賭けと異邦人  (後編) | 風紋

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鋼の錬金術師ファンの雑文ブログ



  リンとランファンに愛が偏っています

いい加減立ち話も落ち着かないので建物の礎石に腰掛けると、
糸目―――リン・ヤオにも隣に座るように促した。
シン国の習慣や礼儀などは知ったことじゃないが、俺が煙草のみだったら
一本差し出していただろう。なんとなくそういう雰囲気だった。


「バリーへの借りなんて踏み倒しゃいいとは思わなかったんだな、お前。」
「受けた恩は多めに返すのが信条なんだヨ。生き残るにはあっちこっちに
恩の貸し借りを作っとけ、ってのが我が一族の生活の知恵なんダ。」
「しかしこんなややこしいことをしてまでわざわざ他人の面倒ごとの
手助けをするのには理由があるんだろう?」
「密入国しなくちゃならない程度には困った理由がネ。」
「入国証をとって足がつくとまずいような理由か。」
「察しがよくて嬉しいヨ。探し物を他の部族にみつけられる前にぶんどら
なきゃならないんだヨ。今のところ先越された様子はないがネ。」
「同国人どうしで諍いか?ややこしい国なんだな、シンってのは。」
「まあそれは、このお国の内情と同じくらいにはややこしいと思って
もらえれば間違いないヨ。
そちらさんも、軍人なのに軍を謀るようなことをするんだろウ?」


「先に謀られたのはこちらだ。機密らしきものを探っていた仲間の将校が
殺された。その犯人がロス少尉だなんてのはでっちあげにしか思えん。
勝手に処刑される前に逃がして口封じされないようにせにゃ、また死人が
出てしまう。賢者の石ってのはそういうモンだ。わかってるか?」


さりげなく出したブラフは当たったらしい。
糸目と思われた目が見開かれて、相当驚いたらしい顔をしている。
驚かされてばかりだったからすこし溜飲が下がって気持ちがよかった。


「・・・なぜ俺たちの探し物が賢者の石とわかっタ?」
「密入国者がこの国で軍人に渡りをつけておきたいというのはわかるが、
バリーのような者に執着するのは、ヤツの特殊な生来に関することかと
あたりをつけただけさ。図星だったか。」
「ああ、あの体。鎧が中身なしで動くようなことができるなら、その術法
を使った者は特殊な力を持っているはずだと思ったんダ。
それはきっと賢者の石・・・と予想しているんだガ。
この国に入ってから少し探った結果、賢者の石はやはり軍事機密らしい
とは思っていたが、そちらのトラブルの元もそうだったとはネ。」
「これは偶然というより因縁の出会いだな。お互い協力しないと乗り切れ
ない難物だぞ、賢者の石を探るってことは。」
「承知しタ。無闇に動いて足をとられないようにしよウ。
ただ、賢者の石を持ち帰るのは俺の一族に対する使命ダ。必ず果たス。」
「こちらの足をひっぱらないでくれよ。石の背後にどんなものが潜んで
いるのか、まだわからないんだから。」
「それをあぶりだすための作戦なんだロ。せいぜい慎重にいくヨ。」



「さあ、バリーをあまり待たせてもいけない。マリア・ロスを逃がす手段
を詰めていこう。どういうルートで国外に出す?」
「東から砂漠へ、シンに向かう隊商に紛れさせル。こういうことを斡旋す
るハンという男がいるんダ。こいつに連絡をとれば上手くやってくれるヨ。
臣下のフーという者を貸そウ。手練の老兵で砂漠越えにも慣れていル。
クセルクセス遺跡なら誰にも知られずに潜伏できるだろウ。」
「よし、わかった。マリア・ロスの死亡を誤認させるのが成功したか
どうかの知らせが入るのはきっと夜半すぎになる。
それを待って、翌朝にはスラムの一時待機場所を出られるようにしたい。
彼女の国内の移動は俺達が関わっていると知られてはならんから、お前達
に全面的に任せることにする。大丈夫か?」
「ああ任せロ。ただ、この話に乗ったからにはそちらも心してもらいたイ。
二人しかいない大事な臣下のうちひとりをこの作戦のために駆り出すの
だからナ。」


声音が変わったのに気づき改めて糸目の男の顔を見ると、表情の窺いにくい
顔ながら真剣さがにじんでいるのが見てとれた。
さっき会ったばかりで、次々に変わる印象につかみきれない奴と思って
いたが、はじめてこいつの本当の顔を見た気がした。
今こいつは素で臣下のことを考えている。


「クセルクセスに連れ出してくれるのがフーという男。それと、あと
もうひとりか。その臣下の名は?」
「ランファン。」
誇らしげな顔と自信に満ちた声。本当に頼れる臣下なのだろう。
そんな臣下がついてくる人物なら―――



―――大佐、これは信じていい賭けになりそうです。






あとがき:
ブレダはいきなり現れたバリーの連れの怪しいシン国人をどうして信用
したんだろうと考えたことからこのssが出来ました。
かなりの量の捏造を原作に絡めてしまっています。
頭脳派ブレダと丁々発止とやりあう策士なリンを書くつもりが、なんだか
二人のやりとりがどんどん漫才に・・・
カッコいいリンを書きたいのにお笑いになってしまうのはなぜでしょう?


マリア・ロス逃亡事件は時系列を理解するのが難しく、苦労しました。
シンに逃がすと決まってからダミーを焼いたという説明がされているけど
リンの存在はバリーの留置場襲撃時の気まぐれによるイレギュラーなもの
ですからそれなりの辻褄あわせをしましたが、それでもおかしなところは
目をつむってやってくださいませ。