さてと山梨市を後にして、甲府へと移動してまいりました。


今回は山梨県立美術館に「夜の画家たち-蝋燭の光とテネブリスム」展を見に行くことを、
当初からひとつの目的としていましたから、当然にしてたどりつく甲府なのですけれど、
すぐさま県立美術館に向かわずとも、まだ多少の時間はあろうと寄り道をふたつほど。


藤村記念館@甲府


そのひとつが甲府駅北口広場に建つ「藤村記念館」でありましたですが、
そも何故にこんな駅前に?ということに対しては、ここでもボランティアガイドの方に登場いただくことに。


曰く、この建物は明治の初めに建てられた学校の校舎であり、
「旧睦沢学校校舎」として国の重要文化財となっているのだそうな。


睦沢というのは学校のあった場所(現在の甲斐市にある)で、

保存に際して武田神社(武田信玄 の躑躅が崎館跡)に移築されたものの、
2008年、甲府駅前再開発に関係して現在位置に再移築されたとの由。


そこまで聞いて「ははん!」と思い当たることが。
2013年に、そのときはレンタカー便乗で甲府のあたりを回ったですが、
県立美術館でミレー・コレクションを見た後、カーナビに「藤村記念館」を入れたところ、
連れてこられた先が武田神社であったという。


どうしたって、ここじゃあないだろ…と思いつつ、

武田神社で宝物殿などをひとわたり見たわけですが、カーナビの情報が古く、

移転して5年にもなろうかと建物の元あった場所に案内されてしまっていたのかと
ようやく合点がいったのでありました…。


と、思い出話はともかくも、建物を見る限り「いかにも」な擬洋風建築であろうかと。
山梨県内には擬洋風建築で建てられた学校が5箇所に残っているそうですが、

以前訪ねた北杜市の旧津金学校 もそのひとつで、その際に見た太鼓楼同様に

こちらの建物にも鐘楼を模したのであろう太鼓楼が真ん中に聳えておりますね。


教会建築には鐘を吊り下げる鐘楼がありますけれど、

太鼓楼には文字通り太鼓が吊り下げられ、始業、終業などを告げていたのでありましょう。


ところで、山梨ではこうした見かけ洋風(その風味くらいですが)、実質和風の擬洋風建築のことを
「藤村式建築」と呼んでいるだそうですよ。


そして、まさにこの建物が「藤村記念館」となると、その関わりは?と思うところですけれど、
これは明治初年、山梨県令(後に県知事)として赴任してきた藤村紫朗が

建築にも記念館にもその名を残しているという。


旧熊本藩士の藤村は脱藩して長州とともに尊王・倒幕運動に関わり、

明治新政府の下、山梨県令を拝命し、県下の殖産興業、近代化に力を尽くしたそうなのですね。


取り分け擬洋風建築を推奨して甲府市内のみならず、

折りしも学制が発布されて県内あちこちで必要となった学校の建築にも
積極的にこれを取り入れる方向であった…ということから、

山梨では擬洋風建築を「藤村式建築」と呼ぶのだそうな。


他の事績としては、養蚕技術を普及させて設立した県営製糸場は当時、
富岡製糸場(こちらは官立、いわば国立)に次ぐ規模であったといわれ、
また山がちだからこそ道路の重要性を説いて、甲州街道や青梅街道の整備改修を行った。


こうしたことから、その業績を語り継ぐべく藤村式建築のひとつである旧睦沢学校校舎を

「藤村記念館」として関連資料を展示するてなことになったのだと…。


と、ここでまたふと思ってボランティアガイドさんに尋ねてみたですが、
「県内での藤村県令の人気というか、評価というか、どうなんでしょ?」と。


だいたい明治の初め、県令が置かれたところは

幕府領であったようなところを新政府が取り上げた場所であって、
そこへ送り込まれる県令は倒幕側で活躍した人物たちが当てられたわけですね。


何をするにも高飛車で、とにかく県政で結果を出さねばその後の出世に関わるとも

思っていたでしょうから、やりかたも強引。
はっきり言って地元民には受けがいいはずもない…と思っていたですが、甲府には藤村記念館がある。
「はて?」と思ったのでありますよ。


すると、やっぱり相当に強引でやりたい放題で、
(聞いてもいないのに)女を囲ってだか、芸者をあげてだか、どうしたこうした…

てなお話が出てきました。

ですが、それでも山梨県のその後に繋がる業績を残したことも事実であることから、
これを後世に伝えるべきとなった…それが、藤村記念館の役割であるということでありました。


建物内は資料展示コーナーのほかイベントスペースもあったので、
「いろいろなことをやるんですか」と聞けば、まさにその当日夜に

ヴィオラとピアノによる音楽会が開催されるとのこと。


「ヴィオラとピアノによる明治の響き」@藤村記念館


他の訪問先を廻った後に訪ねて聴いてきましたですが、

生音で聴くのは初めてのヴィオラ・ダモーレという楽器の古雅な音色は

擬洋風建築、もとい藤村式建築の佇まいとマッチするような気がしたものでありますよ。