kawanobu日記/1000年前、アイスランドに向けてインディアン女性が海を渡った。ヴァイキングとの出会い;ジャンル=人類学、遺伝学、考古学 画像1

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 リーマン・ショック後のヨーロッパ金融危機の震源地となった現在のアイスランドの国民の一部には、1000年前頃のアメリカ先住民(いわゆる「インディアン」)の血が混じっているかもしれないという研究報告が、このほどなされた。いささか古いが11月10日付の「American Journal of Physical Anthropology」誌オンライン版で発表された。

1000年前、カナダに植民したヴァイキング
 今から約1000年前の西暦1000年直前に、ノルウェー起源でアイスランドに定着していたヴァイキングが、コロンブスに500年ほど先立って北アメリカ大陸に上陸していたことは、3年ほど前に別の日記で触れたことがある(07年7月7日付GREE日記:「大洋を渡った北と南の古代航海者たち:パレオインディアン、ヴァイキング、サツマイモ」)。
 彼らは、「ヴィンランド」というその土地(現在のカナダ、ニューファウンドランド島辺り)に植民し、そこで10年間近くも定住集落を営み、最初の白人系アメリカ人も出生した。ランス・オー・メドーズ遺跡は、この時の住居跡だと見られる。
 また「サガ」と呼ばれる説話では、「スクレーリング」という先住民と、武力紛争も起こしたと伝えられている。先住民との衝突は、500年後に、スペイン人が南北アメリカ大陸各地で、先住民帝国(メソアメリカではアステカ帝国、アンデスではタワンティンスーヨ=インカ帝国)と、戦火を交えた末に滅ぼしたことからも、十分にありえる。
 しかしサガは、スクレーリングとヴァイキングが通婚したとは伝えていない。

現住4家系のアイスランド国民に先住民由来の遺伝子変異
 アイスランドはかつて全国民の遺伝情報を収集したことで有名だが(現在は公表を凍結中)、母系遺伝するミトコンドリアDNA(mtDNA)を解析した結果、4家系の80人を超えるアイスランド人が、主にアメリカ先住民由来の遺伝子と類似した変異を持つことがわかった。いずれも1人の女性に由来する可能性が高いという。
 ヴィンランドの「定住」時にヴァイキング植民者がアメリカ先住民女性と交雑したか、本国のアイスランドに引き揚げる際に少なくとも1人の先住民女性を連れ帰った可能性があるという。
 根拠となった先住民由来の4家系に見られるmtDNAの遺伝的変異の元をたどると、西暦1700年頃より前に生まれた4人の女性に行き着く。mtDNAの変異を計算すると、アイスランド人にもともとの先住民由来の遺伝子が入ったのは、1700年より数百年の前のことだという。

小氷期でグリーンランドのヴァイキング社会は崩壊・絶滅
 1700年頃というと、北半球が寒冷化した小氷期(14~19世紀半ば)の最盛期であり、日本でも小氷期後半には享保の大飢饉など4大飢饉が起こっている。ロンドンのテムズ川は、凍結したという。
 グリーンランドに築かれていたアイスランドからのヴァイキング植民者たちは、グリーンランドで農作物は育たなくなり、やむなく先史エスキモー文化であるチューレ文化人同様に海獣猟狩猟民に転じた。しかし本国のアイスランドとの交流も途絶え、グリーンランド植民地社会はほどなく崩壊している。
 この歴史事実も、ヴァイキングにアメリカ先住民の変異が入り込んだのが西暦1000年頃の可能性を高める。

アイスランドに血筋をもたらしたアメリカ先住民は絶滅
 最初の白人アメリカ人であったヴァイキングが遭遇した「スクレーリング」が、エスキモー(イヌイット=チューレ文化人)だったのか、アメリカ先住民(いわゆる先史インディアン)だったのかは不明だが、今回の研究で後者であることがほぼ確実となった。
 なぜならヴァイキングがグリーンランドに植民地を築いた時にいた先住民であるチューレ文化人の子孫である現在のイヌイットに、関連の変異が全く存在しないからだ。またこのことも、先住民遺伝子の入り込んだのが西暦1000年頃の可能性を補強する。
 なお現在のアメリカ先住民は、アイスランドの4家系と全く同じ遺伝的変異を持たない。ただ、関連のある遺伝的変異はいくつも存在するが、その95%がアメリカ先住民から見つかっているという。このため、ヴァイキングに遺伝的変異を持ち込んだ先住民の母集団は、17世紀に白人植民者がこの地に再入植後に絶滅したと思われるという。
 先週、NHKで『坂の上の雲 第1部』を再放送していた。あの時、ナイアガラ大瀑布を見物に一緒に行った駐米武官の秋山真之にアメリカ暮らしの長い高橋是清が「白人がイロコワ族に武器を与えてインディアン他部族を全滅させた」と教えていたが、それはこの頃の話である。
 写真は、ノルウェーのオスロ近郊ゴクスタトで今から1世紀以上前の1880年に発掘されたヴァイキング船と、その復元。

昨年の今日の日記:「ベトナム、カンボジアの旅:ハノイ散歩②、ベトナム歴史博物館、オペラハウスなど」