§君の視界 後編
「最上さん!今夜いつもみたいに・・・」
「敦賀さん!?ごめんなさいっ!!今日は工房に行く事になっているのでっ」
「最上さん、今から休憩なんだけど・・・」
「え!?すみません・・・今から工房スタッフの人たちとランチしに行くので・・」
「最上さん!!!」
「敦賀さん!?離して下さい!!今からドラマの撮影なんですっ」
ただでさえ扱いが、ぞんざいになっていたのに・・・ここ三ヶ月の間にキョーコは工房への出入りに熱を上げ、二人の距離をどんどん引き離していった。
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「はあああああああああああ~~~~っ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
控え室で体中の空気が無くなるのではないかというほど深いため息をつく蓮に社は、笑顔を張り付かせたまま部屋の隅で固まった。
「・・・・・・社さん」
「は!!?・・・・・はい?」
地獄の底から発せられたような声色に社は一気に直立不動になった。
「・・・・・俺・・・・・もう・・だめかも知れません・・・・・」
どおおおおおん・・・と沈み込む蓮に社の方が断末魔を上げた。
「れっれえええええん!!頼む!!あと一時間は『敦賀 蓮』になっていてくれ!?俺が何とかするから!!!」
滂沱の涙を流し、蓮をなんとかブラックホールから引きずり出した社は控え室から出て廊下でキョーコに電話をかけた。
『はい、最上です』
「あ、俺!社だけど・・・今いい?」
『あ・・・もうすぐ飛行機に乗るので・・・何か急用ですか?』
「え!?ひ・・飛行機って!?」
『2日ほどオフになるので、工房の皆さんの計らいで宝石工場があるシンガポールに行ってくるんです♪』
(きゃああああああああ!!?∑(゚Д゚)・・・・・・・お・・・終わった・・・・・orz・・・チーン)
社がキョーコの言葉で灰になっているとは露知らず、キョーコは電話口で楽しそうに旅行の日程などを話すと時間になったと電話を切ってしまった。
「・・・社さん?・・・どうなりましたか?」
少し期待の目で社を見つめる蓮にどう言い訳しようかと大量の汗を噴出させる男、社 倖一は震える手で最後の頼みの綱に電話をするしか出来なかった。
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「京子さん!あっちがスワロフスキー工場になります」
「はい!!今行きます!!」
意気揚々とシンガポールの地に降り立ち、ホテルに荷物を置いたキョーコは工房オーナーに連れられて広大な敷地面積を持つ宝石店お抱えの工場にやってきた。
敷地内も、工場内も清潔感溢れるものでその中でキラキラと輝きを増していくガラスたちにキョーコの視線は釘付けになった。
「京子さんがこれほどまで協力してくれるなんて・・・本当に感激です!!」
工房オーナーは高揚した顔で笑顔を作りキョーコを見下ろすと、その華奢な手を取った。
「これからも・・・私たちにお付き合いいただけますか?」
真剣な表情のオーナーにキョーコはにっこりと微笑んで頷こうとした瞬間、ぐんっと後ろに引かれ少しばかり硬い温もりに包まれた。
「っはあ・・・はあ・・・はあ・・・」
息を切らすその温もりに驚いて、きつく抱きしめられながらもモガモガと振り返ったキョーコはその光景が信じられないと目を見張った。
「つ、敦賀さん!?ど、どうしてここに!!?」
「最上さんっ・・・・すきだっ!」
息を切らしながらも蓮は驚いているキョーコにそう告げると、キョーコは小さくため息をついた。
「・・・敦賀さん・・そんなことを言うためにこんなとこまで来られたんですか?」
少し怒ってみせるキョーコに呆然としたのは蓮だけではなかった。
目の前で有名俳優と女優の熱愛を目撃させられた工房オーナーもキョーコの冷めた発言に唖然とした。
「そんなことって・・・君を愛してるって・・・他の誰にも渡したくないって、ここまで飛んできたんだよ!?」
「だから・・・いつもそんなことを仰っていると、本当に好きな方が出来た時に言葉の効力が無くなってしまいますよ?」
「・・・・それは今、十分に体感してるよ・・・」
キョーコを腕に込めながらもガックリと項垂れている蓮にキョーコはさらに追い討ちをかけた。
「敦賀さんはこんな後輩に好きだなんだといっている間に、本当に好きな方にちゃんと告白なさってはどうですか?私は練習台にもなりませんよ?」
「・・・・・練習台なんて思ってないよ!?」
「からかってらっしゃるんですね!?・・やっぱり・・・」
「どうしてそうなるんだ!?」
「だって!!私が敦賀さんを見ると急に顔を背けたり、無表情になって口数も少なくなって腕組みしちゃうじゃないですか!?」
「そ!それはっ・・・」
「それに・・・私は敦賀さんにとってはお子様過ぎて相手にもならないって以前仰ったじゃないですか!?」
「!?いつ!?・・・そんなこと言った覚えなんてないよ!?」
「直接は仰ってませんが、『何もしないよ、君には』・・・・そう仰いましたよね?」
「・・・・一体いつの話を・・・・」
頭を抱えたい気分の蓮は身に覚えがあるため、完全に否定する事も出来ずにキョーコが逃げないように腕の力を抜かない事に必死だった。
「確かに4年ほど前の話ですが、仰ったのは間違いないですよね!?」
「・・・・確かに・・・あの時は君に逃げられると困るから・・・少しでも嫌われたくないから、ああいってその場を誤魔化したんだ・・・まさか今になってそれがしっぺ返しでくるとは思わなかったけど・・・」
「だから敦賀さんの言葉は信じられないんです!!とにかく離して下さい!!今から工房を見学させてもらってデザインを固めないとっ!!」
「・・・嫌だ・・・」
「え!?」
「・・・・俺の視界は君でいっぱいなのに・・・君の視界に俺はこれっぽっちもいないなんて・・・・俺の言葉が信じられないなら・・・これなら・・信じてくれる?」
「へ?」
すると、蓮は苦しそうな表情の顔を困惑したままのキョーコにずいっと近づけると軽いリップ音をその唇で奏でた。
「!!!?つ、敦賀さん!?」
「・・・・始めの一回目は・・・ノーカウント・・だったよね?」
視線が絡み合う中で、蓮にそう呟かれ今されたことが現実のことなのか呆然としていたキョーコは意識を回復させる暇もなく、先ほどとは比べ物にもならないほど唇を深く合わされた。
「!?・・・んっ!?むうううう~っ!!?」
必死に抵抗するキョーコを強い視線と口づけで押さえつけると、しばらく周りの目も考えずにキョーコの唇を堪能した。
「っぷは!・・・つ、敦賀さん!?何を!?」
「君の視界を俺でいっぱいにしてみた」
突き離した蓮に自信満々にそう言われ、顎が外れそうなほど口をあんぐりと開けているキョーコに工房のオーナーが遠慮がちに声をかけた。
「あ・・・あのお~・・京子さん・・・込み合った話しのようなので・・・デザインの話しはまた後日でもいいですよ?」
「え!?はわっ!?あ、は、はいい!!すみません!!お見苦しものをお見せしてしまってっ!!」
呆然とする蓮の前で、キョーコは真っ赤になりながら頬を染めるオーナーに何度も頭を下げた。
オーナーが苦笑いで二人をおいて立ち去ると、蓮は恐る恐るキョーコに声をかけた。
「あ・・・あの・・・最上さん・・・デザインって・・・」
「もう!!敦賀さんのバカっ!!今回のCM撮影の時にローザ様のデザインを気に入ってもらって、私がデザインしたブレスレットとネックレスを特別コラボ商品として作ってくださる事になっていたんです!!今回のこの工場見学も大事なお仕事だったのに!!」
羞恥と悔しさで涙を滲ませながらはむかうキョーコに蓮は、ひたすら頭を下げるしかなかった。
「本当にごめん!!君が工房のオーナーと二人っきりで旅行に来たって社長と社さんから聞かされたから・・・いてもたってもいられなくて・・・」
「え!?社さんにはちゃんと『工房のみんなで』って伝えましたよ?それに、社長さんも今回の旅行は仕事の一環だということをご存知のはず・・・・・」
そこまで言われて蓮は、ガックリとその場に膝を付いた。
「もしかして・・・俺・・・遊ばれたのか?」
蓮が呆然としているそのころ、社長室で葉巻をふかしているローリィに社は顔を引きつらせていた。
「あの・・・本当に・・・あれでよかったんですか?」
数時間前、ローリィが用意した自家用ジェットであっという間にキョーコの元に飛び立った夜叉のような顔の蓮を思い出しながら社はローリィを伺った。
「ああ、少しぐらいショック療法でもしないと最上君も素直になんかなれね~だろ?」
「え?・・・それは・・・どういう・・・」
社が首を傾げているのを、ローリィは至極楽しそうに笑って窓の外を見やり今頃大騒ぎしているだろう二人を思った。
**************
「・・・・私の気持ち・・・ばれちゃってたみたいですね・・・社長さんには・・・・」
「え?・・・今、なんて?」
キョーコに手を引かれよろよろと、立ち上がる蓮の耳にはキョーコの微笑と共に出た言葉は届かなかったらしい。
ようやく立ち上がった蓮にキョーコは仁王立ちで正面に向き直った。
「敦賀さん!」
「!・・・・はい・・・・」
「誠心誠意の言葉はいつか相手に届くものです」
「?・・・・うん・・・・」
「でも、それを途中で投げやりのように言葉巧みに行動したりしては相手はそれを本気と受け取っていいのか、それともまたからかわれたのかと疑いにかかってしまうのに気が付いて下さい」
「・・・はい・・・・」
「それなのに・・・急にこんなところで実力行使に出るなんて・・・・・破廉恥極まりありません!!!」
「・・・・ごもっともです・・・・・」
「私から一言言わせてもらえれば・・・」
蓮はどんな罵詈雑言でも受ける覚悟で目を硬く閉じてその瞬間を待った。
「・・・・既に、私の視界は敦賀さんでいっぱいになってるのに・・・これ以上敦賀さんで満たさないで下さい・・・」
「・・・・・・・え?・・・」
予想していた内容と違う言葉に蓮がそろっと目を開けると、先ほどとあまり変わらない赤い顔をしながらも優しい笑みを湛えるキョーコが蓮の視界いっぱいに広がった。
「敦賀さんは私が誰にでも膝を貸したり毎日のようにお弁当を作ったりお夕食を作りに家に上がり込んだりする女だとお思いなのですか?」
「え!?ち、違う・・・そうじゃないけど・・・俺だけ特別じゃないだろうと・・・・・え?!・・・・あ・・・れ?・・・・」
そこでようやく蓮は疑問をもった。
「いや・・・でも・・・・え?・・・ちょっと待って・・・」
頭の中で出た答えはどう考えても嬉しすぎる誤算ばかりで・・蓮は混乱の中にいた。
そんな蓮にキョーコは観念したとばかりに苦笑した。
「・・・・敦賀さんが猛アタックしてくれる以前から・・・・既に・・・敦賀さんのことが好きになってました・・・・でも、そんな感情を持つことを拒否したと公言したからにはその思いを隠し通すしかなくて・・・敦賀さんに告白されても素直に答えられなくなってました・・・」
「・・・・最上さん・・・・」
「・・・・敦賀さん・・・ここまで追いかけてきてくれて・・・ありがとうございます・・・まだ・・・告白の返事をしても・・・間に合いますか?」
恥ずかしそうにしながらも目の前で微笑んで自分の返事を待っているキョーコに蓮は、見る間に笑顔になり大きく頷いた。
もちろん!!・・その言葉をキョーコは蓮の腕の中で聞いた。
シンガポールの有名なビルの屋上で二人は煌く夜景を眺めながら、窓際に並んでいるイスに座りグラスを傾けていた。
「日本に帰ったら早速、社長からからかわれそうだな・・・」
苦笑いしながらも、しっかりと握り締めたキョーコの手に蓮が軽く唇を落とすと、キョーコはもう!・・・と手を引っ込めた。
「そうやってすぐにっ////」
「うん」
「顔!緩んでますよ!?」
「うん」
「日本でこんなことしてたら格好の週刊誌の餌ですよ!?」
「うん」
「つ・・敦賀さん?・・・なんで近づいてるんですか?」
「・・・・・君の視界が俺でいっぱいな事を確認したくて」
「っ!?~~~い・・・今更・・・確認は・・・不要です・・・」
ゆっくりと重なる二人の視界はこの先もずっとお互いのみを映していくのだった。
end
《いかがでしょうか?sei様。最後までぐだぐだな蓮様でした・・・orzここまでとは・・・。大丈夫!?こんなんで・・・返品も可能です。
シンガポールはたまたま見ていたテレビで紹介していたので入れ込んでみましたww
こんなのでよろしければどうぞwです♪
ありがとうございました!!》