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厨房から出てきた『緑の乙女亭』の主人は、


いつもと違う店の様子に戸惑った。



ちょうど夕食前に小腹が空いた人たちが、


ビスケットを食べに来る時間帯で、


『緑の乙女亭』が込み合う時間帯だった。



しかしその日の店内は、 がらんとしているのだ。


いや、客はいつもより多いのだが、


何故か皆、店の入り口辺りに固まって立っている。



しかもその客達からは、


喋り声や笑い声がほとんど聞こえてこなかった。



しんとした店内に、


表の通りから聞こえてくる雑音と、


ビスケットを齧る音だけが、遠慮がちに響いている。



不思議な光景だ。



(いったいどうしたって言うんだ。


 みんなエームとイチを見ているのか?)



『緑の乙女亭』の主人は、


客たちの中へ太った体を無理やり押し込んだ。



客たちは、入り口の辺りにぽっかりとあいた


広い空間を囲んでいた。



そこには椅子が二脚、向かい合わせに置かれていた。


座っているのはエームとイチだ。



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