kawanobu日記/プーチン第2期体制に向けてロシアの背負うお荷物と腐った足元;ジャンル=現代史 画像1

 4日、ロシア大統領選で首相プーチンが、一発で当選を決めた。得票率約64%とはリブパブリの予想より多かったが、ほぼ想定どおりの結果と言えた。

腐りきったロシア社会をどうする?
 しかし2000~08年までの前8年間の第1期より、第2期プーチン体制の舵取りは難しくなるだろう。
 それは、第2期プーチン体制の6年間で、ロシアが先進国の一員になれるか、それとも途上国のままに留まるかが決まるからだ。
 むろん政治的自由の拡大を認めることは最低限度だが、ともかく閉塞したロシア社会の変革は、待ったなしだということだ。政治的自由の拡大がなるかどうか、強権的なプーチンの体質から懐疑的にならざるを得ないが、それと表裏一体の改革は、もはや放置できないレベルだと思われる。
 ともかくロシアの社会は腐りきっている。何をするにも賄賂が必要なのだ。
 行政の許認可を取るにも、事務手続きを進めてもらうにも、賄賂が要る。

レストランのメニュー1つに30センチもの厚さの書類が必要
 例えばロシアで商品を販売する場合、すべての品目を国家に登録する義務がある。ソ連の社会主義体制は、もう21年前に崩壊しているのに、その社会主義体制特有の規制は、相変わらずそのままなのだ。
 飲食店でさえ、食材1つ1つを2週間ごとに登録しなければならず、1つのメニューで書類の厚さが30センチ(!)を超えることもあるという。社会主義体制の残りかす、恐るべし。
 面倒だからと手続きを怠ると、罰金だ。むろん取締り当局にはそんな人手はない。しかし、それが難癖を付けられるきっかけになるのだ。
 逆に取締り当局から見れば、どこの飲食店も店舗も必ず違反をしていることになるから、みかじめ料を取りたいと思った時は、片っ端から査察すればよい。査察すれば、些細な違反は確実に見つかるから、営業停止と罰金を言い渡せる。

役人への提出書類1枚につき500ドル?
 店は、それでは困るから、査察に入った係官に袖の下を渡し、継続的にみかじめ料を払うことを約束するハメになる。
 そして許認可がスムーズに運ぶようにするために、提出書類に現ナマを添える形式が出来た。現在、提出書類1枚につき500ドル相当額を役人に払うのが相場なのだという。かくて、国内GDPの2割を汚職によるヤミ経済が占めるまでになった。
 非効率でサービス精神ゼロの行政という社会主義的体質は筋金入りだが(逆にそれで欧米には不必要な木っ端役人を大量に雇用するという雇用創出効果を生んでいるが)、その体質にプーチン体制になってからの汚職体質が結合した。つまり汚職は、システム化されてしまっているのだ。
 最初はプーチン出身のKGBの流れを汲む「シロヴィキ」が新興財閥「オリガルヒ」と結託した腐敗だったろうが、プーチンが何も妨げなかったので、次第に下っ端まで「それならオレたちも」と見習うようになり、官僚主義的非効率と腐敗のコンプレックスシステムが完成したというわけだ。

有為な若者は外国移住を目指す
 旧ソ連では、ルーブルはあっても物がなかったので(ドル以外は通貨ではなかった)、非効率体制はあってもこれほどの汚職はなかった。ルーブルで賄賂をもらっても、役人には使い道がないからだ。
 こうした社会では、ベンチャー企業も育つわけはない。どんなに創造力に富む若者も、コネとカネがなければ、何もやれないからだ。
 モスクワ大学などエリート大学生の卒業後の道は、たった3つしかない。外国に移住するか、公務員になるか、国有企業に入るか、だ。後2者の場合は、コネが必要だ
 だから若者たちは、能力がある者ほど外国に移住したい願望をつのらせる(11年9月26日付日記:「解体の芽もはらむ『ヤミ社会』ロシアの大統領にプーチンが復帰へ;汚職、高コスト道路建設事情、高まる国外移住熱、極東の人口減」を参照)。年間40万から50万人の有為な若者が国を見捨てているのも、上記を見れば当然だ。

天然資源に頼る以外、何もない
 00年から始まった第1期プーチン体制が成功したのは、2年間で6000%ものハイパーインフレに象徴されるエリツィン時代のカオス状態を誰もが抑えて欲しいと望んだからだ。強権で、インフレとカオスは抑え込んだ。そこに原油高の追い風まで吹いた。
 逆に原油高が、ロシア社会の足腰を弱めたとも言える。
 ロシア経済の根本的欠陥は、資源・食料の一次産品と旧ソ連時代の遺産の兵器しか輸出品目がないことだ。工業は、全く育たなかった。地下から原油と天然ガスを掘り出すだけで国が成り立っていたのだから、工業の育成に誰も本気で取り組まなかった
 前述したように行政の許認可手続きの煩雑さと賄賂というバリアーを乗り越えたしとても、生産に必要な素材も部品もない。何しろ旧ソ連時代には、工業の70%は軍需だったから、民需用の素材や部品は何もないのだ。
 つまり工業が育つインフラが存在しない。

世界唯一の跛行経済国家、それがロシアだ
 だから宇宙船を打ち上げ、空母と大陸間弾道弾も持つ国なのに、消費者向け工業生産はほぼ外国製だ。高級品はドイツなどの欧米製で、安価な品は中国製というふうに。これほどの跛行経済の国は、世界に他にないのではないか。
 そうした国でもいい、とプーチンが考えているとすれば、ロシアは変わらない。しかし発展した工業国にしたいと思えば、政治的自由の他に、官僚的非効率・汚職のコンプレックスシステムを根本から変えるしかない。
 シロヴィキと結託してロシア統治に無法の限りを尽くしてきたプーチンに改革ができるか、と問えば、難しいと答えざるをえない。
 すると、いずれロシアには老人と非熟練・低学力の若者だけの国家になる。そうなった時、肝心の天然資源関連のための人的資源も枯渇し、極東は膨張するスターリニスト中国に奪われることだろう。

北方領土解決はリップサービスか
 選挙前、日本を含む西側メディアの主筆級と会見し、日本に対して北方領土問題解決に意欲を示したそうだが、プーチンの頭の片隅には、膨張するスターリニスト中国への牽制要因としての日本があったのは間違いない。
 なお極東ロシアの人口減とスターリニスト中国の野心については、11年9月27日付日記:「北極海の波高し、日本海への出口を求める中国の意図は;北京条約、沿海州割譲、山丹交易」も参照されたい。
 写真は、勝利宣言の壇上で感極まって涙するプーチン。

昨年の今日の日記:「許せない無責任男にしてペテン師の細川律夫こそ問責に値する」