386.強い瞳~ごめんね 今日 赤ちゃんを授かったと公表する約束を…守れなくて | かおり流 もうひとつの「宮」

かおり流 もうひとつの「宮」

「チュ・ジフン&イ・ジュンギな毎日」のまほうの手・かおりが
こっそり書き溜めた「宮」の二次小説を今更公開(四十の誕生日2013/08/18にOPENしました)
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前のお話→385.妃宮さまの隠し事~妃宮さまが… これまで只の一度だって無かった事 に引き続きチェ尚宮目線です


2008年6月10日のご成婚二周年の二日前の朝 国営放送で生放送のインタビューをお受けになるためにお支度を手伝っていた
鏡に映る妃宮さまの表情は お支度を始める頃は曇っていたのに…徐々に変化していくのを感じた
「お姉さん ごめんね 今日 赤ちゃんを授かったと公表する約束を…守れなくて」
「妃宮さま…」


あの不審な電話の有った夜 御入浴後 御髪(オグシ)を乾かさんとドライヤーを当てていらっしゃる妃宮さまへ冷たい飲み物をお持ちした私は 先程の電話は 妃宮さまの愛猫の餌に何かを混ぜて死なせた者だったのでは…?もしや 次は妃宮さまに危害を加えるといった…脅迫の類いだったのでは?
ずっと気になっていた事を 唐突にお訊ねしてみた
油断しておいでだった妃宮さまは 小さく首を振るばかりで 御声も無く…
真実をお話し下さらないのならば 妃宮さまが不審な電話に悩まされていると殿下にご報告しなければ…と申せば
少し待ってくれと仰った

躊躇いながら人目を避けて電話に出る様子 若い男の声
近頃沈んでいらっしゃる殿下を慰める妃宮さまの御姿 静かに 嵐が過ぎ去るのを待つしかないお二人のご様子 笑顔は消え 妃宮さまはいつもピリピリしていらっしゃり ”いいからもう下がって!”と 何かと女官の手を拒む事が多かった
まさか…

「もしや…脅迫に屈するおつもりなのでは…?
いいえ…そんな事は御座いませんね?不躾にこんな馬鹿げたことを 申し訳ございません 妃宮媽媽」

「お姉さん… ごめんなさい… もう 決めた事なの 止めないで?」
やっとお話し頂いた時には もうお心を決めたのだと仰った

「明日 シンくんと離婚したいと言うわ?そして… 騒ぎに乗じて此処を出て 赤ちゃんを産むまで身を隠す事にしたの
絶対に誰にも何も言っちゃダメよ? といってもあたしも何処へ行くのか まだ聞かされていないんだけどね…」
「妃宮さま!今一度…」
今一度御考え直し下さいと迫る私に そういうわけには行かぬと
脅迫のみならず タイへ刺客まで送って身重の妃宮さまを苦しめた者の存在を隠してまで 私の説得を 再び威厳を以っていとも簡単に却下し お腹の御子と殿下の位を守るのだと断言なさったのだ


朝 お支度を手伝うわたくしは 本当にお気持ちに変わりはないのかお訊ねした
「あの方は本気なの あたしが此処を出て行かなきゃ赤ちゃんとシンくんのどちらかを…
ううん…もしかしたら…
JiJiをあたしに殺させたくらいだもの…なにかとんでもない方法であたし達の未来を奪う気なの!」
随分前から抱えていらっしゃった痛みが 妃宮さまをこんなにもお辛い表情にさせるのだろう…
でも…
「逃げてはなりません!戦いましょう妃宮さま」
「いやよ…どう戦えっていうの?
あたしは何にも持ってないただの平凡なハタチの女子大生でしかないのに…」
「そんなことは御座いません 妃宮様は我が国の重要なお立場で…」
妃宮様は私の言葉を遮るように厳しい瞳で首を横に振られた

「兵者詭道也(戦術とは相手をあざむく方法である)
故能而示之不能(ゆえに能力があっても無いふりをし)
用而示之不用(勇気があっても無いふりをし)
近而示之遠(近くても遠いように見せ)
遠而示之近(遠くに居てもすぐそこに居るように見せかけよ)
利而誘之(利益を餌に誘い)
亂而取之(攪乱して奪い取れ)
實而備之(敵の戦力が充実している時はそれに備えよ)
強而避之(強ければ戦うのは避け)
怒而撓之(怒り狂っている時は挑発せよ)
卑而驕之(へり下って相手を慢心させよ)
佚而勞之(余裕があるようなら疲れさせ)
親而離之(連帯が厚いなら分断させよ)
攻其無備(敵の守りが薄い所を攻め)
出其不意(敵が予想だにしなかった所に突出する)」

孫子の…兵法…?いつのまにそんなものを…?
皇太子殿下の学ぶ教材を密かに学びでもしたのだろうか…兵法など妃教育には取り入れていない

呆気にとられるわたくしを見て くすりと満足そうに笑った妃宮さま

「驚いた?全部覚えたわけじゃないよ?ただ なるほどね~って関心したから覚えてただけ
戦いというのは 敵を欺いてこそ勝てるんですってよ?
敵と戦うには敵を知らなきゃ戦えないのに 私は 敵の事を何も知らない…
強靭な敵に闇雲に刃を振りかざしても…勝てっこないわ?
でも 逃げちゃダメなのは解る ひとまず身を隠すだけで逃げるのでは無いの
あたしたち 始まりはあんなだったけど 今はお互いを必要としてるもの…
なんとか こんなあたしでも傍に居てくれと言ってくれるシンくんの傍に 居たい
あたし…ただ怯えてるだけなんかじゃないの戦わずして勝つ方法は無いものか…
一応考えてるの 今は此処を離れても シンくんの元に戻って来る
信じてお姉さん
敵を欺くにはまず味方から 今のあたしに出来ることは それしか無いのよ」

この決断をなさるまで どんなに悩み身を引き裂かれる思いでいらっしゃったことか…
生放送の朝…お支度を手伝うわたくしに…強い瞳でそう仰った妃宮さまを 何をおいても信じ敬いお守りしようと決めた
妃宮さまの御意志に従い 随伴し この身にどんな火の粉が降りかかろうとも お守りするのがわたくしの務めだと…そう決意したのだ


妃宮さまは…生放送中に とうとう”離婚”という言葉を口にしてしまわれた
東宮殿にお戻りになったお二人が口論するのを割って入るコン内官

王族達の押し寄せた勤政殿に呼ばれた殿下が 妃宮さまを残して出て行かれた直後
私室にお入りになって私を振り返りこう仰った
「お姉さんあたし 今日此処を出て行くわ…ごめんね?」
き…今日…?!

不安が無い筈は無い…なのに 私にNoと言わせないこの強い眼差し
皇太后さまの脅迫に追い込まれたように見せかけて 既に此処を出て行く御覚悟をしておいでだった
「大丈夫 彼は皇太后さまを欺いてまであたしを別の場所へ逃がしてくれると約束してくれたから」
それを 信じて良いものか 悩まなかった筈も無い…だけど それしか無かったのだろう

「ならば わたくしにお供させて下い」

「だっ ダメよ!尚宮は皇帝陛下の女なのよ!勝手に出て行ったりすることは許されないのよ!」
お供すると言う私を史劇ドラマの尚宮に例えてまで…なんとか説き伏せようとなさった
それに今わたくしが此処を出て 誰が皇太子殿下を支えるのだと…

「っていうかパスポート!出国情報を調べられたら直ぐに見つかっちゃうのに 無理無理!」
でもわたくしは譲らなかった
「ご心配には及びません 先日妃宮さまからお話を聞いてもしやと思い 既に手配して御座います」
「どぅえっ!?ま…まじですか…そんな短時間でどうやって…」
そんなことよりも これは 皇帝陛下に背いても 東宮殿の主であるわたくしの天 皇太子殿下の御意志に従う為だと申し上げ お連れ下さらないのならいっそ私を殺してくれ でなければ わたくしには殿下や陛下に隠し事など出来ないと食い下がると

「強情な人ね…本気でそう思ってるんだったら 好きにしたらいい」
諦めたように仰った妃宮さまは そっと下腹部に手を宛てた

「この子の為に… いつか必ず此処へ戻ってきたいと今は思ってるけど 一旦此処を出てしまったら どうなるかはもう解らないわよ?」
大きく頷いた
「赤ちゃんだけはいつか受け入れて貰えても…継妃が居たらあたしは戻れないかも…」
「妃宮様!何を仰るのですか」
「避けられないわ?だって…シンくんは皇帝陛下の忠実な臣下だもの」
「…」
答えられなかった
陛下の命に背けない事は…確かだ それは皇太子殿下の御身に浸透した習慣…
妃宮さまご出産まで七ヶ月… 一切ご連絡をしないおつもりならば… 継妃うんぬんという話が 持ち上がる事は避けられないだろう だが…
「っち お姉さんに否定して欲しかったのになぁ… 嘘は 吐けないもんね
しゃーない ま いっか さ 急がなきゃ」


「お帰りなさいませ 妃宮さまは ただ今 皇后さまに呼ばれて交泰殿(キョテジョン/皇后の私室)へ…」
「妃宮が戻り次第 お心落としの太皇太后陛下へ… 上殿へお詫びに伺う」

勤政殿からお戻りになった殿下は パビリオンのガラスの扉からテラスを見るともなしに…そこへ チョン女官と共に 皇后さま付きの女官に支えられるようにお戻りになった妃宮さまをほんの一瞬黙視し 目も合わぬうちに窓の外へ視線を戻して仕舞われた
「………」
殿下…
仕方なく 先程殿下が仰った事を妃宮さまへお伝えする
「太皇太后さまがご心痛故 殿下とご一緒に慈慶殿へ謝罪にいらっしゃいますようにとの陛下からの命を受け 殿下がお待ちで御座います」

そして 殿下は陛下に連れられて思政殿へ行かれたと 大殿からお一人でお戻りの妃宮さまは
「お姉さん 行きましょう」
今しかない…そう訴える瞳に わたくしは頷く事しか出来なかった


妃宮様が東宮殿から持ち出したのは アルフレッドと ほんの少しの普段着 スケッチブックと画材…そしてお供すると譲らなかったこのわたくし それだけだった
殿下に頂いた様々な贈り物のどれもお持ちにならないそれは… 必ず戻って来る為の願掛けなのではと 私はお見受けしたけれど…
殿下が 誤解なさらなければと願うしかなかった


入る者への目はともかく 出る者へのチェックが甘いと何度も警備室へ注意したのに 最後の砦となる 通用門で阻まれるのではという淡い期待も虚しく わたくしと妃宮様は内人の通用門からいとも簡単に抜け出した
景福宮にほど近い場所に電話の主が用意した運転手付きの車に乗り 仁川空港のコインロッカーのカギを受け取った

「送信っと
これが…最後のメールになるのかも…そうじゃなきゃいいけどね…」

宮を出ることに成功したら 皇太子殿下を乾清宮に呼び出すように支持を受けていたと聞き…殿下と大君殿下の今後を思えば胸が痛む
いよいよ本当に従兄弟同士で皇位を争うことは もう避けられないのだろうか…
妃宮さまは先ほどのメールの後電源をお切りになってしまわれたけれど 私は携帯電話の電源を切ることが出来ず…着信音を消していても着信を知らせるランプが止む事も無く点滅する
取ることも出来ないコン内官やパン女官チョン女官達からの電話に胸の中で詫びる
けれどまさか…


―チェ・スヨン!いったいどういうつもりなんだ!?
誰を騙せても僕を騙すことは出来ないよ!?妃宮さまと一緒なんだろう?
皇太子殿下が窮地に追い込まれている時に 君は一体何をしようとしているんだ?!―
キム内官からのそのメールに
―あなたのおかしな妄想を 決して口外しないで
皇太子殿下と妃殿下の為に 今は何も言わずに私を去らせて―
一緒だとも違うとも告げない返信をした
ところが今度は 今 どうしても伝えないといけない事が有る 何も答えなくていいから電話に出てくれと言う
運転手の目に触れないように着信を受けると キム内官は耳を疑うような事を言った

「乾清宮に火の手が上がったころに ちょうど訪れた殿下が 訪問した理由を答えず黙秘している
かなりヤバイ状況だ
ただのボヤ騒ぎに終わったが殿下の後を追ったペクイギサが助け出した恵政殿皇太后は救急搬送された
容体はまだ解っていないが… 皇太子殿下が容疑を掛けられている
どんな理由があるのか知らないが 妃宮さまに伝えてくれ 今皇太子殿下の傍を離れるなんてあんまりだとね 必ず伝えてくれよ!?」

なぜ黙秘なんて…まさか…妃宮さまを疑っておいでなのだろうか?!
否 それは無いにしても…黙秘なさっているのはおそらく…乾清宮にいた理由が妃宮さまに呼び出されたからで…
それを明かせば妃宮さまが疑わしき状況に…それを避けようとなさっての事
殿下を乾清宮に呼び出すメールを妃宮様にさせたのはこの為だったのか?おのれ…!
よもや殿下が火を放つなどと!ありえない濡れ衣だ
しかし皇太后さまはご危篤?となれば…いったい誰が…
まさか義誠大君殿下が?!

今日もありがとうございましたカムサハムニダ


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