今日は安部公房の命日。没後20年です。(補足しました) | 「絶望名人カフカ」頭木ブログ

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『絶望名人カフカの人生論』『絶望読書』『絶望図書館』、NHK『絶望名言』などの頭木弘樹(かしらぎ・ひろき)です。
文学紹介者です(文学を論じるのではなく、ただご紹介していきたいと思っています)。
本、映画、音楽、落語、昔話などについて書いていきます。

今日は安部公房の命日。没後20年です。

これを機会にというのもヘンですが、
まだ安部公房の小説を読んだことのない方は、
ぜひ読んでみてはいかがかと思います。

安部公房の作品は、
年代によって、かなり作風が異なります。
(もちろん一貫したものもありますが)

たとえば、こんなふうに分けられると思います。
(これはあくまで私の考えですが)
・初期習作の時期
・シュールレアリスムの時期
・ルボルタージュの時期
・作風確立(シュールレアリスム+ルポルタージュ)の時期
・後期晩年の時期


このうち、それぞれの時期に、ファンがいて、
「これがベスト」とぞっこんだったりします。

私は個人的には、
やっぱり作風確立の時期の作品が好きです。

作家は、その人自身の方法を、この作品で確立した、という作品があるものです。
深沢七郎のようにデビュー作から確立されている人もいますが、
通常は、試行錯誤があるものです。

たとえば、
落語家の枝雀さんは、
小米の時代はまるで芸風がちがいます。
枝雀を襲名して、芸風を確立しました。
藤子不二雄なら「オバQ」ですね。
あだち充から「みゆき」でしょうか。
カフカの場合は、「判決」がそれで、
これは当人がそう書いています。

安部公房の場合、それは、
『砂の女』です。
『砂の女』が代表作ということについては、
おそらく異論はあまりないでしょう。
それでは当然すぎるから、別の作品をあげたいという人はいるでしょうが。

『砂の女』に到達した後、
『他人の顔』
『燃えつきた地図』
『箱男』
『密会』

と名作が続きます。めまいがするほど素晴らしいです。

個人的には『箱男』がひとつの到達点だと思っています。
『密会』も素晴らしいですが。

というわけで、
これから安部公房を読もうという人には、
私としては、
やはりまず『砂の女』から読んでみることを
オススメします。
手に汗ににぎる「脱出モノ」としても楽しめます。
新潮文庫に入っていて、
入手もいちばん簡単です。


砂の女 (新潮文庫)/新潮社

¥546
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それで面白いと思ったら、

『他人の顔』
『燃えつきた地図』
『箱男』
『密会』
と続けて読んでいかれることをオススメします。

もちろん、これは私のオススメであって、
別の人なら、別の作品をすすめるでしょう。

なお、安部公房はエッセイも面白いです。
夢の話などを書いている
『笑う月』はとくにオススメです。
エッセイの好きな方は、
この本から安部公房に入るというのも、
ありだと思います。


笑う月 (新潮文庫)/新潮社

¥420
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と、ここまでは小説・エッセイの話ですが、
安部公房には他に、
戯曲、テレビドラマ、ラジオドラマの名作があります。
演劇に関しては、
自分で「安部公房スタジオ」という劇団を設立して、
自分自身のメソッドによる演技指導から始まって、
戯曲、演出、音楽まで作っています。

戯曲に関しては、こういう文庫が出ています。
「友達」という作品は代表作で、名作です。


友達・棒になった男 (新潮文庫)/新潮社

¥500
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この演劇のDVDが残念ながら、まだ出ていません。
音楽もCDになっていません。

テレビドラマやラジオドラマも、
DVDやCDになっていません。

今年はこうしたものが出ると、
いいなーと思います。

なお、
新潮社から安部公房全集(全30巻)が出ています。
時代順にほとんどすべての原稿が収められている、
完璧なものです。
ハマった人はぜひこちらもどうぞ。


安部公房全集〈1〉1942.12‐1948.5/安部 公房

¥5,985
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補足です。

うっかり忘れておりましたが、
ラジオドラマの中で、
「チャンピオン」は、
CDで聴くことができます。

作・安部公房
音響・武満徹
で、現実音を組み合わせた、実験的な作品です。

武満徹全集

これの第5巻「うた、テープ音楽、舞台・TV・ラジオ作品、補遺」
に入っています。

ただし、定価が29,400円もします…。

武満徹全集 第5巻 うた、テープ音楽、舞台・TV・ラジオ作品、補遺/小学館

¥29,400
Amazon.co.jp

なお、Twitterでホッタタカシさんに教えていただいたのですが、
この同じ巻に入っている「白い恐怖」も、安部公房のラジオドラマとのことです。

……

それから、
テレビドラマとラジオドラマの一部は、
横浜の「放送ライブラリー」で視聴することができます。
それについては、
安部公房ファンのための無料月刊誌「もぐら通信」
第4号に詳しく載っています。
ホッタタカシさんの「放送ライブラリーで安部公房ドラマを楽しもう!」
です。

もぐら通信 第4号

なお、「もぐら通信」については、
こちらに記事があります。

毎日新聞 月刊「もぐら通信」、読者広がる