八王子市夢美術館 で開催中の「日本のポスター芸術」展を見てきたのでありますよ。
「近くでやっているから見ておこうかな」くらい気持ちでいたですが、
これがどっこい、予想に反して面白いものだったのでして。


「日本のポスター芸術」@八王子市夢美術館


展覧会タイトルには「明治・大正・昭和 お酒の広告グラフィティ」と添えられていただけに、
あの有名な「赤玉ポートワイン」のポスター などは絶対に出てこようなあと思えば、案の定。


赤玉ポートワイン・ポスター


ですが、これが大正11年(1922年)に世に出されたときには今考える以上の大反響であったようで、
掲出と同時にばんばん剥がされ、持ち帰られてしまった…とまでは知りませなんだ。


そも日本でポスターなるものが登場したのは明治末期であるそうですが、
お酒の業界、取り分け明治初期から国内醸造が始まったビール という新規参入組は
ポスターという広告宣伝手法を手広く行ったようでありますね。


欧米の広告業界では、「Beauty」、「Baby」、「Beast」(動物ですな)という「3B」を使えば
広告効果が高いと考えられていたそうなんですが、そうしたことを知ってか知らずか、
日本でもきれいどころ、要するに女性像を描いたポスターが数多作られてきた。


そして、その歴史をたどることは女性像の描き方の変遷、あるいは女性モード史をたどる上でも
役に立つくらいのようですから、上のフライヤーに2種に取り上げられたポスターも
女性像が使われているからフライヤーに使われたというわけでもなく、
展示作品の九分九厘は女性像であったというくらいなのでありますよ。


本展で最初に展示されておりましたのは、
明治36~39年(1903~06年)頃に使われていたサッポロビール・ポスターですが、
これはもう完全にといっていいくらい浮世絵風美人であって、
背景に描かれているのは富士山、二重橋、上野の桜ですから、まさに江戸の名残り。


これが徐々に徐々に変貌を遂げていくわけですが、
ちと目を引いたもののひとつが大正5年(1916年)のサクラビール・ポスターです。


サクラビール・ポスター


いまだ和装、日本髪の女性をモデルにしながらも、
輪郭線を強調してあたかもコラージュ手法で作られたかとも思う描き方が実に斬新でありました。


時に、この当時のポスターは会社名や商品名を大書連呼するような訴求法はとらず、
ビールのラベルを見れば確かにサクラビールであることと、
背景の桜、そして着物に柄として「桜」「ビール」の文字が使われていること、
こうしたあたりからそこはかとなく分かってね…という形をとっていたようですね。

これは他社ポスターもまた同様で、これも江戸以来の判じ絵に繋がるものでしょうか。


もうひとつもサクラビールで出していたというKembangビールのポスターですけれど、
和装が洋装になるレベルをかなり踏み越えちゃっているのではという印象でありますね。


Kembangビール・ポスター


どうしたって、アルフォンス・ミュシャの成分が濃厚に混入しているでしょうという作品は、
あまり「パクリはよろしくない」てな考えの無い時代、
「いいものはどんどん取り入れる」の精神が率先垂範された結果でもあるようす。
ポスターのデザイン性はこうして磨かれていったのでありましょう。


と、見て回るうちには服装や髪型といったことのほかにも、いくつか着目点に気が付いてきますが、
例えば当初一貫して無表情であった女性像が笑みを湛えるようになっていき、
昭和に入って笑顔化が顕著になることであるといった点。


あるいは名のある画家に下絵の製作を依頼したりすることも見られるようになりますけれど、
満谷国四郎が描いたエビスビール・ポスター(珍しく男性が描かれる)や
北野恒富による菊正宗ポスターなど、あまり成功していないケースがままあるやに。
絵が出すぎてポスターらしからぬことになったりもしてしまうようですねえ。


ビールに始まり、日本酒、ワイン、焼酎とお酒系のポスターが並んだ後には、
調味料(伊東深水が味の素ポスターを描いたり)、清涼飲料と展示は続いていくものの、
とても全てに触れてはいられませんですが、かなり興味深いものでありました。


最後にひとつ余談を。
昭和初期に「カルピス」を宣伝するポスターに入れられた「滋強飲料」との文字。
その頃のカルピスは養命酒のような飲まれ方をしていたのでしょうかね…。

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