十六歳のアメリカ ニュー・ファミリー 二四、馬小屋で 74 | 六月の虫のブログ

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二四、馬小屋で (At a Barn) 

 ハーシャーのワドリー家からカンカキーのマクナマラ高校まで車で四十分前後かかった。また、天候によっては一時間以上を要することもあった。この学校までの交通手段だが、ワドリー家から車でさらに十分程行ったところの農場に住んでいる同級生のスコット・ウィラー (Scott Wheeler) の車で一緒に通学することになっていた。スコットは非常におとなしいタイプの人間で、眼鏡を掛けていた。彼は、八時十五分前に彼の愛車フォードの「ベガ」で迎えに来る。「ベガ」はスポーティーな小型大衆車だが、車について興味も知識もなかったボクには「ベガ」がスーパー・カーに見え、毎日スーパー・カーで学校に通っていると日本の友達への手紙に書いた。

 彼には、ステップ・シスターで九年生のシェリー・アシュクラフト (Sherry Ashcraft) がいた。彼女は、養女でスコットや彼の両親とは血がつながっていなかった。彼女は、美人と言うより可愛いタイプの女の子で、まだまだ顔も身体も子供のあどけなさが残っていた。彼女は十四才で、日本でいうとまだ中学三年生だから無理もない。「ベガ」の前の座席には運転するスコットとシェリーが座り、ボクは狭い後部座席に座ってマクナマラ高校までの四十分間を過ごした。

 スコットは、五人兄弟の上から二番目で、彼の両親はカンカキーで印刷工場を経営していた。農場は、誰かに任せているらしい。学校の後、週数回はスコットもその印刷工場で働いていたため、ボクはシェリーと一緒に工場の中で宿題などをしながらスコットの仕事が終わるのを待った。そういう訳で、シェリーと一緒に過ごす時間が長くなり、彼女とは非常に仲良くなった。彼女はマーチング・バンドでクラリネットを吹いていて、彼女はスコットの仕事が終わるのを待つ間に工場の休憩室でよくクラリネットの練習をした。シェリーのお陰で、待ち時間も楽しく過ごせ、スコットが印刷工場で働く日は、ワドリー家に帰るのが夕方の六時前になったが気にならなかった。

 スコットたちの住んでいる農場は公道から二百メートルくらい入ったところにあり、雪が降るとウィラー家の私道に積もった雪を空かさないと、車が出せない。雪が降った翌日、ウィラー一家は早く起きて家族総出で、雪かきをしなければならないのだ。学校に遅れそうになると、スコットから電話が掛かってくる。ワドリー夫人は気を揉んでいるが、ボクは外を見ながら気楽に待つ。スコットが到着すると、ワドリー夫人はほっとするのか、大きな声で ”Here´s Scott!” と叫ぶ。遅刻の場合は、スコットの父兄のサインした遅刻理由の書いてあるメモを持って職員室へ行って、パスを貰う。これがないと、遅刻扱いになってしまう。雪のため、学校に遅れることは結構多かった。ちなみに、その冬はイリノイ州で二十数年振りの積雪量を記録した。



シボレー・ベガ(フリー画像より)。スコットのベガもオレンジ色だった。