心の安定のための人生哲学 第16回
他人を許し、自分を許す
色々な人から相談を受ける中で、自分の過去の失敗・過ちがいつまでも気になり、苦しんでいるという悩みをよく聞きます。特に、過去は変えられないので、その傷がいつまでも残ってしまうのでしょう。
そして、中には、それがフラッシュバックしてきて、精神的に病んだ状態になる人もいるようです。後悔も反省という意味では必要ですが、こうして心の病にも繋がるならば、反省に基づく改善ではなく、その逆の自己破壊に至ってしまいます。
今回は、こうした問題を和らげるにはどうしたらよいか、いくつかお話ししたいと思います。
まず、過去の失敗の反省がしっかりできているか、というポイントがあると思います。
反省と後悔は違うと思います。後悔は、失敗した自分を悔やんでいるだけですが、反省は失敗の原因を理解し、今後繰り返さないように努めることだと思います。
ところが、過去の失敗の反省ができていないと、はっきりと自覚していなくても、自分は同じ失敗を繰り返すのではないかという不安が生じるでしょう。すると、いつまでも後悔し続ける心理状態が生じても不思議ではありません。
よって、しっかりと反省する、すなわち、失敗・間違いを明確にして、その原因を分析して、自分なりに解決策を考えて、自分に言い聞かせるべきだと思います。こうして、しっかりと反省ができたら、もう繰り返すことはないと自分に言い聞かせて、適切な自信を持つべきだと思います。
次に、自己愛が過剰な場合に、後悔が続く可能性があると思います。
つまり、例えば、気づかないうちに、あたかも自分は完全でありたい(失敗のない人間でありたい)と思っていたのに、その失敗によって、その欲求が打ち砕かれて、悔やんでいる状態です。
こうして、後悔の裏に、過剰な自己愛があるのではないでしょうか。反省は、自己を不完全と認め、自己を改善していくことです。だから、過剰な自己愛があったらでできません。一方、後悔は、自己愛が満たされない状態に苦しんでいる状態です。
この場合は、人はそもそも不完全なものであって、失敗から成功を導いていくものだと考るべきだと思います。すなわち、失敗は成功の元であるという考え方です。そして、本当の成功の道とは何かを考え直すべきだと思います。
こうした考え方がないと、一度失敗をすると、2度目の失敗を恐れて、チャレンジができなくなり、消極的な生き方になります。しかし、全くチャレンジせず、失敗も成功もないことは、最大の失敗ではないでしょうか。なんの経験もできなければ、なんの智恵も生じないからです。
エジソンが、1000回目の実験で白熱電球を発明した際に、その前の999回の失敗は、「失敗ではなく、これでは成功しないということを知った成功へのステップであった」と語ったことは、前にもご紹介しました。
こうして、1.生まれたままの人間は不完全な生き物であり、2.失敗とは、これでは成功しないことを知る過程であり、3.人間とは、失敗を成功の元としてより賢くなり、真の成功に近づく生き物だなどと考えることが重要だと思います。
これを言い換えると、完全な自分、全く失敗のない自分でありたい、というとらわれを捨てることだと思います。
最後に、他人を許さない性格です。
他人の間違い・失敗を許さない人ほど、結果として、自分の間違い・失敗も許せず、後悔が、いつまでも続く可能性があると思います。
他人の失敗に対して、容赦なく怒り、憎んだ分だけ、自分が失敗した時には、その刃が自分に返ってくるのではないでしょうか。人は、自分について考える場合も、他人について考える場合も、同じ自分の心で考えるからです。
一方、人は皆、悪魔ではなく、無知や苦しみや弱さから、悪に陥っていくと考える人は、自分と他人の双方について、間違い・失敗を犯すことを許しやすいと思います。
ここで、私は、単純に許せばよいと主張しているのではありません。厳しさと優しさは、人を育てる、愛する上で、左右の両輪だと思います。すなわち、バランスが重要だと思います。
しかし、厳しさが、人を育てることが目的である以上は、厳しすぎることで、自分も他人も潰してしまっては、厳しさの意味がなくなると思います。逆に言えば、優しすぎれば、自分も他人も堕落してしまいます。
ですから、結論としては、自分と他人が成長する程度に、過ちを許し、それ以上は許さないというのが理想だと思います。
最後に、過去になした何らかの罪に関しては、反省して繰り返さないようにはできても、過去の罪自体をなくすことはできません。
しかし、じめじめと後悔するばかりで、結果として、メンタルを病んだとしても、自分も他人も幸福にはなりません。他人に迷惑をかけることにさえなるでしょう。
そこで、その過去のマイナスを未来のプラスにつなげることを考えてはどうかと思います。
例えば、自分が罪を犯した人は、その体験を活かして、自分に対して、他人が同じような罪をなした時に、許すように努めることはできると思います。
さらに、自分がなした反省・改善の体験を活かして、他人が反省・改善することを助けることもできると思います。特に、類は友を呼ぶと言います。似たような欠点を持つ人と、縁ができる可能性があるのではないでしょうか。
こうして、過去のマイナスを未来のプラスに変え、過去のマイナス以上のプラスを未来に作るように努めてはどうでしょうか。少なくとも、自分にそのように言い聞かせて、前を向いて生きることは、できるように思います。