笑顔×笑顔でつられる笑顔
ショートショート×トールトール・ラバー【14】
体中の意識が一点目がけて集まっている。かわりに体を巡る血液は重力に逆らって顔に集まっていくのも分かった。
(うわ、ぁ……何で手、はなしてくれないの?)
自分で言うのもなんだけど、割と運動神経は良いはずの私が運動部の誘いに乗らなかったのにはわけがある。もちろん試合とかでのプレッシャーに弱いというのもあるけれど、第一におっちょこちょいなのだ。みんなが 「何で?」 というところでいつもポカをやらかしてしまう。そんなんじゃ、運動部で活躍など出来るわけもない。
今回は小石すら転がっていない平らな道端で自分の足に躓いた。幸いにもこけなくてすんだのは池内君のおかけである。
咄嗟に私の手をとって支えてくれた彼にどきどきしながらお礼を言った。その時、ちゃんと繋がった手を放してくれた。なのにどうしたわけかまた手を繋いでいる。
(またこけるとか思われてるのかな。だけど、でも……放してほしいよぉ)
心の内で泣き言をわめきながら、ちらりと見下ろすと彼も私に気が付いて、いつものように笑いかけてくる。
(手、繋いでるって気づいてないのかな……)
前に並ぶ二人にそれとなく助けを求めようにも、こっちなんて見向きもせずにメニューをぎらつく目で追っている。私の前には飯田光圀君と赤根井奈央さんが仲良くメニューを覗いていた。
飯田君とは面識は無かったけど、赤根井さんはよく知っている。彼女には一年の頃からさんざんバレー部への勧誘をされてきた。そのたびに逃げるようにしてお断りしてきたのだ。
こうして男女で一緒に居て、周りの目をびくびくと気にしないのは久々だとしみじみと思った。バレー部らしく、赤根井さんも背が高い。私との視線も見下ろすことなく交じり合う。飯田君は私たちよりもっと高い。しかも赤根井さんは美人で、飯田君は少し強面だけどハンサムだ。長身だけの私へ注がれる視線はあっという間に二人へと集まっていく。
「翔ちん、私、これとこれー! あ、サイズはエルでね」
「俺もそれでいいや」
散々悩んだわりにはオーソドックスなメニューを選んだ二人は当たり前のようにぐるりんと振り向いて、池内君の肩をたたいた。それに対して肩をひとつすくませた彼は 「はいはいよー」 と軽い返事を返す。そのまま財布を取り出したおかげで自然と手のひらが私の手首から離れていった。無意識に握られていた手首に触れていた私はあわてて、自分も鞄から財布を取り出した。
「半分払うね」
「いーって、いーって。俺が赤根井さんに頼んだんだもん。桐野ちゃんがいなくてもたかられたもんね、俺」
「あ、でもね。でもね」
「いいの、いいの! 奢られなさい。……あ!」
「でも」 と言いかけた瞬間、池内君は小さく叫んで財布の中を凝視した。間をおいてぎこちなく向けてきた顔は青い。青いと思ったら一気に赤くなった。
「ご、ごめん! やっぱり半分払ってもらっていい?」
「うん」
「戸川に金貸したの忘れてた……」
しょぼくれるように 「かっこわりぃ、俺」 と言った池内君にお会計を済ませながら小さく笑った。
「かっこ悪くないよ」
こっちをを見上げた彼に呟くと、折角落ちついてきた顔色が一気に赤く染まりあがった。
(あ、私みたい)
もう一度笑うと、 「笑うなよぉ」 とぶつぶつと言いながら、四人分のメニューの載ったトレイを奪っていく。
「重いよ。半分持つよ」
「いいの! 桐野ちゃんドジっ子みたいだから!」
真っ赤な顔で強がりのように笑った顔がなんだかとっても可愛く見えた。先に席についていた赤根井さんが 「おーい」 とボックス席で手を振っている。その隣に飯田君は座っていて、携帯をかちかちといじっていた。
黙っているとちょっと怖そうに見える彼は意外に気遣いやさんだと知った。赤根井さんとはバレー部のお断りの件でしか話したことがなかったけれど、こうしてちゃんと話してみると姉御気質なところがとても頼りになると知る。
(なんか……変なの)
いつもとまったく違うメンバーで、同じ席で話している。たぶん、池内君と知り合わなかったら、飯田君と話すことなんて絶対無かったと思う。赤根井さんともこんなに打ち解けて話すことなんてなかっただろう。
「池内君のおかげかなぁ」
「へ?何が?」
答える代わりに微笑んだ。彼が笑うみたいに私も上手に笑えれば良いなと思いながら。
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