2007年の夏にゲントのシントバーフ大聖堂で見た祭壇画「神秘の子羊」は
第二次大戦中にナチスに奪い去られたもののドイツの岩塩坑で見つかって戻されたと
聞いていたですが、こういう経緯だったのだねぇ…と
映画「ミケランジェロ・プロジェクト」で知ることになりました。
このタイトルと「史上最大、最高額のトレジャー・ハンティング!」との惹句からして、
華麗なる美術品大泥棒の話でもあらんかと思ってしまうところですけれど、
オリジナルのタイトルは「The Monuments Men」。
ナチス (というよりヒトラーやゲーリング)がヨーロッパ中から掻き集めた美術品。
どこかに隠されている美術品の数々を見つけ出して元の場所に戻す、
これを任務とするチームが「モニュメンツ・メン」と呼ばれたようで。
「神秘の子羊」祭壇画を今日でも見ることができるのは彼らの活躍の賜物ということになりますね。
映画は危険な状況を掻い潜り、またナチスがどこに隠したのかを解き明かすという点では
娯楽アクション作品と言ってしまってもいいのではなかろうかと。
何しろジョージ・クルーニー 、マットデイモン と並んできては
「オーシャンズ11」的なノリでもあらんかと思ってしまうところですし。
されど、戦時下を舞台に娯楽作?と思わないではないですが、
かつてはこの手の作品がたくさん作られていました。「大脱走」しかり、「特攻大作戦」しかり。
とはいえ、そうした作品の中にも、「一分の魂」ではありませんが
「戦時」という状況が生み出す軋みを添えて「むむむ…」と思わせる場面が織り込まれることしばし。
この「モニュメンツ・メン」にしても考えどころはあれこれあるなあとは思ったですよ。
まずもって戦争継続中の折であり、ということは日々の戦闘で兵士の命が失われていく中で、
敵の殲滅は措いといて美術品探しに人手を割くことなどできようかと言われれば、
これはこれでなるほどとも思うところかと。
例によって史実に基づく話ということですから派手な脚色はないとして、
「モニュメンツ・メン」の活動がノルマンディー
上陸作戦後に始まった点は肝心なところかと。
つまり(まだ紆余曲折はあるにせよ)連合国軍が独軍をどんどんドイツへと追い込んでいく、
そういう時期に当たっていたということですね。
ナチスによる美術品の掠奪は独軍が快進撃を続けた中でも行われていたでしょうけれど、
いくら文化財が大事とはいえ、負けが込んでいる時期であったならば、
それこそ美術品探しに人は割けないとの反発はより強かったでしょうから。
ところで「モニュメンツ・メン」は米英仏の混成チームですけれど、
奪われたものを元あったところに戻すというはまあいいとして、
例えばですけれど大英博物館にある「ロゼッタ・ストーン」はどう考えたらいいですかね。
ナポレオン
のエジプト遠征で発見され、その後仏軍を叩いた英軍が持ち帰り、
今でもロンドンにあるわけですけれど、戦利品扱いでもありましょうか。
またルーヴルで展示されている「ミロのヴィーナス」は購入した物ではありますけれど、
当時ギリシアはオスマン・トルコの統治下で、売買の相手はオスマン・トルコ政府であった。
そうした売買に疑問の余地が無いとすれば、仮に(といっても詮無いことではありますが)
ナチスが占領下の地域で接収した美術品を売ってもらった人がいたとしたら、どうでしょうか。
やはり大英博物館にあるエルギン・マーブルも持ち出しを認めたのはオスマン・トルコでしたなあ。
こちらは売買契約でなくって贈与契約になるのかもですが、これはどうなんでしょう…。
要するに文化遺産とも言える美術品は「どこにあるか」という点以上に「どう扱われるか」、
多くの人に広く公開されて誰もが人類の文化史に思いを馳せたりきるようになっているかが
肝心な点なのかもしれませんですね。
だからといって「奪回されるくらいなら破壊してしまえ」という発想のあったナチスの場合は、
総統美術館なるものを構想して一同に展示するつもりだったとしても、
全く擁護できる余地はないわけですけれど。
…てなことをあれこれ考えて整理がつかなくなってきたようですので、
知りきれとんぼながらこの辺にして、誠に唐突に話を変えますが、
夏に「南信州紀行
」に伴って以来うっちゃりっぱなしであった両親と温泉に行くことに。
ですので、明日はお休みを頂戴いたします。