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「たぶん、父さんが何処かに片付けたんだと思う。


 ちょっと待って。今考えてみるから」


サラは立ち上がり、腕を組むと、ぶつぶつ呟きながら、


せまい空間の中を、ぐるぐると歩き回りはじめた。



イチはぶつかりそうになるサラの肘を避けて、


背中を丸め、頭を低くした。


隣の椅子で、同じような姿勢をしたエームが、イチに向かってささやいた。



「サラの父さんはね、散らかし屋なくせに、時々思い立って


 めちゃくちゃに片付けをはじめるの。


 自分の物も、商品も、サラの物も全部ね。


 でもすごく変な場所に片付けるから、


 何処に片付けたのか後になって思い出せなくなってるの。


 そのせいで、サラは小さい頃から、


 なくなった物を探し続けてるのよ。毎日毎日ね。


 今では、サラの父さんより、早く見つけ出せるようになってるから、


 サラにまかせておけば、間違いないわ」



イチはうなずいた。


「分かりました。邪魔しないように待っていればいいんですね」


「そうよ」


二人とも椅子を隅の方に動かし、頭を低くして、じっと待った。



しばらくすると、サラはぴたりと止まり、


絵の具がしまわれていたはずの棚を指差した。


「父さんがこの棚を片付けようとしたとするでしょ。


 すると、いったん、中の物を全部出して、この上に置くはず」



サラは棚の横に置かれた木箱の前にしゃがみこみ、


その上を指でなぞった。



「ほら、ここに木炭のカケラが落ちてる。


 木炭は、あの棚に入ってたはずだから、


 父さんがここにあの棚の中身を置いたのは、間違いないわ。


 でも、今、この木箱の上には何も置かれてない。


 それなら、ここにあったものは、別の場所に片付けたって事。


 父さんは何処に片付けたか」



サラは立ち上がり、あたりを見回した。


「最近、始めたばかりの絵画教室は、すごく上手くいってる。


 だから、父さんが木炭や絵の具を片付けようとした時、


 絵画教室の事を考えたはず。


 教室は、奥の部屋でやってる。


 でも、奥の部屋には置こうとは思わなかったはずよ。


 絵画教室の生徒さんに、画材を売るとき、同じ部屋から出して売るより、


 別の部屋から持ってきた方が、特別な物のように思わせる事が出来るから。


 そしたら高い値段でも買ってくれるかもしれないでしょ」



「なるほどね。おじさんが考えそうな事だわ」


エームがつぶやいた。



「だから奥の部屋に一番近い棚の中にあるはずよ」


サラは奥へと続くドアの前に置かれた棚の前に立ったが、


何故か眉間に皺をよせ、首を振った。



「違うわ。


 画材を買う生徒さんが、奥の部屋から父さんについて来るかもしれない。


 ドアからすぐ出た場所にあるこの棚じゃあ、安っぽく思われる。


 だから、もっと奥まった、特別そうに見える場所に置かなきゃいけないわ」



サラはぐるっと辺りを見回すと、部屋の角に、


奇妙な角度で置かれた棚を指差した。


「見つけた。あの棚よ」


「本当に?どうして分かったの?」


エームが椅子から立ち上がり、駆け寄った。



「だって、あの棚は、前にあった場所から、


 もっと奥の方に動かされてるもの。


 父さん以外、動かす人はいないわ。だから、あそこよ」


サラはつかつかとその棚に近づき、


棚の横に隠すように置かれた椅子に目を止めた。



「こんな所に椅子が置いてある。これは、物置にしまってあった椅子よ。


ふうん。それなら、椅子に乗らないと手が届かない上の方に置いたのね」



サラは椅子を引き寄せると、それに乗り、一番上の棚に手を伸ばした。



「鍵がかかってる。ここで決まりね。


この棚の鍵は、台所に置いてあったはずよ。すぐ取ってくるわ」


サラは椅子から飛び降りると、鍵を取りに走って行った。



エームは珍しそうにその棚を見上げた。


少し変わった棚だった。


蓋がついている段と、ついていない段が、交互にあった。



エームはその棚の蓋をひとつひとつ開け、


中を覗き込んでいった。



そして、それを見つけた。


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