における錯覚は社会的認知というコンテクストにおいても生じます。
その内容は、主として社会的過剰評価の延長と他者や集団に対する妄想と言えるかと思います。
他者の内面を勝手に解釈して錯覚するパターンがそのほとんどであると言えます。


以下に、このカテゴリーに属する誤謬のリストを示します。


アリvs猪木


[論理的誤謬のメインリスト] 演繹と帰納

[論理的誤謬のサブリスト-1] 不当演繹立論(形式的誤謬)
[論理的誤謬のサブリスト-2] 不当演繹原理(理論的原理不全)
[論理的誤謬のサブリスト-3] 不当演繹資料(概念曖昧と概念混同)
[論理的誤謬のサブリスト-4] 不当帰納立論(情報欠如)
[論理的誤謬のサブリスト-5] 不当帰納原理(経験的原理不全)
[論理的誤謬のサブリスト-6] 不当帰納資料(情報偏向:認知バイアス)
[論理的誤謬のサブリスト-7] 不当帰納資料(情報偏向:社会バイアス)
[論理的誤謬のサブリスト-8] 不当帰納資料(情報偏向:記憶バイアス)
[論理的誤謬のサブリスト-9] 不当帰納資料(情報歪曲)


B-3 不当帰納資料 invalid deductive documentation


B-3-2 社会バイアス social bias

(1) 自己意識と他者意識 self-consciousness & other-consciousness

【文化的バイアス cultural bias】
自分が持つ固有の文化の価値観で現象を解釈・評価する傾向がある。

【異人種効果 cross-race effect】
自分と同じ/異なる人種に関しては、個人を同定しやすい/しにくい傾向がある。

【平均未満効果 worse-than-average effect】
自分は平均よりも劣っていると信じる傾向がある。

【社会的比較バイアス social comparison bias】
自分よりも身体的・精神的に優れていると思われる人物に敵対心を持つ傾向がある。

【平均以上バイアス better-than-average bias】
自分との比較対象として、自分よりも劣っている人物を選好する傾向がある。

【マクベス効果 Lady Macbeth effect】
無意識に自分の過ちを恥じる傾向がある。

【バイアスの盲点 bias blind spot】
自分/他者が犯したバイアスは認識しにくい/しやすい傾向がある。

【未熟なシニシズム naive cynicism】
他者がより多くの自己中心的バイアスを犯すことを期待する傾向がある。

【正直バイアス honesty bias】
一般的に他者は正直であると信じる傾向がある。

【評価懸念 evaluation apprehension】
他者からのネガティブな評価を恐れて自分の意思とは異なった行動をする傾向がある。

【ダブルバインド double bind】
互いに矛盾する言説について二者択一を迫られたとき、他者への感情的配慮から回答に窮する傾向がある。

【同調 conformity bias】
行動選択にあたって、他者の一般的な行動に同調する傾向がある。

【傍観者効果 bystander effect】
周辺に他者が多くいるとき、責任の分散を認識して行うべき行動を抑制する傾向がある。

【社会的手抜き social loafing】
1人で働くときよりも集団で働くときの方が目標に向かって努力しない傾向がある。

【モラル信任効果 moral credential effect】
自分の倫理的な行動が他者に認知されたとき、少々の非倫理的な行動を犯しても他者は許容すると考える傾向がある。

【反対者バイアス contrarian bias】
権力者に悪意を持つと同時に、自分が自由意思を持つことを証明するため、権力者の言説に反対する傾向がある。

【目には目を two wrongs make a right】
他者から被害を受けたとき、その加害者に同様の被害を与えることは正当な行為であると考える傾向がある。

【ピグマリオン効果 pygmalion effect】
他者から期待されると結果が良くなる傾向がある。

【心理的リアクタンス reactance】
他者から強制されると抵抗を感じて正反対の行動をとる傾向がある。

【ロミオとジュリエット効果 Romeo and Juliet effect】
自分の行動に対して社会的障害を感じている方が行動目標を達成しようとする動機付けが強い傾向がある。

【ベンジャミン・フランクリン効果 Ben Franklin effect】
敵に何かを頼むと、敵が持つ自分に対する敵意が消える傾向がある。

【ホーソン効果 Hawthorne effect / observer effect】
被管理者は、管理者の期待に応えるよう行動する傾向がある。

【黙従バイアス acquiescence bias】
アンケートの被験者は、質問に含まれた暗示を肯定的にとらえて回答する傾向がある。

【ジョン・ヘンリー効果 John Henry effect】
社会実験にあたって、実証効果の比較対象となった被験集団は、仮説を棄却するために努力する傾向がある。

【反応バイアス response bias】
社会調査にあたって、調査方法や被験者の性向(調査者の期待を察した回答の創作)が結果を偏向させる傾向がある。

【観測者の期待効果 observer-expectancy effect】
社会から期待されている成果を得るため、研究者は無意識に実験を操作し、データを誤解釈してしまう傾向がある。

【研究テーマの期待効果 subject-expectancy effect】
一定の結果が期待される研究テーマおいて、研究者は無意識に実験を操作し、データを誤解釈してしまう傾向がある。

(2) 集団意識 collective consciousness

【群居本能 herd instinct】
人間を含む一部の生物は群れを成す傾向がある。

【容貌バイアス look-alikes bias】
自分と似たような容貌の人と仲間になることを選好する傾向がある。

【マインドセット mindset】
集団には思考の基本的枠組みが存在する傾向がある。

【集団思考/集団浅慮 groupthink bias】
集団の意思決定にあたって、集団の規範が優先され、個々の思考よりも劣った結論が導かれる傾向がある。

【多元的無知 pluralistic ignorance】
集団の構成員は、他の構成員が集団の規範を支持していると信じる傾向がある。

【情報共有のバイアス shared information bias】
集団の構成員は、すべて/一部の構成員が共有する情報をよく議論する/あまり議論しない傾向がある。

【集団極性化 group polarization】
集団の意思決定にあたって、危険を選好するリスキーシフトと安全を選好するコーシャスシフトに二極化する傾向がある。

【主張の極性化 attitude polarization】
集団間の論争にはそれぞれの立場を防衛する意識が働き、主張の相違がより大きくなる傾向がある。

【知識の呪い curse of knowledge】
専門知識を持つ集団は、専門知識を持たない集団の考えを察することが非常に困難であると考える傾向がある。

【特定可能な犠牲者効果 identifiable victim effect】
集団ではない特定可能な一個人が危機に面しているとき、より手厚く援助する傾向がある。

(3) 内的要因と外的要因 intrinsic and extrinsic factors

【基礎的な帰属の誤り fundamental attribution error】
人物の評価にあたって、内的/外的要因を重視/軽視する傾向がある。

【究極の帰属の誤り ultimate attribution error】
内/外集団による行動に対して、正/負の面は構成員の資質に、負/正の面は偶然に起因すると解釈する傾向がある。

【陽性効果 positivity effect】
好意を持つ人物のポジティブ/ネガティブな行動を内的/外的要因に結び付ける傾向がある。

【陰性効果 negativity effect】
嫌いな人物のポジティブ/ネガティブな行動の評価を外的/内的要因に結び付ける傾向がある。

【特色付与バイアス trait ascription bias】
他者の特色を分析するにあたって、外的/内的要因を過小/過大評価する傾向がある。

【俳優と観客の非対称性 actor-observer asymmetry】
自分/他者の行動評価にあたって、外的/内的要因の影響を強調し、内的/外的要因の影響をぼかす傾向がある。

【快楽主義的関連付け hedonistic relevance】
被験者の行動により損害が発生したとき、実験者は外的要因を無視して被験者の内的要因を問題視する傾向がある。

【外発的動機づけバイアス extrinsic incentives bias】
内発的動機づけよりも外発的動機づけを選好する傾向がある。

【過剰正当化効果 overjustification effect / undermining effect】
外発的動機づけを受けとることで内発的動機づけが低下する傾向がある。

【集団の行動動機のバイアス group-serving bias】
内集団/外集団の構成員の行動の動機は原理原則/情勢であると信じる傾向がある。

【非個別化 deindividualisation】
人種・ジェンダー・信条などの内的属性に対する先入観で人物を評価する傾向がある。

【自己中心性バイアス egocentric bias】
他者よりも自分に利益をもたらす外的条件を選好する傾向がある。

【自己奉仕バイアス self-serving bias】
成功/失敗の要因は自分/他者にあると考える傾向がある。

(4) 社会的過剰評価 self-overestimation and other-underestimation

【ダニング=クルーガー効果 Dunning-Kruger effect】
未熟な人物ほど自分を過大評価する傾向がある。

【自信過剰効果 overconfidence effect】
問題に対する自分の回答を過大評価する傾向がある。

【自制バイアス restraint bias】
誘惑に対する自制心を過大評価する傾向がある。

【授かり効果 endowment effect】
自分の所有物を過大評価する傾向がある

【負け惜しみ sour grapes】
自分が所有できていない事物を他人が所有しているとき、過小評価する傾向がある。

【正常性バイアス normalcy bias】
自分に危機が迫っているとき、その危機の発生確率と被害を過小評価する傾向がある。

【仲間との相互作用 peer interactions】
仲間が発信した情報を過大評価する傾向がある。

【反射的値引き効果 reactive devaluation】
敵対者の言説を内容に拘わらず過小評価する傾向がある。

【帰属バイアス attribution bias】
内集団/外集団は内集団を過大/過小評価する傾向がある。

【内集団バイアス/身びいき in-group bias / in-group favoritism】
内集団の構成員の属性を過大評価する傾向がある。

【防衛的帰属仮説 defensive attribution hypothesis】
集団間の論争にあたって、将来自分が所属する可能性がある集団を過大評価する傾向がある。

【外集団同質性バイアス outgroup homogeneity bias】
内集団/外集団の構成員の多様性を過大/過小評価する傾向がある。

【チアリーダー効果 cheerleader effect】
集団に所属している/所属していない人物の魅力を過大/過小評価する傾向がある。

【敵意あるメディアのバイアス hostile media bias】
あるメディアが偏向していると認識されたとき、そのメディアが発信する情報の信憑性を過小評価する傾向がある。

【社会的嗜好性バイアス social desirability bias】
社会的嗜好性が高い/低い事物を過大/過小評価する傾向がある。

【心理学的誘発効果 valence effect】
社会的嗜好性が高い事象が生起する確率を過大評価する傾向がある。

【社会的証明 social proof】
社会的認知度の高い/低い事物を過大評価/過小評価する傾向がある。

(5) 社会的錯覚 social illusion

【ポジティブの錯誤 positive illusions】
錯覚により信じられないほど自分および親密な人物を肯定する傾向がある。

【優越性の錯覚 illusory superiority】
他者よりも自分は高い資質や可能性を持っていると錯覚する傾向がある。

【誇大妄想 grandiose delusions】
ときに、現実世界から逸脱して、自分が極めて優れた属性や事績をもっていると錯覚する傾向がある。

【未熟なリアリズム naive realism】
自分が知覚している現実こそが本物の現実であると錯覚する傾向がある。

【自己充足的予言 self-fulfilling prophecy】
自分が行った予言に沿って無意識に行動して予言を実現させたにも拘わらず、予言が的中したと錯覚する傾向がある。

【投影バイアス projection bias / false consensus effect】
他者も自分と同様の考えをもっていると錯覚する傾向がある。

【非対称な洞察力の錯覚 illusion of asymmetric insight】
他者が持つ自分に関する知識よりも自分が持つ他者に関する知識の方が豊富であると錯覚する傾向がある。

【透明性の錯覚 illusion of transparency】
他者に自分の心理状態を実際よりも見透かされていると錯覚する傾向がある。

【オセロのエラー othello error】
嘘をついていると他者に疑われることを恐れて不安な表情を見せる正直な人物を嘘をついていると錯覚する傾向がある。

【自己標的バイアス self-as-target bias】
他者が自分を不当にターゲットにしていると錯覚する傾向がある。

【被害妄想 persecutory delusions】
ときに、他者の悪意によって自分が不当に被害を受けていると錯覚する傾向がある。

【外的作用の錯覚 illusion of external agency】
内的作用ではなく何かしらの外的作用によって満足感が生まれていると錯覚する傾向がある。

【美人ステレオタイプ physical attractiveness stereotype】
外見が魅力的な人物は、その人格も社会的に望ましいと錯覚する傾向がある。

【集団の帰属の誤り group attribution error】
個々の構成員の属性は集団全体の属性を反映し、集団の意思決定は構成員の選好を反映すると錯覚する傾向がある。

【先験的処遇バイアス prior treatment bias】
嫌いな/好きな人物を害する/助ける想像を抱くのは過去にその人物に害された/助けられたことによる傾向がある。