心の安定のための人生哲学 第15回
心の広がりと落ち着きの関係
このシリーズでは、心の安定のための智恵について述べてきました。そして、心の安定の道を求めていくと、最終的には、心の広がりと一体不可分だと分かります。
つまり、本当に落ち着いた心とは、心が広い状態であり、広い心は、同時に落ち着いた心であるということです。
これは、人が苦しむのは、自分のことばかりを考えるからです。その反対が、他者・全体のこと考える広い心です。
これが仏教の(悟りのための)心理学です。よって、仏教は、自分のことばかり考える意識=自我執着を苦しみの根本原因と見なします。そして、それを和らげる教えをいろいろと説きます。
その意味で、仏教の人生哲学では、「私」や「私のもの」に対する過剰な執着を減らすことや、他者・全体を愛する「慈悲」を培うことが重視されます。
重要なことは、執着を減らしたり、慈悲を培うことが、他人のためだけではなく、自分の幸福・心の安定につながる、という視点です。
こうして、常日頃から、心を広くするように意識すると、自ずと、心が落ち着いてくるということになります。逆に、自分のことばかり考えると、心が不安定になるということになります。
自分のことばかり考えていると、他人の幸福をすなおに喜べずに妬みの感情ばかりが生じて、心が不安定になると思います。
他人ばかりが幸福に思えてしまうわけです。実際にはそういうことはなく、恵まれているように思える人にも、それがゆえに苦しみがあると思います。
また、嫌なことがあると、自分だけが不幸であるかのように感じられて、落ち込んでしまいます。
実際には、世界には無数の人が様々な苦しみを抱えているにもかかわらず、それが心の視野には入らない状態です。
他人に傷つけられたり、他人が悪いことをすると、その人がなぜそうするに至ったかは考えることなく、怒りばかりがわいて、その怒りが、自分自身の心身を傷つけます。
実際には、先天的ないし後天的な無知、苦しみ、弱さがあって、そうするようになるのであり、それによって、自分自身も傷つくのだと思います。
では、なるべく広い心を培うにはどうしたらよいか。これがすべてではないですが、重要と思うことをいくつか列挙します。
1.広い心を持つ良さについて良く考えて、
心を広くしようと自分に言い聞かせること。
これも瞑想の一つです。
2.上記の考えに即した言動をなるべく行うこと
つまり、頭の中と行動を一致させること。
これは仏道修行で善行と言われるものです。
3.心が広がる結果をもたらす、運動を行うこと。
これは、ヨガ・仏教などでは、(身体)行法など
と言われています。
4.心が広がるような環境に親しむこと。
たとえば、大自然の雄大な風景に親しむと、
自ずと心は広がりますね。
日本の仏教史に燦然と輝く、高野山真言宗の開祖、弘法大師空海という人物がいます。彼の名前は「空と海」という意味です。
天に広々とした空が広がり、地に水平線が広がる海の浜辺などは、心を広げるには、非常に良い環境だと思います。また、ある程度の高さの山に上って、周囲に広がる自然の風景を見るのもよいと思います。
一方、都会の生活では、視野が遮られがちで、なかなか、そうした体験がしにくいですね。
しかし、ビルの屋上などからは、広々した風景を見ることができます。そうした時に、その中で無数の人が様々な喜怒哀楽を持って生きていることを考えてみることはできますね。
最後に、心を広く持つ最大の秘訣は、心が広がった時の心地よさを体験することに尽きると思います。それを体験すれば、その心地よさを再び求めて、色々な工夫もするようになるものだと思います。