生き残るための3つの取引(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

生き残るための3つの取引(ネタバレ)

生き残るための3つの取引

三角絞めでつかまえて-3つの取引

原題:부당거래/BAD DEAL
2010/韓国 上映時間119分
監督:リュ・スンワン
脚本:パク・フンジョン
出演:ファン・ジョンミン、リュ・スンボム、ユ・ヘジン、チョン・ホジン、チョン・マンシク、マ・ドンソク、ウ・ドンギ、チョ・ヨンジン
(あらすじ)
警察庁広域捜査隊のチョルギ刑事(ファン・ジョンミン)は、優秀だが警察大学出身でないため出世街道から外れていた。そのころ連続殺人事件犯逮捕に失敗した警察は、犯人をでっち上げるという暴挙に出る。その白羽の矢がチェ刑事に立ち、彼は昇進と引き換えに裏工作を引き受けるが、チュ検事(リュ・スンボム)にそのことをかぎつけられる。(以上、シネマトゥデイより)

予告編はこんな感じ↓




77点


僕のブログを何度か読んでくれている人ならお分かりでしょうけど、僕って結構イヤな奴だと思うんですよ。やたらと「現実ではこんなことあり得ない!」とか「日本の警察はこんなことしない!」とか「この話のココが変だ!」とか「この娘、どこかが変だ」とか、好みじゃない映画の矛盾点とかリアリティの不備を偉そうに指摘したりしてね。「映画ってのは別にストーリーとかリアリティを楽しむだけのものじゃないんだよ?」とか「そのくせ昨年のベスト10がこの体たらくかよw」とか、不快に思っている方もいるんじゃないカナーって…(ちょっと可愛らしく)。僕自身も本当に直そうと思ってるんですけど、ストレス発散のためにブログを書いてるんだから、そこをガマンしても仕方ないような気もして、今日もアンニュイな午後を過ごしているワケです(なにがなにやら)。

で、今回の「生き残るための3つの取引」ですよ。「韓国を舞台にした警察vs検察vsヤクザの小粋な恐喝合戦」と聞いたら、つい興味が湧いちゃうのが男心。シネマート新宿で観てきました。正直、“リアル”が詰まっていて苦い映画だったんですけど、例によって「日本の警察では~」なんて面倒くさいツッコミを入れたりもするので、そういうのが苦手な人は読まない方が良いんじゃないカナー(上目遣いで)。

主人公は広域捜査隊のチョルギ刑事。有能であり、部下からの人望も厚い人なんですけど、警察大出&コネを持つ後輩からイヤミを言われたりする不遇な立場でして。で、上司から「幼児連続殺害事件の犯人を見事にデッチ上げたら、出世させてやる」「部下や家族にも良い思いさせてやれるぞ?」的なことを言われて、心を鬼にして犯人捏造を始めるんですね。演じたファン・ジョンミン、寡黙な感じがなかなか渋かったです。


部下の愚痴を聞くチョルギ刑事。日本の警察の場合、キャリア以外はそんなことないと思うヨ。
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チョルギ刑事がいろいろ検討した結果、「9歳の少女を強姦した前科者」「現在は、知的障害者であり、病を患っている妻と7歳の連れ子と3人で暮らして更生中」というイ・ドンソク(ウ・ドンギ)を“真犯人”に決定。建設会社社長兼ヤクザのチャン・ソック(ユ・ヘジン)に高圧的に依頼して、ソックはドンソクを暴行の上、妻子をダシにして脅迫。「精神鑑定をしてもらって、精神に異常があると分かれば死刑にはならない」「奥さんの治療費を出してやる」みたいな言葉を信じて、ドンソクは逮捕されるんですね…。ソックを演じたユ・ヘジンはあの「黒く濁る村」で「笑いながらぶたれると痛い!」という怪演を披露した“コクがありすぎる顔”の男。卑劣な役がピッタリの人であり、彼が登場した瞬間、「この映画が名作かどうか分からないけど、面白い映画ではあるだろうな」と確信しましたね。


悪臭が画面から漂ってくるようなゴミ処理場で容赦なくリンチした後、脅迫するソック。怖い!(((゜д゜;)))
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“真犯人”にされるドンソク。コイツが以前に犯した大罪は非道すぎて許せないが、さすがに可哀想。
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で、話は丸く収まるかと思いきや、立ちはだかるのがチュ検事。「ドンソクは冤罪では?」という疑念を持ちチョルギ刑事&ソック組と対立していくんですが…。こう書くと正義の味方っぽく思われそうですが、コイツはコイツでキム会長(チョ・ヨンジン)という別の不動産業の大物と絶賛癒着中。基本的には「強きを助け、弱きをくじく」って感じの人なんですね。単にチョルギ刑事がキム会長を検挙したりしたからムカついているだけであり、まったく「正義感からの行動」とかじゃないところが、逆に好感が持てるというか。演じたリュ・スンボム、スネ夫みたいで可愛かったです。


基本的には高圧的ですが、怒りまくった上司から逃げるため、椅子に隠れるシーンは場内でも爆笑が!
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とりあえずクライマックスの流れをダラダラと書き残しておくと、「ソックは部下を使って、留置場でドンソクを自殺に見せかけて殺害→激怒したチュ検事はチョルギ刑事のチームと家族を全員拘束→打つ手が無くなったチョルギ刑事は女の子のいる店でチュ検事に裸で土下座接待をして洗いざらい告白→和解→脅迫してきたソックをチョルギ刑事が謀殺→ヤクザの部下も殺そうとすると、部下のデホ(マ・ドンソク)が止める→誤ってデホを殺害!→悲しみながらもデホがヤクザと相打ちになったように現場を偽装する→科捜研のDNA鑑定から『ドンソクが真犯人だった』ことが判明→デホの殺害シーンをソックの運転手が録画しており、チョルギ刑事の部下たちがそれを知ってしまう→チョルギ刑事は出世するも部下たちに謀殺される→チュ検事の癒着も発覚するも、義父(大物っぽい)の計らいによってお咎めナシって感じでした。

僕がちょっと納得が行かなかったのは、最後のデホ絡みの展開。いくら前科者とはいえ無実の人間(「ドンソクが真犯人」というオチは置いといて)を「死刑間違いなし!」の状況に追い込んどいて、「ヤクザの部下を射殺しようとするチョルギ刑事を必死に止める」って、微妙に感じちゃったんですよ。ドンソクを犯人に仕立て上げた過程を考えると、部下たちが「チョルギ刑事とソックが組んでいたことを知らなかった」ってことはあり得ないし、あんな場面でいきなり良心的になられても「はぁ?」というか。まぁ、デホはドンソクの家族に同情的だったし、人が死ぬことにウンザリしてたのかもしれませんが…。あと、いくら式典があるとはいえ、自分の直属の部下が死んだんだから、チュルギ刑事はどう考えても部下の葬式に行かせられたと思いますよ。

それと、これは好みの問題ですけど、「結局、ドンソクが真犯人で、奥さんの連れ子に性的虐待をしていた」というオチはかなり好きじゃないです。「あれだけの犠牲を出したのに…」的な皮肉なんでしょうけど、それよりもやっぱり「更生しようとした人間を殺してしまった」「知的障害者の奥さんと子どもはどうなる?」「真犯人は今も他の幼児を殺そうと物色している…」という方が相当“苦い”と思うんですけど…。僕だって性的犯罪者なんて吐き気がするほど嫌いだし、近所に住んでほしくないって思うけど、それでも「更生しようとしてる」ってところをナシにしちゃったのは、飲み込みづらかったです。

ただ、それ以外のところは大好物でした。そもそも「大統領にプレッシャーをかけられたから、警察全体で積極的に冤罪を作る!」という物語の端緒の非道さがスゴい。映画での“韓国警察のゲンナリ描写”は散々観てきましたけど、“警察不信の究極のカタチ”というか、いわゆる“お上の国”の日本とは全然違うんだなぁと…。検察と建設業者の癒着振りもまた愉快でした。昨年、韓国では「検事とスポンサー事件」が起きてこの映画がヒットした要因にもなったそうですが、「別に韓国に限らない話なんだろうな~」って思いましたよ。


こういう“あまり関係ない動画”を貼ったりすると、中2っぽく見られちゃうのかしら…。




どうでも良い個人的な話を書いておくと、僕の粗野な叔父は小さい建設会社を経営してるんですけど、僕が警官だったころ、スゲー偉そうに「俺は○○県警の署長と仲良しで、酒飲んで運転したって大丈夫なんだぜ」なんてよっぽどのバカじゃないと言わないような台詞を吐いたことがあって。あの時は心から「コイツは死ねばいい」と思ったりしてね。僕の数少ない友人には“普通に建設業を営んでいる人”もいるので、別にそういう人ばかりじゃないのは知ってますけど、ああいう輩を見ると本当に絶望的な気持ちになります(クレーム自慢をするバカを見た時の心境に近い)。

というかこの映画、他にも社会のイヤな面が盛りだくさんなんですよね。主要な登場人物たちには全然共感できなかったけど、彼らの“そうやって行動しないとどうにもならない状況”の描写の数々には、身につまされることが多かったです。また個人的な話を書きますけど、僕も最近、“取引先の人に頼まれてやったこと”の全責任を被らざるを得なくなったことがあって。ハッキリ言って、逆にその取引先を訴えてやろうかと思ったんですけど、「断ったら仕事がなくなる…」「今、転職して何ができる?」「7月に娘も生まれるし…」など考えると、媚びへつらいボタンを連打するしかないというね (´・ω・`)

「チョルギ刑事がチュ検事を裸土下座接待する“だけ”で和解するシーン」とか、あのアッサリ具合が逆にリアルに感じて。「無実の人が死んでるとか関係なくて、自分の面子を立ててくれれば良し」という分かりやすさが痛快でした。ソックやチョルギ刑事、デホ、ドンソクの妻子など、不遇な立場にいる人たちは軒並み悲惨な結末を迎えているにもかかわらず、有力者と繋がりのあるチュ検事だけ別に何ともないというオチも、作り手の誠実さが伝わってきて、グッときました。リュ・スンワン監督、ちょっと好きかもしません (*ノ▽ノ)キャッ

脇役も見事で、特にあの「 30万ウォン(日本円で3万円程度?)しかもらえない」って愚痴ばっか言う国選弁護人が最高! アイツ、世の中にたくさんいますよね。いや、誰の心の中にいるとも言えるけど(というか、僕もその1人かもしれない…)、本当に素晴らしいキャラクターじゃないでしょうか。ドンソクの奥さんの残念な感じも良かったし、「息もできない」でも良い感じだったチョン・マンシクも部下の検事を好演してましたな。

ということで、なんか長くなっちゃったので、もう書くのを止めますが、僕的には本当に苦い映画でしたよ。基本的に気分が悪くなる映画ではあるので万人にオススメできる気はしませんが、これは決して斜に構えて書いているのではなく、「韓国の話に限らず、人間社会って大体こんな感じだと思う」ので、新社会人とかが観ると非常に勉強になるんじゃないですかね。




リュ・スンワン監督。気になってたけど未見なんですよね。「泣いて油断させて倒す」みたいな話じゃないっぽい。
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監督は大嫌いだし、ウソ描写もあるけど、「日本の警察はこの程度のことは平気でやる」ってのは知っといた方が良いかも…。
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有名な袴田事件を映画化した作品。僕の感想はこんな感じ
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