映画「歩いても歩いても」 平成20年6月28日公開 ★★★★★

原作「歩いても歩いても」 是枝裕和作 ★★★★★ → 歩いても歩いても②


歩いても



年老いた両親と、結婚して家を離れたこどもたちのドラマ。

音楽はゴンチチ。

どうしたって、淡々とすすむ静かなドラマだと思ってしまいますが、

違いました。

とにかく・・・・

ビックリ!!!でした。


阿部寛演じる横山良多は、

家族を連れて久しぶりに実家を訪れます。

その日は15年前に溺れた少年を

助けて亡くなった兄の命日でした。

元開業医の無愛想な父と料理好きの母。

良多の結婚した妻は子連れの再婚で、

(親には内緒ですが)良多は現在失業中。

もともとそりの合わない父には正直あまり会いたくない。

おまけに父も母も亡くなった兄をほめてばかり。

なんとなく気まずいまま実家に妻と子どもを連れて一泊し、

帰るまでの一日半の「ドキュメンタリー」です。


特に事件も起きず、

何事もない、といえば何事もないのだけれど、

この家族のそれぞれが歩いてきた人生が

ぎゅっと凝縮されていて、

見応えがありました。


冒頭は、姉(YOU)と母(樹木希林)の会話で進行。

セリフかアドリブかわからないくらい自然に

とにかくよくしゃべること!

とめどなく流れる会話をバックに

調理されていく食材

手際よくできあがっていく料理の数々

隣の部屋や庭からもれる音

永年の間に家に堆積した使わない道具類

思い出の写真、本、作文、

今は使われない診察室、薬・・・・・

カメラに映し出される物・物・物も

雄弁にこの家族の昔と今を語ってくれます。


姉家族が帰るまでは

ムードメーカーの姉と

うまく調子をあわせられる義兄たちのおかげで

久しぶりの家族の顔合わせは

和気藹々と進みますが、

彼らが帰ったあとの気まずさは

特になんのエピソードを書かなくても

充分伝わってきます。


時折老親の吐く毒は強烈です。

「子どもがいたら、再婚なんかできっこない」

「めんどうだから、次の子どもは作らない方がいいかもね」

「おまえはホントの親じゃない」

(15年前の少年に対して)

「くだらないヤツのために命をおとしちまった」

「助けてあげたんだから、一年に一回くらい

つらい思いをしてもらわなくちゃ」


ドラマでは、ふつう、

考えなしに人を傷つけるのは若い世代で、

親(特に母親)は

姑としては意地悪でも、

母親としては、「海より深い無償の母の愛」で優しく包み込むもの、と。

年寄りは謙虚で、広い心で、静かに生きている

ろいうのがワンパターンの描き方でした。


でも子どもに対する親の愛は、

一途なあまり、、

ときに盲目的で傲慢で独りよがりです。

そのために人を傷つけることを何とも思っていない。


私は日頃、老人の吐く毒はなぜにドラマでは

出てこないのか、不思議におもっていました。

この映画にはなかったけれど

たとえば、身体障害者や中国・朝鮮の人たちにたいする

強烈な差別発言を平気で口にする老人をよく見ます。

それに限らなくても、

若い人だったら

(心の中で思ったとしても)

絶対に口には出さないことを

平気で言っちゃうのはよくあることです。

まあ、自分の家の中という感心感もあるのだけれど。


むしろ、自己中心で勝手だと思われがちな

孫の方が、(いやいや連れてこられたんだろうに)

場の空気をよんで、

自分の母親がこの家族に受け容れられるよう、

健気にふるまっていたように見受けられました。


濃密な2日間の描写のあと、

阿部寛の短いナレーションで

一気に数年後に飛ぶのは

ちょっとあっさりしすぎかも?って思いましたが。


二人の間には、あのあと女の子も生まれて

免許を取って、車も買って・・・

仕事も見つかって、幸せにくらしているんだな、

と、ほっとしました。

俯瞰した空からの映像は、

亡くなった両親の目線かもしれませんね。


情報量の多い、濃密な映画でした。

退屈するなんてとんでもないです。


タイトルの「歩いても歩いても」は

あの「歩いても歩いても♪」だったとは・・・びっくり!でした。