「どうしてそう思うの?」
両腕を組み、試すようにサラが聞いた。
イチは小箱を手のひらの上にのせ、二人の前に差し出した。
エームは小箱よりもイチの指に目を奪われた。
それは長く、繊細な形をしていた。
「説明します」
すぐ側でイチに言われ、エームは急いで小箱の方へ目を移した。
「この子猫は、とてもよく出来ています。
例えば、耳のところを見てください。
こんなに小さいのに、まるで生きている子猫の耳みたいだと思いませんか?
これを彫った人は、よほど腕の良い職人です。
普通に売られていても、かなり高価な品だと思います。
それなのに、ほら、顔のところを見てください。
薄く切れ目が入っている。
耳や、腕や、尻尾にも、切れ目があります。
こんなに良く出来た彫刻を、わざわざ切り分けて、
分解してあるんです。
それには必ず意味があるはずです。
つまり・・・・」
「つまり、からくり人形にするためなのね」
考え込むようにサラが言った。
「ええ。そう思います」
「でも、からくり人形に見せかけて、高く売る為に、
わざと切り目を入れてるのかもしれない」
サラが言った。
「確かにそうですね」
イチはあっさりと認め、サラに小箱を返した。
大切そうに小箱を受け取ったサラは、
確認するように、子猫に入った切り目を指で撫で、
ため息をついた。
「父さんには黙っておくわ。
これが本物かもしれないなんて知ったら、
すごく高い値段で誰かに売ろうとするはずだから」
「おじさんは何処でこれを仕入れて来たの?」
エームが、そっと指を伸ばし、子猫の頭を撫でた。
「分からない。
父さんは、しょっちゅう何処からか
変な物を仕入れてくるんだもん。
エームも知ってるでしょ」
エームはくすりと笑った。
「知ってる。
あれも全部、何処から仕入れてきてたのかしら。
でも、たぶん、船で運ばれてきた荷物の中にあったのよね。
この町にある珍しいものは、みんな船で運ばれてきた物だもの」
サラはしばらく黙りこんだ後、はっきりした声で言った。
「違うわ!」
「どういう事?」
エームが驚いて聞いた。
サラは大きく目を開いて、エームを見た。
「だって、父さんがこの小箱を持って帰ってきたのは、
4日前よ!」
エームは少し考え、はっとしたように小箱を見つめた。
「4日前には船はいなかったわ。
船が来たのは、昨日よ」
イチも思い出したように、うなずいた。
「そうですね。私が昨日、この町についた時に、
船から荷物が降ろされているのを見ました」
「それじゃあ、おじさんは、この町の中でそれを手に入れたって事?」
エームの質問に答えようともせず、サラは考え込みながら、
そこら中を歩き回りはじめた。
やがて、ぴたりと足を止め、二人に言った。
「秘密の店で買ったのかもしれない」
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