モノシロご馳走【後編】 | 虹色金魚熱中症

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拙いコトバたちですが読んでいただければ幸いです。


僕の色 君の色


モノシロご馳走【後編】



 それだ!
僕が捕らえた囁き声。ずっとずっと、漣のように繰り返し僕の耳に届いたもの。僕にもあるのか、胸の奥、心臓みたいなところが、ばくばくと前後した。期待が僕を煽っている。だけど、僕は黙って待った。その声がちゃんと僕に届くまで。
「変えられないの」
 ようやく届いた小さな声はやっぱり白い。はらはらと花びらみたいに落ちていく。ねぇ、それは疑問? それは断言? それとも本音? それは嘘?
「どんなに、何度も塗ったって、真っ白にはなってくれない」
 大きな白いハケが音を立てて足元へと落ちた。白い白い細い手から、零れるように落ちていった。その手は真っ白な顔を覆う。
「ねぇ、それは願望?」
 問いかけに小さく影が揺れる。ゆっくりと僕に目を向けた。
「――そう。そうよ。願ってる。私の願い」
「だけど、本当?」
 僕は首をかしげて長い鼻をぶらぶらさせた。白い目がそれを辿っている。ふらふらと心も揺れているみたいだ。
「だって、塗り替えてしまえば」
「うん」
「私も、誰も、傷つかない」
 ああ、キミはこんなに可愛い人だったんだね。
僕はにっこり微笑み返した。白い影からころころ転がる、真珠みたいな綺麗な珠。それは七色に輝いて、転がるごとに色が踊る。
 僕は「うん」と頷いておいて、だけど気づいてしまったから、どうしても言いたくなった。
「ねぇ、真っ白になっちゃってたら、その綺麗なおめめに気がつけないよ」
 真珠の転がる跡には、色が綺麗に咲いていく。それを生んだ潤んだ瞳が、とっても綺麗に輝いている。
「この世界は素敵だけれど、僕とおんなじそのおめめ、塗っちゃうのはもったいないね」
 綺麗な漆黒の目が、僕を真直ぐ見ている。僕の身体と同じ色だ。
「・・・・・・真っ白は嫌かしら」
「僕は好きだよ。面白いから」
 転がる真珠を鼻で寄せると、小さな珠は跳んで弾けた。それは白い世界に花火みたいに色を灯す。僕の長い鼻の先も色づいた。それを見ていた白かった影がキャラメル色の髪を揺らした。
「綺麗ね」
「そうだね」
 僕は零れている珠を拾うのに必死だったから、最後の珠が落ちたことに気がつかなかった。とびきり綺麗な彼女の笑顔に気づけなかった。最後の珠を何とか器用に拾い上げて口に運ぶ。それは僕の口の中で小さく弾けた。

 本当に美味しかった。ミントのように透きとおって、苦味と酸味、それに焦がれるような深い深い甘み。それが僕の中に広がって、白い世界は色に満たされ輝いた。その瞬間が、今も僕の中でふわりと広がっている。
 とってもいい夢は、安息と満腹を与えてくれる。こんな夢は食べがいがあるし、それを話すと夜の女神が僕を褒めてくれる。それを思うと心が弾む。思わず僕は四本の手足でスキップしながらお尻を振った。
「そうだ!」
 随分と前に片翼カモメが届けてくれた白い欠片を思い出した。首にいつもかけている、月光の帯で作った白銀のポシェットから、それを取り出して手でぎゅっと握りしめた。
「どうしよう」
 握った手の中から不思議な感覚が伝わってくる。柔らかいけど硬くって、冷たいけどすごく熱い。なんて素敵なものだろう。
「んん、んー」
 少しもったいない気もするけど使ってしまおう。
僕はそれを二つにちぎった。ちぎれた口からはらはらと、それは小さく小さく零れていく。
 目覚めたての太陽が零れたそれに気がついて、腕を伸ばして邪魔をした。けれどそれは器用にかわして逃れていく。掴みそこなった太陽はちょっとしょんぼり下を向いた。だけど悪戯っ子みたいににっこり笑うと、大きな体をゆらゆら揺らした。
「ああ、なんて」
 なんて綺麗で面白いんだ。
色彩の世界へときらきらきらきら、僕のとっておきが降りていく。どんどんどんどん降りていく。
高いところは苦手なのに、僕はついつい誘われて、そのきらきらを見下ろした。それは天辺のとんがった赤い屋根を隠してしまった。グレーの細長い道を埋めていく。青も、緑も、黄色も、白く白く染めていく。
太陽のリズムできらきらと七色の光を放ちながら、どんどんどんどん染めていく。
「すごいや」
 胸がわくわくした。
僕はまた誰かの夢を見てるのかな。それともこれは僕の夢?
 口を半円にして笑いながら、やっぱりリズムの取れない歌でお尻をふりふりと揺らしてみた。通りかかった朝焼けの乙女が小さく頬を赤らめて、ふふふと笑うと僕に向かって手を振った。


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