映画「探偵ミタライの事件簿 星籠の海」 平成28年6月4日公開 ★★★★☆
原作本 「星籠の海 上下」 島田荘司  講談社




天才的な頭脳で、数々の難事件を解決に導いてきた脳科学者・御手洗潔(玉木宏)。
ある日、御手洗は半年の間に6体もの死体が海岸で発見されたという“死体島”の存在を知る。事件の現場である瀬戸内海の興居島に着いた御手洗は、
死体が海流によってある場所からこの島に流れてきたと推理。
その場所を広島県福山市だと突き止め、福山へ移動した御手洗たちだったが、
外国人女性の変死体が発見されるなど奇妙な事件に遭遇し……。(シネマ・トゥデイ)

島田荘司の探偵御手洗が活躍するミステリーは、
もう30年以上続く人気シリーズでしたが、なんとこれが初めての映画化です。
舞台の広島県福山市は、島田さんの出身地で、市政100年記念に特別に書き下ろした
このシリーズの最終作ですから、特別な思いのこもった作品なんでしょうね。
去年一度だけテレビドラマになったそうですが、ミタライを演じる玉木宏も、島田さん直々のご指名だとか・・・

なので当然期待も高まるはずなんですが、
「テレビのスペシャルドラマレベルで映画館で観なくてもいいんじゃないの??」・・・
そんな感想の多い中、観てまいりました。



たしかに、ここで出てくる犯罪・・・幼児誘拐や残虐な刑の執行や違法薬物製造など、
パズルのピースがつぎつぎにはまってく様は「ちょっとできすぎ!」って感じもしなくはないし、
だいたい怪しい人が最初から2,3人に絞られて、黒幕もほぼ前半でわかってしまうから、
「謎解き」とすると、あんまりひねりがない気もしますけど、
私は個人的には大満足でした。

4月27日、福山市。
大雨の中、滝つぼで目と口を縫われた男女が縛られているのを警察が見つけます。
そばにはこの夫婦の赤ちゃんの遺体が・・・・

同じころ瀬戸内海のある島に立て続けに6体もの遺体が流れ着き、その事件に興味をもったミタライが
出版社の女性編集者とともにやってきます。
瀬戸内海には太古の昔から変わることなく繰り返される潮の満ち干があって、
死体はそれに乗ってやってきたのだと推理し、この「時計仕掛けの海」を逆算すると
死体はすべて福山市からながれてきたことをつきとめます。

福山市に向かうと、案の定、外国人女性の変死体が発見され、
彼女もまたこれから「死体処理班」に海に捨てられる運命でした。

最初の幼児殺人事件も、実は身代金誘拐で、両親は金を受け渡し時に拉致されたものと判明。
犯人を目撃したベビーシッターもその時に腹を刺されて夫婦と同じ病院に入院していました。

またこのころ、付近の海ではたびたび首長龍らしき生物が目撃されていました。
30ノットくらいのスピードで海面を滑走する巨大生物です。
地元の大企業、西京化学工業の社長は、東洋一の水族館建設を考えていて
そこには首長龍を生け捕りして展示できるくらいの巨大水槽をつくろうとしていました。

福山市には鞆の浦(とものうら)という昔からの港があって、
空海も義経も尊氏も、みんなここで潮待ちをしたといわれています。
ここは「崖の上のポニョ」の舞台となって以降、いろんな映画のロケ地につかわれていますが
昔ながらの雁木や番所や焚場や常夜灯もしっかり残っていて、もうそれだけで心はタイムスリップしてしまいますね。

もうひとつ、福山藩の藩主だった阿部正弘は幕末の筆頭老中で、
彼の結んだ日米和親条約が不平等条約だったから、あまり評価されていないですが
当時の日本の国防を真剣に考えていた人物でした。
今なんかよりずっと「国家存亡の危機」の時代に、必死だったリーダーたちの苦悩が伝わります。

映画の中では黒船と戦うことになったときの作戦図と思われる古地図が新たに発見されたという設定で
そのなかに「星籠」という謎のマークがありました(これは創造ですよね?)

これは今でいう潜水艇のような鉄甲船ではないかと?
無敵の村上水軍がただ一度負けた相手が織田信長。
でもそのときの鉄甲船はどこへいったのか?
地元にはもうひとつ、瀬戸内の潮の流れを知り尽くした忽那水軍があったのです・・・

と、話はどんどん時空を超えて広がり、目の前に400年以上前の戦のすがたが・・・

この映画の制作には「地域振興」「観光客誘致」の意味合いも大きいと思うんですが
おしゃれな観光スポットや必見の絶景や旬のグルメ情報なんかじゃなくて、
地形や潮の流れや歴史をもってきたところがとっても好きです。
「ブラタモリ」あたりとタイアップできたらよかったのにね~

現代パートの事件は、赤ちゃんが消えたのが4月24日で、5月の初めには解決しているから
せいぜい10日間くらいの話で、その間におこった犯罪の顛末は、実はあんまり大したことない。
むしろ、古代や江戸末期にタイムスリップして妄想を広げられるかが、分かれ道のような気がしました。
ピンポイントでいうと、あの古地図にどれだけ胸キュンできたか?ってことですかね。

そして、そこに残された「星籠」という単語にも。
瀬戸内海はまるで星のように大小さまざまの島がちらばっているだけでなく、
海の底にはたくさんのサンゴが生息していて、無限の大宇宙が広がっていたのです・・・
また、籠と言う文字は龍にもにているから、あの「秘密兵器」は、首長龍のようなUMAにもつながり
ますますロマンが広がります。


ところでミタライは、東野圭吾のガリレオシリーズの湯川とキャラがかぶってる印象ですが
私は断固ミタライ派です。
島田さんは玉木宏の声に惚れたそうですが、私もそれは同感です。

相棒を務めるのは原作では石岡という作家で、
彼がミタライの解決した事件をまるでワトソンのようにミステリー小説にしているのですが
映画では石岡は旅行中ということで、電話の声だけの出演。
映画オリジナルの「石岡が本をだしている出版社の女性」(広瀬アリス)がずっと同行します。
彼女がいちいち騒ぎ立てるのがちょっとうざかったかも。
これは女優さんに責任ないですが・・・

ミタライは警察官でもないのに捜査に首をつっこむし、けっこうな上から目線なんですが
今回警官のなかにも感じ悪いキャラがひとりいて、彼がキーマンだと思っていたら
別になにも起こらなかったのがちょっと拍子ぬけ、かな?

島田さんは福山市への地元愛に満ちた方のようで、地元開催の文学賞の選考委員にもなっていますが、
この賞の第一回の優秀作品は映画化もされていて、私も見ました
「少女たちの羅針盤」という映画です→こちら

ここにも書いたんですが、「書道ガールズ」の四国中央市や「RAILWAYS」の出雲市などは
いかにも郷土色豊かな「行きたくなる地方都市」に描かれていました。
本作も島田さんの気持ちが実って、福山が注目されるようになればいいな、と思います。