監督:サム・メンデス
キャスト:ジョージ・マッケイ/ディーン=チャールズ・チャップマン/マーク・ストロング
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ/東宝東和
公開:2020年2月
時間:119分
今年2月に公開された話題作から,今夜は『アメリカン・ビューティー』(2000年・ドリーム・ワークス)『007 スペクター』のサム・メンデス監督が,見る者を“とんでもないリアリティ”へとブチ込む作品を紹介。
クリストファー・ノーランの作風に影響を受けたとされる『007 スカイフォール』で顕著に表れた“人間の闇”へのスポットが,今回はリアルな主人公の眼を通して“戦争の闇”を映していくアカデミー賞3部門獲得の秀作だ。ストーリーはフィクションだが,メンデス監督が,第一次世界大戦中にイギリス軍で西部戦線の伝令を務めていた祖父のアルフレッドから聞いたエピソードを多用しているという。
なお,西部戦線とは第一次世界大戦中のベルギー南部からフランス北東部にかけての戦地。ドイツとイギリス・フランスなど連合国の最前線となっていた。
第一次世界大戦真っ只中の1917年4月6日。西部戦線ではドイツ軍の後退が始まり,イギリス軍はこれを好機と,追撃に乗り出そうとしていた。しかし,それは“アルベリッヒ作戦”というドイツ軍の罠だった。連合国軍をヒンデンブルク線にまで誘引しようとするものだったのだ。航空偵察によってこの事実を把握したイギリス陸軍は,明朝に突撃する予定のデヴォンシャー連隊第2大隊に,一刻も早くこの常法を伝えなければならなかったが,あいにく通信手段は途絶えてしまっていた。
そこで,エリンモア将軍(コリン・ファース)は2人の兵士,トム(ディーン=チャールズ・チャップマン)とウィル(ジョージ・マッケイ)を呼び出し,明朝までに現地へ行って連隊に作戦中止の伝令を伝えることを命じる。第2大隊には1600名もの将兵が所属しており,その中にはトムの兄・ジョセフ・ブレイク中尉(リチャード・マッデン)も含まれていた。こうして2人は塹壕を抜け出し,屍臭漂い,どこに敵が残るかも分からぬ無人地帯(ノー・マンズ・ランド)へと飛び込んでいくのだったが…。
“戦争映画”と言うよりは“臨場体験映画”と言った方が的確かもしれない。2人の若きイギリス兵の1日を,全編ワンカットに見えるように密着して追いかける。実際には複数回の長回しで撮影された映像を,ワンカットに見えるように繋いだものらしいが,これを可能にしたストーリーとカメラの動きの綿密な計算を思うと,ひたすら敬服してしまう。
圧倒的な臨場感が淡々と,しかし驚くほど生々しく,見る者に“戦争”と“生死”について問いかける。それは,考えるほどに正解のない問いだが,人間として常に忘れてはならないテーマでもあると思うのだ。
出番は少ないが共演として,ウィルを気遣う部下思いのスミス大尉をマーク・ストロング,デヴォンシャー連隊長・マッケンジー大佐をベネディクト・カンバーバッチが演じている。
クタ評:★★★★☆
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