映画「君がくれたグッドライフ」 平成28年5月21日公開★★★☆☆



持ち回りで行き先を決めて、自転車で1年に1度の旅行に繰り出している6人の男女。
ハンネスとキキの夫婦が今年の旅行先を決める当番だが、二人はベルギーを選ぶ。
ベルギーと聞いて名物のチョコレートくらいしか頭に浮かばない仲間たちだが、
ハンネスは筋萎縮性側索硬化症(ALS)を宣告されており、
尊厳死が認められているベルギーに行って人生を終わらせようとしていたのだ。
それを知ってベルギーを目指し、例年と変わらない楽しい旅を続ける彼らだが……。(シネマ・トゥデイ)

一言で言ってしまうと、不治の病に侵された青年が尊厳死をとげる、というけっこうキツいドラマなんですが、
彼らはドイツ人で、国内では尊厳死が認められないので、仲間たちと自転車でベルギーに向かうのです。
日本では延命治療の拒否以上のことはかなり難しいですけど、外国映画の中に出てくる
尊厳死はあっけないほど簡単で、いつも驚かされます。
最近では「ハッピーエンドの選び方
これは末期がんや認知症になって死にたくてたまらない老人たちが
自分の意志でボタンを押すことで安楽死できるマシンを作った発明おじさんの話で、イスラエル映画です。
イスラエルでは安楽死は有罪ということですが、いくら自分の意志だとしても「自殺ほう助」にはなりそうですが・・・

フランス映画「母の身終い」はもっとすごくて、末期ガンになったしっかりものの老母が、身辺整理し、
その「終活」の一環として、安楽死の認められるスイスに出かける・・・というもの。
自分の足で建物に入った母が何時間か後には遺体で搬出されるわけで、ショッキングだったんですが、
2作とも老人の話でした。
本作では、死を選ぶのは難病のALSとはいえ、30歳そこそこの青年ですから、
残される家族や友人たちの気持ちを思うといたたまれないものがあります。
死を選ぶ本人よりも、周囲の人たちの気持ちによりそった映画ともいえます。

ハンネスは、自転車でツーリングするのが趣味で、
毎年、友人たち(2組の夫婦と2人の独身男性)と遠出するのが楽しみでした。
彼は自分の父親と同じALSを発症し、友人たちには内緒にしていたのですが、
いよいよもう自転車には乗れないことを悟って、目的地はベルギーにしたいとみんなに提案します。
ドイツ人の彼らにとってベルギーは、「フライドポテト」「チョコレート」「スマーフ」
「タンタンのぼうけん」「ジャン・クロード・ヴァンダム」・・
くらいの認識だったので、ハンネスの決意を知って驚き、非常にショックを受けます。
同じ病気にかかった夫を看病して見送ったハンネスの母は、
「パパはその状態から1年以上生きたのだから、あなたも・・」」というと、
「1年延ばした甲斐があったか?」
「私はパパといられて幸せだったわ」と母。

でも、自転車をこげるのもあとわずか、
やがてコップも持てなくなり、呼吸が止まるのを待つしかない自分を受け入れることができず、
どうしても安楽死を選ぶというのです。

弟は「兄貴は戦わずにあきらめた」といい、
「夫が自分を捨てて死をえらぶ」というのだから、妻のキキにとっても残酷な選択です。

そして、一行は自転車でいつものように旅立つのですが、
旅の途中、彼らにはそれそれに課題が与えられます。
ガタイのいい独身の中年男ミヒャエルには「女になる」
恐妻家のドミには「乱交パーティーに参加する」
高所恐怖症のキキには「スカイダイビングをする」
そのほかにも、「未成年者にいちゃもんつけて薬物をかすめる」
「エホバの証人に反論して殴る」などなど・・・

自分を高めるというよりは、「弱点を克服する」課題なんですが、ともかく全員がクリアし、
旅の終わりにベルギーで母と落ち合い、処置をしてくれる医師のもとへ。

約束していた先生が不在で、処置できないと思いきや、代理の医師が簡単に引き継いでくれます。
「すぐ済むよ、いいね」といって、青い液がハンネスの体内へ注入されていきます。

「おれの人生は長くはなかったが充実していた」
「私も行くから、先に寝ていてね」と妻のキキ。
音楽はなく波の音が聞こえ、暗転して1年後へと・・・

スカイダイビングに成功したキキは、今度はバンジージャンプに挑戦していました。

ハンネスのいない世界でも残された者たちは、精一杯生きている。
WASHERE(ここにあり)という文字が浮かび上がり、
ハンネスを失った家族や友人たちも、時間をかけて立ち直り、元気なときの彼のすがたを胸に刻んで
最後の瞬間まで尊厳を保てる安楽死をオススメして映画のほうはさわやかなエンディングでしたが
日本人だったら、ちょっとまだそこまで割り切ることはできない人が多いと思います。

でも日本では、家族や医者の満足だけのために無駄に生かされているケースもないとはいえません。
死ぬことはダメなことで、どんな形でも生きてるほうがいい・・・って、そんなことはないですよね。

学校でもバカの一つ覚えみたいに「命を大切にしましょう」と繰り返され、
死ぬことを考えることすらタブーみたいになってますけど、
死ぬことを考え続けることで、逆に生きることがわかるってものです。

充分に苦しんで、本人が死を望んで、それでもせいぜいが延命治療しないで「自然死を待つ」
っていうのは、どうなんだろう?

これからは私たちの意識も少しずつ変わっていくかもしれません。