映画「アイ・ソー・ザ・ライト」 平成28年10月1日公開 ★★★☆☆



1944年、アメリカのアラバマ州。
オードリー(エリザベス・オルセン)と結婚して幸せな日々を過ごし、
カントリーシンガーとしても成功を収めていたハンク・ウィリアムス(トム・ヒドルストン)。
公私ともに順風満帆に見える彼だったが、オードリーもシンガーの夢を抱えていたことから
家庭内に不穏な空気が流れる。
やがて子供に恵まれたのを機に再び支え合う二人だが、
ハンクがスターとして活躍するほどにオードリーとの溝が大きくなっていく。
その苦しみから逃げようと、彼は酒に溺れ、ほかの女性と関係を持つようになる。(シネマ・トゥデイ)


何か月も前から楽しみにしていたので、この映画をフォローしたんですが、
そうしたら、入ってくるのは「トムヒ大好き!」のツイートばかり。
公開が近づくにつれてハードルが下がっていったんですが、なにせ都内は新宿ピカデリーの単館上映で
昼1回レイトショー1回の公開ですから、土日の昼の回はすぐに満席。
平日になったらすぐに空くかとおもったら、私たちの観た回もまったく空席ありませんでした。
しかも明らかにトムヒ目当ての人は少な目で、年齢層はかなり高め。
カントリーウェスタンのオールドファン、が主流・・・って感じでした。

オープニングは、「コールド・コールド・ハート」をほぼアカペラで。
スローテンポで歌う、トム・ヒドルストンの歌声は、彼のファンだけじゃなくて、
会場すべての人の心を捉えるほど魅力的でした。
本編でもハンクのヒット曲がほぼ時系列に満載で、全部トムが歌ってるのはスゴイ!

最初のシーンは1944年、治安判事を立会人に、子連れのオードリーとの結婚するところから。
ハンクのフルネームは、ハイラム・キング・ハンク・ウィリアムスというんですね。長っ!

1947年の頃は、朝のラジオ番組にドリフティング・カウボーイズの一員として出演したり、
夜ホンキートンク酒場で歌ったりの地味な音楽活動。
母がマネージャーを務め、運転手もやっていたんですが、オードリーとの結婚には
「私がずっと支えてきたのに邪魔が入った」と母は不機嫌。
オードリーもプライドが強く、主張を引っ込めないタイプなので、夫婦でも嫁姑でも争いが絶えません。

この辺のシーンで流れるのは「ホンキートンキン」とか「
Move It On Over
「The Blues Comes Around」「Pan American」など。
オードリーは「自称歌手」なので、一緒に歌いたがり、音痴じゃないけどビミョーなレベルなので
正直まわりは迷惑なんだけど、夫のハンクも強くはいえず、気まずい雰囲気が流れます。

ちゃんとコスチュームも着ていますね。
映画「ウォーク・ザ・ライン」の中では、ジョニー・キャッシュの妻ジューン・カーターも一緒に歌ってて
彼女はちゃんと戦力になってるどころか、圧倒的な歌唱力でしたが。
(ちなみにリース・ウィザースプーンは本作でオスカー受賞しました)


「Move It On Over」は家から締め出されて犬小屋で寝よう~♪とかいうノリのいい歌ですが、
なんと、これが9万枚越えのヒット!
ハンクはエイカフの会社とシンガーソングライター契約を結んでいたため
結構な額の印税が入ったことで、逆に夫婦間がぎくしゃくして、オードリーに離婚を切り出されます。
でもハンクのほうが未練たらたらで、結局元のさやに納まり、二人の間に息子を授かります。

この二人、どっちもどっちの問題ありの夫婦なんですが、
ハンクに「子どもができた」と告げるシーンは、今までみた「受胎告知」のなかで
一番素敵だったかも。

1948年には「ラブシック・ブルース」が大ヒット。
これ、ハンクの作った歌じゃないし、歌うの難しそうだから絶対スルーだとおもってましたが、
トムヒはフルコーラス見事に歌ってしまいます。
なんでヒットしたか?については全く触れなかったけど、評判のよくなかった
「音を引っ張って歌う癖のある歌いかた」が大衆受けしたということ??

出演するのが夢だった「オプリ」や「ペリー・コモ・ショー」からも声がかかり、音楽活動は順調なものの
プライベートではオードリーと正式に離婚し、また生まれつきの「潜在性二分脊椎症」の悪化で
出演に穴をあけたり、深酒に加え、ドラッグにも依存したり、派手な女性関係・・・と
すさんだ生活になっていきます。

「Why Don't You Love Me」「Hey,Good Lookin'」「Any Time」・・・
そして日本でもカーペンターズでおなじみの「ジャンバラヤ」がヒットチャート1位となりますが、
アルコール依存状態はプロの歌手として許されないレベルへ。
それでも、相変わらずファンからは大歓声で迎えられるのはどうしてなんだろう?


「聞いてほしい曲がある」とソファーでゆっくり弾き語りするのが「Your Cheatin' Heart」(偽りの心)です。
これが多分彼の作った最後くらいの歌になると思います。

私はハンクがいつ亡くなるか知っていたので、画面に年月日が現れるたびにドキドキしてしまいました。
怪しげな医師の処方する強力な動物に使うような鎮痛剤を服用し、飲酒もやめられず
心臓疾患にもかかっていた彼は、会場へむかう車のなかで、1953年の元旦に死亡してしまうのです。

わずか29歳。
でも彼の残した膨大な数の曲は今もみんなに愛されています。
何曲作ったかは不明ですが、私が集めた楽譜だけでも100曲近くあります。
彼はまったく楽譜を読めなかったそうなので、どうやって曲を残したんでしょうかね?

今まで気になっていたハンク・ウィリアムスに関する疑問が、映画を観ることで解けるかと思ったら、
逆に疑問の方が多くなってしまいました。

ハンクは普通に考えたら「カントリーの巨人」なのに、宣伝では「ロックの父」を強調していたから
彼の音楽が後のロカビリーやロックに与えた影響とかわかるのかと思ったら、
完全スルーなばかりか、同時代のミュージックシーンの説明もなし。
「ウォーク・ザ・ライン」では、ライバル歌手がたくさん出てきて楽しかったのにな~

結局増えた知識といえば、「彼の長い本名の由来」と「ケチャップ好き」くらいですかね。

それにしても、家庭内があそこまで不和とは思いませんでした。
当時の彼の記事の写真には、「子煩悩」を強調するようなものが多かっのにね。

↑いかにも仲睦まじい家族に思えますが・・・・


映画のなかで、ハンクがインタビューに答えて
「みんなが持っているけど外に出したがらない心の闇・・・
怒りや悲しみや後悔や惨めさをボクの歌で知れば、後にひかない」
「ヒルビリー(カントリー音楽)やフォークには心がある。偽りはない」
と、いっていました。
不幸を背負わないと、人の心の琴線に触れる曲は書けないのかなぁ。

葬儀のシーンではタイトルにもなっている「I Saw The Light」
エンドロールは「I'm So Lonesome I  Could Cry」(泣きたいほどの淋しさだ)
そしておなじみ「ジャンバラヤ」


帰りにカラオケで「歌手名 ハンクウィリアムス」で検索したところ、「ジャンバラヤ」「偽りの心」
それに「ラブシック・ブルース」がヒットしました。
彼の曲は、一度聞けば即歌えるし、哀愁を帯びたリズミカルな曲が多いけれど、
時代を超えてずっと歌い継いでいける普遍性を感じます。
それにしても、カラオケで3曲は少なすぎ!!


夫によれば、トムヒは歌はうまいけど、ギターが全然弾けないので(画面に映らないように?)
ギターのネックがずっと下を向いてたのが気になった、といってました。
あと、「心の絆を解いてくれ」と「お前が誇りだ」を歌わなかったのも残念だと。(それは私も同感!)

こういう実話モードの作品だと、エンドロールで本物の写真を使ったり、
ニュース映像やインタビュー映像を混ぜてくるのが普通ですが、
本作では、冒頭のフレッド・ローズ(でしたっけ?)の証言映像も俳優だったし、
ニュース映像にも、トムヒやエリザベス・オルセンが映っていました。
なんで?探せばいくらでもありそうなのに、なんか権利関係の問題でしょうか?

やっぱり、カントリーファンを満足させたかったら、もっとアーカイブ映像を多用して
主役もちゃんとギター弾ける人をキャスティングしてほしいところですが、
(ケンブリッジ卒のイギリス紳士がアメリカ南部のジャンキーなミュージシャンをやるという)
「トムヒのギャップ萌え」を見に来る人がターゲットだったかな?と思います。


これを機会にカントリ音楽のファンがふえれば、それはそれでありがたいことですけど
これだけ連日満員なのに単館で、しかも1日2回(来週からは1回)というのはありえないです。
サントラも早く発売して欲しいです。