ショートショート×トールトール・ラバー【15】 | 虹色金魚熱中症

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虹色金魚の管理人カラムが詩とお話をおいています。

拙いコトバたちですが読んでいただければ幸いです。

緩む頬と疑問と言い訳
 
 

ショートショート×トールトール・ラバー【15

 
 
 貸せと言うから貸したのに 「複雑すぎる」 と早々に戸川はデジカメを放り出した。
 

 「ちょ、やめ! 借り物なんだからな!」

 

 言いながらナイスキャッチとばかりに胸で受け取る。 「しゃれになんねー。戸川のあほ!」 そんな抗議にもまったく動じる様子もなく、戸川は鼻を鳴らした。

 
 「複雑ってさぁ……簡単じゃん。これでこうして、ここでいいんだろ」
 

 みんなが持っている操作が簡単なデジタルカメラではなく、俺はデジタル一眼レフを借りた。もちろん格好よかったからに尽きるわけだけど、昨日帰りに寄ったファストフード店で光圀に使い方のおさらいをしてもらった。一眼レフといってもそこはデジタル。初心者でもそこそこのものが撮れるのは確認済みだ。

 こうなってみると、昨日、戸川が本屋に行って代わりに光圀が付き合ってくれたのも神の思し召しのような気さえした。

 
 「戸川のメガネって伊達だったんだな……」

 
 哀れむような台詞に 「ちゃんと度が入ってるさ」 と言い返された。だがしかし、言いたかったのはそういう問題ではない。俺の皮肉は伝わらない。

 何はともあれ、うまく使いこなせるかは置いておくが、簡単な使い方はばっちりである。不機嫌に漫画読みにとりかかる戸川に写真家気取りでレンズを向けるも鋭い視線でシャットアウトされた。

 
 「戸川も来ればよかったのに。すっげぇの! カメラいっぱいでさぁ」
 「佐伯さんち? 何でカメラなんていっぱい持ってるんだ? それだって結構な値段するだろ」
 「そうなの? まぁ、うん。俺の小遣いじゃ無理かなぁ」
 

 よく分からずに手にしていたそれをぐるりと眺めると、寝ていると思った光圀が 「三十万くらいだよ、それ」 と簡単に告げた。

 
 「えっ! そ、そんなにすんの?」
 

 突然の情報に指先に力が入る。壊したら俺の小遣いでは買えない。思わず喉が鳴った。

 
 「佐伯さん、そんなのよく持ってるな」 メガネをあげながら、戸川が首をもたげた。再びカメラに伸ばしてきた戸川の手をパシりと弾く。こいつには二度と触らせるものか。
 

 「鶴崎博だよ」
 「写真家の?」
 「佐伯さんの幼馴染に借りたんだよね。これ。あれ、何? 鶴崎君って有名人?」
 「バーカ。あいつじゃなくて、父親だよ。父親」
 「そうなの?」

 
 きょとんと光圀に向けた顔を傾げながら、佐伯さん宅で待っていた鶴崎健人を思い浮かべた。

 
 「すっげぇ、でかい中学生だった」
 「お前から見たら皆でかいだろ」
 

 けたけた笑った光圀の尻を蹴り上げながら、まあ確かに全員でかかったと思い浮かべた。昨日、カメラを借りる為に集まったメンバーは誰もかれもが自分より大きかった。男女混合でいたにもかかわらずだから、なおさら情けない。昨日はずっと首を上げていた気さえする。
 

 「いやいや、佐伯さんは俺より小さかった」
 「女子だろ、それ」
 「佐伯さん以外の女子を含めてお前のが小さかったけどな」

 
 (言い返せない……)
 

 桐野さんも赤根井さんも百七十センチメートルはゆうにありそうだ。後ろから見た、並んで歩く光圀と赤根井さんを思い出して、光圀くらいの身長が無いとさまにならないんだろうなぁとしみじみと感じた。

 
 「光圀さぁ、お前、何センチ?」
 「身長? 百八十二」
 「……戸川は?」
 「百八十は無いがお前よりは高い」
 「うう……」
 

 (わかってますとも)

 
 二人を無視してカメラを覗き込んで、クラス中をぐるりとめぐらせた。フィルター越しの世界は同じに見えて少し違う。それが何かは分からない。だけど空間が途切れているみたいに異なる世界が映し出されている気がした。

 
 「思ったんだけど」
 

 急に光圀がレンズ越しの視界に入り込んできた。覗いているのは自分なのに薄い色素の目がこっちをえぐるように見ている気がして 「うわ」 と声を上げてのけぞった。
 

 「ちょっと、桐野さん、いいなって思ってるだろ」
 「え?」
 「顔」
 「は?」
 

 ずいと長い指が俺の鼻先で止まる。

 
 「昨日思った。お前、ずっと顔、緩みっぱなし」
 「は? ……何いってんの? 何言ってんの? 俺、今、ちっちゃい子、アイラブ作戦中なんだけど! つーか、緩んでるのはいつもじゃん! 俺の顔じゃん!」
 

 じっとこっちを伺った光圀が言う。

 
 「まぁ、それもそうだけど」
 

 (そこは否定しろよ!)
 

 だけど心臓の辺りがざわざわしたのは事実だ。悪戯を見つかってしまったかのような動揺。だけど、それが何だって言うんだ。顔が緩んだんじゃない。むしろ少し緩ませた。それは俺の意思。だけどそこに意味があるとしたら、人見知りの桐野さんをあの強気なメンバーの中でおびえさせないための手段だ。
 

 「お前らが肉食獣だから悪いんじゃん」

  

 小さく呟いて 「だよな?」 と自分にも問いかけた。

 

 
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