ショートショート×トールトール・ラバー【23】 | 虹色金魚熱中症

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虹色金魚の管理人カラムが詩とお話をおいています。

拙いコトバたちですが読んでいただければ幸いです。

答えはでますか。でませんか。
 

ショートショート×トールトール・ラバー【23
 

 

 なんだかとても変だ。俺は変だ。しかめっ面を更にしかめながら、下手な演技のように腕を組んだ。この頃どうにもこうにも落ち着かない。超能力者でなくとも 「いつもだろ」 と言われることは分かりきっているから友人どもには決して言わない。

 いざ溜息をつかん、というところで旋毛をグリグリと押さえつけられ思わず奇声を上げると、見上げた先で愉快そうに唇をねじった赤根井さんが 「じゃまくさい」 と無碍な一言を落とした。
 

 放課後。最上級生がいなくなったはずの運動部からの掛け声に変化は無い。眺めるグラウンドはまるでいつもと変わらない。野球部のランニングを校庭すみのベンチから遠目に見ながら、赤根井さんから手渡されたホットレモンティーを口に含んだ。

 
「ぼけぇ~っとしてるから面白そうだってんで、飛んできた」
 

 いひひと女子とも思えない下品な笑い声を伴って俺の背中をばしんと叩く。手の長さからくる遠心力の威力か、思いのほかの強打に思わずむせた。

 
「お、おもしろそうってな……」
「美弥が気がついたんだ。教室で勉強してたんだけど」
 

 ほれ、とあごをしゃくった先、四階の教室から見下ろす佐伯さんがひらひらと手を振った。

 
「自分、十分ちかく突っ立ってたよ。別に面白いものなんて無いだろ。何してんだろーなって」
 

 言われて校舎の時計を見上げると確かに思ったよりも時間がたっている。もう十一月だ。ベンチも冷たく冷え切って尻が寒い。まだ熱い缶を両手で握って長い溜息を吐いた。
 

「なんかさ。良くわかんなくてさ」
 

 口にして、その言葉に嘘はないと小さく頷く。このところ、ことごとく戸川や光圀、担任に小言をいわれ続けている。言われるとおりに俺は確かにぼんやりしていて、胸のあたりがもやもやする。だけど理由が分からない。

 
「何、それって恋愛がらみ? 透のこと?」

 
 いつの間に飲み終わったのか空になった缶をぶらぶらと遊ばせながら赤根井さんは首をかしげた。

 
「恋愛……そうなんかなぁ」
「なんじゃ、それ」
 

 ぼやけた俺の言い方が気に入らないのか鼻で息を吐く彼女に 「じゃあ、どう思うよ?」 と逆切れのように問いかける。

 
「光圀ってさ、桐野ちゃんのこと好きなんだと思う? 桐野ちゃんは? 桐野ちゃんはどうだと思う?」
「は、はぁ?」

 
 切れ長の目を瞬いて、肩を落とした赤根井さんは眉間に手を当てたまま俺に向かって 「待て」 と手をかざした。

 
「恋愛がらみって、何? あんたじゃなくて、飯田と透なの?」
「いや、あのさ。……だから良くわかんないんだって」
「あのさぁ。意味わかんないんだけど。何でそれで、あんたが悩むのよ」
 

 もっともな意見に思わず口ごもる。確かにそうで、俺に関係ないと言われればそれまでなわけで。頭を抱え込んだ俺に赤根井さんが口調を和らげた。

 
「あんたはさ、どっちかっていうと私と同類だから、考えたっていいことなんて無い。考えても結論でないね、きっと」
「そんな身も蓋もない」
「まぁ、聞いておけって」 
「そんなことさぁ」
「あんたは飯田と友達で、透とも友達で、それで二人が恋してたら嫌なんでしょ?」
「別に嫌っていうか」
 

 嫌なんかじゃない。確かに光圀の女子に対する態度は気に入らないけれど、桐野さんには優しいし、それなら――桐野さんが光圀が好きだっていうなら、それはもう反対する理由も無い。そもそも俺は反対しているんだろうか。最初はしていた。だって、桐野さんが光圀を好きだって、きっと光圀は彼女を大事にしない。俺のほうが。俺だったら。俺だったら?

 
「あんたも大概馬鹿だよな」
 

 逡巡した末、かすった答えにそれでもまだ首をかしげた俺をベンチから立ち上がった赤根井さんが見下ろす。その目はどこか可笑しそうに笑っていて、だけど妙に男らしい赤根井さんが不思議と女子らしく見えた。
 

 
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