鬼も泣かない去年の話 -その3- 『トナカイブルース』+おまけ | 落語・ミステリー(もしくは落語ミステリー)・映画・プロレス・野球・草バンド活動のよもやま話、やってます。好きな人だけ寄ってって。

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鎌田善和です。売れてない分時間はありますので、遅まきながらブログ始めました。記事は落語やミステリーが中心ですが、映画・野球・プロレス・草バンド活動(野球でいう草野球の事)もリストアップしておきます。気になる、興味がある、と思う人にだけ伝われば。

 ジャジャジャジャーン!!!呼ばれても飛び出てもいませんが(分かる方は50歳をゆうに超えていらっしゃるはず)、年が明けてから4日連続での更新です。といってもこれ、自業自得の産物なんですがね。おっと、ここまで書いて来て、冒頭のオノノノカ、じゃなくてオノマトペ(厳密な意味ではこの言葉にはあたらないのかもしれませんが、物識りぶりたいじゃないですか)の部分、ベートーベンの”運命”の節(”節←フシって読んで下さいね”って言い方もどうかと思いますが・・・)教養の高い方もいらっしゃるんでしょうね。そういう方々は逆に『分かる方は~』のくだりは「何のことやら」???だったでしょうね。
 さて、昨日は結果的に羊頭狗肉的ブログになってしまい、申し訳ありませんでした。今日はまず、真面目に『トナカイブルース』について書こうと思います。そして、そのあとに、昨日のショートショートミステリーの解決篇を書こうと思っています。その前にちょっと本音を言えば、あういう設定ですからね、収束させるべき結末を思い付いてはいるのですが、それ、ハートウオーミングな感じにも、ブラッキィーな感じにも話を持って行けるんです。今こうして書いている最中にも、まだ、どっちにしようか迷っています。まあ、それはそれとして、何事もなかったかのように本命の記事を書き始めましょう。
 さて今日は、昨年12月25日に中野 ザ・ポケットで観た『トナカイブルース』について書こうと思います。僕のブログをお読み戴いている方にはご案内なのですが、そうです、このお芝居も棚橋幸代さんがご出演されていて、そのご縁で拝見しました。
 このお芝居のユニット(こう呼ぶのが正しいのかどうか、舞台には詳しくない僕にはよく分かっていないのですが、”劇団”と呼ぶのはちょっと違っているようなので、あえてこう呼ばせて戴きます)は初めて拝見しましたが、なるほど、作者の方や演出家の方が違うと、一言で「『ドタバタ』で笑わせてあとで『ホッコリ』させるお芝居」といっても、こうもテイストが替わるんですね。舞台設定はさすがに違っていますが、僕にとってこのお芝居は『現代版デン助劇場』でした。もちろん単に”昭和くさい泣き笑い”というわけではなくて、話は洗練されていますし、お芝居らしい”強引なファンタジー(題名からも分かるように、このお芝居には”トナカイ”も”サンタクロース”も登場しています。そして彼ら(?)は、他の登場人物の皆さんと共に、何の違和感もなくそこにいるのです)”がベースにあって、それらに何の説明もないまま、当たり前の日常(といっても、かなり特殊な状況下の1日であることは間違いありません)が目の前で展開されます。そんな中ではむしろ、彼らを取り巻く側の人間の方が、一癖も二癖もあるエキセントリックで茫洋と(この表現、舞台を観た人でないと分からないだろうな)しています。でも、このお芝居を観ていると、それを納得させようとする剛腕ぶりは全く鼻につかず、むしろそういう人間(?)関係がごく自然に心地よく受け入れられます。それがこのお芝居の根底に流れる”肯定感”みたいなものなんでしょうね。『デン助劇場』のデン助さんは、娘の澄子さんのことが好きで心配でたまらない。娘が連れてくるフィアンセが気に入らない。でも、娘が好きになった人だから、娘が幸せになってくれるのが一番だから、紆余曲折があっても結局ハッピーエンドで終わる。”人間バンザイ的”というか”牧歌的”というか、そういう人間の(特に日本人の)琴線に触れるお芝居なんですね。『男はつらいよ』的世界観(この”世界観”という言葉、軽々しく使われ過ぎていてあまり好きではないのですが、ここではそれ以上にシックリくる言葉が見つかりません)と言ってもいいのかもしれませんね。例えば、YouTubeで全くの赤の他人の『フラッシュ・モブ』でのプロポーズを観て「ジーン」と来ちゃう貴方(貴女)、このお芝居を見逃しちゃだめですよ。
 といったわけで、『トナカイブルース』について書き終えましたので、いよいよ(仕方なく)解決篇を書くとしましょう。
         【解決篇】
 1月と2月には結果が出なかったので、礼二は逆に、狂ったように、それからも倍々ゲームでギャンブルにのめり込んでいった。ギャンブラー特有の、「ここで止めたらこれまで注ぎ込んだものが総て水泡に帰してしまう。当たるのは分かっているんだから、当たった時に大きく帰ってくるようにしなければ」という強迫観念に心が縛り付けられて、もはや歯止めの効かない状態に陥っていた。
 3月、4月と湯水の如く財産をギャンブルに注ぎ込んだが、それでも吉報は舞いこまなかった。5月には蓄えが底を突いたが、それでも「必ず大金が当たる」というあの初夢を妄信し続け、とうとう家屋敷を抵当にした借金に手を染めてしまった。
 6月に入ると、礼二はもう仕事にも出ずにギャンブルに明け暮れた。無断欠勤が続き、当然礼二は会社をクビになった。ただ、会社のお金に手を付けた訳ではなかったので、礼二には、大して多くはない退職金と持株会の解約金が入ったが、それもあっという間に生活費とギャンブルで消えた。
 7月になり、懼れていたことが現実になった。家も土地も手放さざるを得ない日が迫ってきたのだ。金に換えられる家財道具はとっくになくなっていたので動くのには何の問題もなかった。唯一の問題は引っ越すべき先のないことだった。全ての財産も仕事も失って、やっと礼二は我に返り、これまでの熱に浮かされた様な愚かさに気付いたが、後の祭りだった。
 とうとうこの家を明け渡すその前夜、何もない部屋で空腹を抱えた礼二の手には、契約上の問題で解約できなかったスマホだけが残っていた。布団すら二束三文で金に替えていた礼二は、着たきり雀で満足に洗濯も出来ないTシャツとジーンズで、家具の日焼け痕が残るフローリングの上に躰を横たえた。翌日にはこのスマホだけを持ってこの家を出ねばならない。
 「何が大金の上で寝るだよ。大金どころか、もう俺には、煎餅布団さえないじゃないか」
 空腹を抱えて途方に暮れている礼二が無理矢理眠ってしまおうと目を瞑ると、突然スマホが鳴った。それは女友達の1人からの着信だった。何人かの女友達の中でも、彼女とは特別に親しい訳ではなかった。いや、むしろ、女友達のうちで最も疎遠だった。というのも、彼女は礼二よりも8歳も歳が上で結婚願望が強かったからだ。しかし、今は背に腹は代えられない。礼二は慌てて電話に出た。
 「もしもし、阿部さん?」
 「うん。久しぶりだね」
 直近の2か月ほど、狂気の中を彷徨っていた礼二は、ほとんど誰とも合わず、友達と口をきくこともなかった。
 「ねえ、阿部さん、今、暇?」
 「うん、まあね」
 礼二が会社をクビになった上に無一文になったことは風の便りで聞いているだろうに、電話の向こうには全くそういう雰囲気は感じられない。
 「あの~、実は今晩、ちょっとしたホームパーティーをやる予定だったんだけど、メンバーが急に集まれなくなっちゃったのよ」
 『ホームパーティーをやるほど親しい友達がいるんだ・・・?初耳だな』
 「こっちはそのつもりで用意しちゃったんで、とっても私1人じゃ片づけられないの」
 『結婚話には辟易したけれど、いつか作ってくれた弁当は美味かったな』
 礼二は口の中に唾が溜まるのを押さえられなかった。
 「安物で悪いけれど赤ワインももうデキャンタージュしちゃってて、とても1人じゃ呑み切れないし。阿部さん、私の家、知ってるわよね」
 1年ちょっと前に1度、映画の帰りに送って行ったことがあった。もちろん、誘われても部屋に入りはしなかった。出来たばかりの、あまり大きくないマンションの2階だった。あそこなら歩いて行けないことはない。目印は・・・、1階は確か店舗だったような・・・、そうか、まだ1階は内装工事中だった。ウン、そうだ。向かいのビルの1階には大手チェーンの喫茶店が入っていたっけ。あれを目印にすれば、辿り着けるはずだ。
 「あのさ、向かいの喫茶店はあのまま?」
 「ええ。来てくれる?じゃあ、お料理、温め直しておくね」
 「あの~、こんな時間だし、すぐにタクシーが捕まらないかも・・・」
 彼女には言えないが、タクシーは捕まっても、払うタクシー代がない。
 「うん、大丈夫よ。礼二さんはお散歩が好きなんだから、ブラブラ歩いて来て。すぐにシャワーを浴びて貰えるように準備しておくわ。じゃあ、待ってるね」
 その言葉を残して電話は切れた。背に腹は代えられない。礼二はすぐに彼女の家に向かった。
 思った通り、ものの30分も歩くと、目印にしていた喫茶店に辿り着けた。通りを挟んで彼女のマンションを見上げると、開け放った窓から身をのり出すようにして礼二を待っている彼女が見えた。道路は明るいが部屋の中に点いている明かりがそれに勝っていて、その姿はフォーカスがかかったような神々しくもあるシルエットだった。
 「あれ、どっかで見た様な・・・、デジャブー・・・、あ、あの姿、も、もしかして」
 礼二が1階に目を転じると、あの当時は空き店舗だったそこに、信用金庫の支店が入っていた。(終わり)

思い付きで書くとこんなもんです。では、また。