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「ねえ、これってもしかして、からくり人形?」


エームは棚の中から、何かを取り出し、イチの方を振り返った。



突然、イチの頭の中に、草原の落とし穴で嗅いだあの呪いの匂いや、


ジンゴロ爺さんの叫ぶ声が、よみがえった。


『からくり王国を探せ!そして・・・』



「どうしたの?」


エームは、訝しそうに言った。



イチは瞬きをして、首を振った。


「いえ。なんでもないです。


 ただ・・・・。


 ただ、これまで長い旅をしてきて、昨日初めて


 からくり人形を見たばかりなのに、


 今日もまた別のからくり人形に出会ったと思うと・・・・。


 少し、驚いただけです」



エームはうなずいた。


「確かに、からくり人形なんて二日連続で出会えるものじゃないわ。

 

 家の奥においておいて、めったに出してきたりしないものだもの。


 あたしだって、うちの人形以外見た事ない。


 でも、ちょっとこれを見て」



イチはエームの手の上に乗った、寄木細工の綺麗な小箱を見た。


小箱の上に、木製の子猫が座っている。


ただ、それだけだ。



「これがからくり人形なんですか?」


「ここを見て」


エームは小箱の横に飛び出た、蝶のような形をしたものを指差した。



「これ、たぶんネジよ。


 うちにあるからくり人形も、背中に、こんなネジがついてるの。


 これをまわせば、からくりが動くのよ」



エームはそれを指先でつまみ、回そうとした。


「あら?駄目だわ。まわらない」



「そりゃそうよ。壊れてるもの」


二人は背後からの声に、驚いて振り返った。


いつの間にか鍵を手に戻ってきたサラだった。



「これ、やっぱり、からくり人形なの?」


エームが勢い込んで聞いた。


サラは眉間に皺をよせ、首をかしげた。



「どうかな。分からないわ。


 父さんが、仕入れてきた時には、もう壊れてたから。


 からくり人形は欲しい人が多いから、壊れてても売れるの。


 だから、最初から動かない偽物の人形が、


 壊れたからくり人形だって言って売られてる事もよくあるのよ。


 これがそういう偽物なのか、それとも本物なのか分からない。


 箱を開けたら、からくり仕掛けらしいものがあったけど、


 それっぽく見せてるだけかもしれないし。


 壊れたからくり人形を直すなんて、すごくお金がかかるから、


 誰も確認なんて出来ないのよ」



「イチ。あなたはどう思う?これは本物?


 絵師のあなたになら、分かるでしょ」


エームが小箱を差し出して言った。



イチは首をかしげた。


「絵師には、そんな事分かりません。


 それに私が、からくり人形を見たのも、昨日が始めてです。


 見分ける事は無理ですよ」



そう言ったもののイチは小箱を受け取り、しばらく見つめていた。


そして、ぽつりと呟いた。


「これは本物かもしれない」




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