監督:石井裕也
キャスト:松岡茉優/窪田正孝/池松壮亮
配給:東京テアトル
公開:2023年10月
時間:140分
コロナ禍とその後の社会や家族を描いた作品から,今夜は『愛にイナズマ』を紹介。『舟を編む』『バンクーバーの朝日』の石井裕也監督が自ら脚本を手掛けた完全オリジナル作品。映画監督になる夢を理不尽に奪われたヒロインが,長年音信不通だったダメダメな家族を頼り,反撃の映画制作に乗り出す中で再生していくさまを描いたコメディ・ドラマだ。
26歳の折村花子(松岡茉優)は気合に満ちていた。幼い頃からの夢だった映画監督デビューが,目前に控えていたからだ。だが物事はそううまくはいかない。滞納した家賃は限界で強制退去寸前。花子の若い感性をあからさまにバカにし,業界の常識を押し付けてくる助監督の荒川(三浦貴大)からは露骨なセクハラを受け怒り心頭。そんな時,ふと立ち寄ったバーで,空気は読めないが,正直で正義感の強い舘正夫(窪田正孝)と運命的な出会いを果たし,ようやく人生が輝き出す。
ところがその矢先,無責任なプロデューサー・原(MEGUMI)に騙され,花子は全てを失ってしまう。ギャラももらえず,大切な企画も奪われ,失意のどん底に突き落とされた花子を励ますように,正夫が問う。「花子さんは,どうするんですか? 映画諦めるんですか?」 イナズマが轟く中,「舐められたままで終われるか!」と反撃を決意した花子が頼ったのは,10年以上音信不通の家族だった。妻に愛想を尽かされた父・治(佐藤浩市),口だけはうまい長男で社長秘書の誠一(池松壮亮),真面目ゆえにストレスを抱え込む次男で神父の雄二(若葉竜也)。そんなダメダメな家族が抱える“ある秘密”を暴き,「自分にしか撮れない映画で世の中を見返してやる!」と息巻く花子だったが…。
コメディとは言ってもこの役者たちが揃うと,とても奥深いドラマに仕上がる。そんなお手本のような秀作。プロローグと7つのチャプターで,多彩な演技派たちの上手さを際立たせつつ,家族のそれぞれが自己と家族を再生させていく。
英題は『Masked Hearts(マスクで覆われた心)』。マスク(仮面)の下に隠しにしてきた本音,マスクで隠した口元に我慢していた言葉が,3年のコロナ禍を抜けて発散される。その真っ直ぐさと潔さの構成も心地よい。物語中に3度現れる妙な“1500万円”の符合も考えさせる。
ちなみに,劇中映画の主演俳優役の中野英雄と,正夫の親友で役者の卵を演じた仲野太賀は,絡むシーンこそないが父子初共演。こんな配役にも粋な演出を感じた。
クタ評:★★★★☆
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