ご存知の方はすでに利用されておられようかと思いますが、
「東京駅周辺美術館共通券」という、小粒の「ぐるっとパス」みたいなのがありますですね。


ブリヂストン美術館出光美術館 、三井記念美術館、三菱一号館美術館

東京ステーションギャラリー の5館に1年間のうちにそれぞれ一度入館できて、

3,000円というもの。


企画展の内容によっては一館で1,400~1,500円することもありますから、
結果的には楽に元を取り、絶対的に得してんねとなることは必定かと。


で、カレンダーイヤーによる1年間が有効期限となると、

2014年分はもう程なく終わるという段階で「三井記念美術館にまだ行ってなかった!」と

慌てて出掛けてきたような次第。


同館の場合、今年は12月26日から年末休館に入ることからすれば、誠にあぶない。

ただ完全に忘れていたわけではなくして、

最初から12月11日から始まる展覧会をターゲットにしておりましたのでね。
「雪と月と花」と題する展示が開催中なのでありますよ。


「雪と月と花」展@三井記念美術館


雪と月と花、つまりは「雪月花」ですけれど、いずれも自然を愛でる対象物として

取り分け心動かされる三題噺的なものでもあろうかと思いますですね。
(およそそうしたことと無縁な無粋な者が言うのだから間違いない?)


それだけ昔々から人は雪を愛で、月を愛で、花を愛でてきたわけですが、
どうやら言葉としての「雪月花」は白楽天の詩に起因するところでもあるのだとか。

さすれば、これまた中国伝来の発想かと思うところながら、

白居易は8世紀後半から9世紀半ばの人、
おそらくはそれよりも少々前に成立したのではと思われる万葉集 にはこうした歌がありました。

田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける


山の端にいさよふ月を出でむかと待ちつつ居るに夜ぞ更けにける


見わたせば春日の野辺に霞立ち咲きにほへるは桜花かも

古い時代からこうした歌が詠まれていたことから考えれば、

「雪月花」のセット販売は白居易の実用新案に委ねられるかもですが、
それぞれを慈しむ心性は相当に古くから日本にもあったと言えましょうかね。


というところで、その愛でる心の発露たる、雪月花を題材とした美術品の数々。
「きれいだな」と思うものを綺麗に仕上げるわけですから、
「なるほどなぁ」と思うところでありましたですよ。


円山応挙の弟子で応門十哲(蕉門十哲は知ってましたが…)の一人であるという山口素絢の
「雪中松に鹿図屏風」の銀砂子の散らし具合など、朧な感じはくくっときますですね。


一方で、ともするとキノコにも見えてしまうような松のデフォルメ度合いは
むしろ西洋の抽象画を思い浮かべてしまうような。
師匠・応挙の描いた松はピンピンしたふうでありましたので、

これはオリジナリティーによるものかも。


ちなみに「雪中松に鹿図」のとおり、

二曲一双の屏風の右隻には鹿が大きく描かれておりますが、
鹿が「春日社の神使」で「吉祥の動物」あるとのことは何となく予備知識内の気がしたものの、
「鹿」の音読みは「ろく」であって「福禄寿の『禄』に音が通じる」ことから縁起が良いとされるのだとは。
こうして少しずつ知恵が付いていくわけですなぁ。


と、まずは応挙の弟子から入りましたですが、
円山応挙という画人、有名なだけのことはあると改めて思いましたですね。
展示の目玉としては国宝である「雪松図屏風」ということになりましょうけれど、
むしろ小品の方に惹かれたといいますか。


ひとつは「富士山図」でありまして、「外隈」といって

背景に色を塗ることで白い富士山 の輪郭を浮き上がらせるという手法によるのだそうで、
富士山自体は塗り残しの白地だけで表現されていながら、真白き富士の嶺が実にいい塩梅。


解説によれば「応挙は実際に富士山を見てはいないようである」となると、
応挙は大したものだと思う一方で、富士山のシンボル性の方も

大したものだと改めて思うところではないかと。
お隣に展示された「水仙図」も淡くそこはかとないふうが魅力と言えましょうかね。


ところで、展示の中には茶道具も置かれてあって、
この方面には何をどう見るかてな辺り、さっぱりとっかかりが無かったですが、
ひとつだけ「黒楽茶碗 銘雪夜」との一品には少々「う~む」と。


「黄ハゲ」という手法で浮き立つ部分を「雪の月夜」と見立てた銘てな解説でしたけれど、
この類いのものをまじまじと見たのは初めてかもしれんですね。
これもまたひとつのとっかかりになったでありましょうか…。