監督:石井裕也
キャスト:妻夫木聡/亀梨和也/勝地涼
配給:東宝
公開:2014年12月
時間:132分
日本人アスリートの海外での活躍がめざましくなったのは2000年頃からだろうか。今では野球をはじめ,サッカーやテニスでも,世界に肩を並べる選手たちのニュースを見聞きするようになった。スポーツはその肉体技で見る者に感動を与え,時に差別や偏見さえもなくしてゆく。今夜はそんな作品を紹介したいと思う。
1900年代初頭,多くの日本人が新天地での成功を夢見てカナダへと渡った。しかし,そこに待っていたのは容赦ない差別と低賃金による過酷な肉体労働だった。貧困にあえぐ日系移民の人々は,その日を生きるのに精一杯で,夢や希望を抱くこともできぬままでいた。そんな中,日本人街に野球チーム“バンクーバー朝日”が生まれる。最初は白人チーム相手に体力的にまるで歯が立たず,万年リーグ最下位であったが,彼らのプレーは日本人街の希望の光となっていった。
ある年,キャプテンに就いた日系二世のレジー笠原(妻夫木聡)は,敵の三塁手が大柄で動きが鈍そうなことからセーフティバントを思い立ち,さらに盗塁を組合せて念願の得点を取ることに成功した。これをきっかけに,バントと盗塁を多用するプレースタイルを思いつく。その大胆な戦法は“頭脳野球”“サムライ野球”と呼ばれ,同時にフェアプレーの精神でひたむきに戦い抜く彼らの姿は,日系移民たちに勇気や希望をもたらし,白人社会からも賞賛と人気を勝ち取っていくのだった…。
“バンクーバー朝日(Vancouver Asahi)”は,1914年から1941年まで,カナダ・バンクーバーに実在していた日系カナダ移民の二世を中心とした野球チーム。2003年にはカナダ野球の殿堂入りを果たした。最盛期には5軍まであったというから,映画よりはかなり大規模なチームだったことになる。
栃木県に組まれた,当時のバンクーバーの日本人街や野球場を備えた広大なロケセットで繰り広げられる朝日軍の苦悩と活躍と,やがて訪れる運命。野球を通して誇りを取り戻そうとする若者たちの姿が,セピア色の哀愁の中できらめきを放つ。ピッチャーのロイ永西には亀梨和也,キャッチャーのトム三宅には上地雄輔,チーム監督のトニー宍戸には鶴見辰吾,レジーの父親・清二には佐藤浩市。他に,宮﨑あおい,ユースケ・サンタマリア,高畑充希など共演陣も豪華。
監督は『舟を編む』(2013年・松竹)の石井裕也。現状も運命も悲壮に描くのでなく,ひたむきに前を向く清々しさが心地よい。
クタ評:★★★★☆
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