キャスト:小栗旬/宮沢りえ/二階堂ふみ
配給:松竹/アスミック・エース
公開:2019年9月
時間:120分
人間は,恋と革命のために生まれてきた
何と官能的で斬新なフレーズだろう。代表作『斜陽』に登場するこの言葉を,蜷川実花監督はあえて“ひとり歩き”させ,観る者の興味を増大させる。そんな,上映中の作品を今夜は紹介。
『Diner ダイナー』からわずか2ヶ月。構想に7年を費やした蜷川実花監督4作目の主人公は太宰治。死の直前に完成させた『人間失格』は累計1200万部以上を売り上げ,歴代ベストセラーのトップを争う“世界で最も売れている日本の小説”。その小説よりもドラマチックだった〈誕生秘話〉が初めて映画化されたものだ。蜷川組常連のスタッフに加え,脚本に『紙の月』の早船歌江子,撮影に『万引き家族』の近藤龍人,音楽には世界的巨匠・三宅純を迎え,日本映画界最高峰のチームが集結している。
1946年。37歳の太宰治(小栗旬)が妻子と共に疎開していた生家の津軽から三鷹の自宅に戻って来た,死の2年前から物語は始まる。
身重の妻・津島美知子(宮沢りえ)と2人の子どもがいながら,絶えず恋の噂がつきまとい,自殺未遂を繰り返す天才作家・太宰治。その破天荒で自堕落な私生活は文壇から疎まれる一方,ベストセラーを連発してスター作家となっていた。
やがて,作家志望の太田静子(沢尻エリカ)の文才に惚れ込んで激しく愛し合い,同時に未亡人の山崎富栄(二階堂ふみ)にも救いを求めていく太宰。2人の愛人に「子どもがほしい」と言われるイカれた日々。酒と恋に溺れる太宰は,それでも夫の才能を信じる美知子に叱咤され,ついに自分にしか書けない“人間に失格した男”の物語に取り掛かるのだったが…。
〈蜷川実花監督=全編極彩色〉というイメージを覆す,抑えられた色彩にまず驚く。クライマックスのヴィヴィッド感を際立たせるためと判ってはいても,それが視覚的効果だけでなく,時代とキャラを最大限に浮かび上がらせるのだ。
代表作『斜陽』で太宰は,主人公かず子を通して“全てを壊して一から生まれ変わる人間の在り方”を希求していたと言われている。
人間は,恋と革命のために生まれてきた
というフレーズに,そこまでの背景を読み取るか? 単に扇情的なキャッチと考えるか? 登場キャラの思いを重ねるか? で,幾重にも楽しみ方を膨らませてくれる,蜷川実花監督の最高傑作だ。
究極のダメ男でモテ男,才気と色気にあふれた最高にセクシーでチャーミングな,かつてない太宰像。美知子,静子,富栄と,一見太宰に振り回されているようで,実は自分の意志で力強く生きている女性たちの“破壊と再生”のエナジーを,実話だからこそ,フィクションだからこそのバランスで描いた1本。評価は分かれそうだが,あえて★5つ出しちゃう♪
ちなみに,1948年6月13日,富栄と玉川上水に入水し,奇しくも太宰の誕生日である6月19日に遺体発見となった心中事件。富栄に「死にましょう」と言われて簡単に承諾したものの,死の直前になって生への執着が太宰の胸を横切ったという推測もある。そんなことも知っていると,冒頭とエンディングが味わい深い。
クタ評:★★★★★
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