ウソコク【25】 | 虹色金魚熱中症

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虹色金魚の管理人カラムが詩とお話をおいています。

拙いコトバたちですが読んでいただければ幸いです。

そんな本当なら知りたくなかった

 
 

ウソコク【25

 

 図書室から漏れ出る象牙色の光を切り裂くように響いた音が私の肩を揺すった。伸ばした指先が弾かれたようにドアノブから離れる。

 何故だか分からないのに小さな恐怖が胸の奥からじわじわと沸いてくるのを感じた。数センチほど開いた扉から私に向かって伸びた光の線に視線を落としながら耳を塞ぎたくなった。
 だけど、それよりも先に話し声を捕らえて足が竦む。体がその場に貼り付けられたみたいに動けない。もう耳を塞ぐこともできなかった。

 
 ――ああ、何で。何でだろう。

 
 もれ聞こえた上谷君の声が確かに分かる。間違えようもない。いつからこんなにはっきりと彼の声を捉えるようになったのだろう。

 
 嘘、だよね。

 
 分かっているのに確かめたくて、薄く開いた扉の先、こぼれ出る光の中に目を向けた。隙間から見えた上谷君の後姿に泣きたくなった。

 
 聞きたくなかった。そんな言葉、聞きたくなかったよ。
 

 「もう……嫌だ」 と彼は言った。乱暴に言い捨てると同時に机を叩く音が響いた。まるで自分に向かって打たれたかのように肩がびくついて思わず目を瞑ってしまう。瞑ったら見えないはずの上谷君の表情まで見えた気がした。
 

 「何で言うんだよ。俺に、小波のこと、何で! 俺が……ほっとかないって分かるからだよな。俺がほっとかないって! 兄貴の代わりに傍にいて? 慰めて? その後、俺はどうすればいい?」

 
 「慎吾」

 
 「……んだよ。全然わかんねぇ」

 
 どん、と拳を下ろした音。鈍くて痛い音が静かな校舎に響いていく。圭吾さんは何も言わなかった。きっと困っている。そんな圭吾さんの顔が浮かんだ。だけどそれよりも、はっきり上谷君の顔が浮かぶ。その顔は笑っていない。いつかの、あの、苦しそうに怒った顔が瞼に浮かんで消えなかった。

 
 「何とか言えよ」

 
 くぐもった声と椅子の倒れる音。ガチャンと金属音がおさまるとそのまま、何もかも呑まれたかのような無音が続いた。押し迫る沈黙に耐え切れないで嗚咽が零れた。
 

 弾かれたように上谷君が振り返って、ほんの少しだけ開かれた隙間を掻い潜って視線がぶつかる。体を縛り付けていた糸がようやく切れて私は走り出していた。

 

 
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