次に、その歌詞。
――――引用
「PONPONPON」
あの交差点で
みんながもしスキップをして
もしあの街の真ん中で
手をつないで空を見上げたら
もしもあの街のどこかで
チャンスがつかみたいのなら
まだ泣くのには早いよね
ただ前に進むしかないわいやいや
PONPON出して しまえばいいの
ぜんぜん しないの つまらないでしょ
ヘッドフォンかけて リズムに乗せて
WAYWAY空けて あたしの道を
―――――――引用終わり
ここには、都会に出てきた、空想と現実の境界線がはっきりしない、不安と期待に満ちた女の子の気持ちがふわふわと描かれている。「ただ前に進むしかないわ」といいながらそれには「いやいや」が続く。音楽を聴きながら、勢いをつけて「空けてあたしの道を」とずうずうしく進んでいこうとする可愛い決意性が感じられるではないか。
MVのYouTubeでの視聴件数は、2016年7月現在、「ギミチョコ!」のほぼ2倍の9783万回である。やっぱりすごいのだ。
―――――――引用
「つけまつける」
さみしい顔をした
小さなおとこのこ
変身ベルトを身に着けて
笑顔に変わるかな
おんなのこにもある
付けるタイプの魔法だよ
自信を身につけて
見える世界も変わるかな
同じ空がどう見えるかは
心の角度次第だから
――――――――引用終わり
この曲の“オマージュ”は矢野顕子である。KPPとしては二発目のヒット曲だが、最初聴いたとき、「つけまつげか、嫌いだなあ。」というものだった。しかし、歌詞をよく見てみると、つけまつげが、自信のない女子にとって“武装”であることがよくわかった。引用した部分は2番だが、男子が「変身ベルト」(大人なら時計か)に憧れるように、女子は「付けるタイプの魔法」であるつけまつげで自信をつけるというのだ。「同じ空がどう見えるかは心の角度次第」というのは名言ではないか。
つまり、きゃりーぱみゅぱみゅは、変な歌を歌い踊る人形のようなアイドルなのだが、歌っている歌詞は、都会に暮らす若い女性労働者(もしくはその予備軍)の不安やあこがれや心の揺れなのだ。
歌詞というより、言葉の選び方は“詩”に近い。
―――――――引用
「ファッションモンスター」
おもしろいって いいたいのに
いえないなんて つまらないでしょ
おなじになって いい子でなんて
いたくないって キミもそうでしょ
だれかの ルールに
しばられたくはないの
わがまま ドキドキ このままでいたい
ファッションモンスター
このせまいこころの檻もこわして
自由になりたいの
ファッションモンスター
――――――引用終わり
ぼくは、洋服とかファッションに疎い。
一度目の離婚をしたときは、「ちょい悪オヤジ」が流行っていたので「レオン」を読んで、良さげなブランドをお勉強のために買っていたこともあったし、東南アジア方面への出張が多かったので、現地で面白いネクタイやシャツはいっぱい買ってくる。しかし、基本的に何種類かのスーツと、清潔なシャツと靴とベルトがあれば仕事には困らない。むしろ、今は休日に服を買うより、たまったシャツを洗って、スプレー糊をかけながら、ビシッとアイロンがけするのが好きだ。だから、おしゃれに夢中な人の気持ちは到底わからないのだが、どうやらここに描かれた女の子にとって、派手な洋服や奇抜なファッションは、自分を表現するものであって、自由になるためのツールであるらしい。そして、それは、自分自身の「せまいこころの檻」からの解放であるという。「ヘドバンギャー!!」でSU-が「泣き虫な奴はここから消えろ」と歌っているのと同じ、「いい子」であろうとする自分に言っているのだ。かっこいいじゃないか。
―――――――引用
「もんだいガール」
だれかを責めるときには
「みんなとちがう」というけど
毎回「みんな」にあてはまる
そんなやつなんているのかよ
できないことへの憧れを
造り変えてく勇気もなく
足をひっぱるのには夢中
なんてもったいないやいやい
―――――――引用終わり
歌詞は、KPP5周年記念のベスト盤(2枚組)の歌詞カードから引用しているのだが、こうしてみてくると、「PONPONPON」で、高校を卒業したばかりで都会に出て、「きゃりーANAN」で働きはじめ、「つけまつける」でつけまつげを知り、「ファッションモンスター」で自己表現に目覚め、「ふりそでーしょん」で20歳になり、そして「もんだいガール」で職場のイジワルに立ち向かい、自分らしさを確認するといった、若年都市女性労働者、もとい、街で働くふつうの女の子の自立していく気持ちが、シンプルに表現されていることがわかる。
決してヘンな感覚、前衛的なアートなんかではない。むしろ、きわめて日常的な心情や情景を、揺れ動くままに、しかしある種きっぱりと表現しているすがすがしささえ漂う。別の言い方で言えば、けっこうロックだぜ。それをふわふわとつつむ言葉のチョイス。たいした歌詞=詩だと思う。
そして最後に、全体的なプロデュースの方向性。中田ヤスタカ(CAPSULE)は、KPPだけでなく、Perfumeのプロデューサーでもあるのだが、このプロジェクトではけっこう深い音楽性を追求しているように思われる。
さらにKPPはASOBISYSTEMの中川悠介のディレクションによりポップアート的なファッション性を付与され、きゃりーの声、顔、体形は、そのマテリアルと化している。もちろん、このフィジカルがなければ、このプロジェクト自体が成り立たない。きゃりーは、いわば特権的肉体(Copyright by唐十郎)の持ち主なのだ。
こうして、KPPは、愛くるしさをもったアイドルであると同時に、共感できる歌詞や、深い音楽性、ポップアートとしての価値まで備え、かつ、「クールジャパン」戦略にのって、ワールドツアーを敢行するというプロモーションで、世界的な知名度を得、半アイドル半アーティストの立ち位置を獲得しているのである。
前にも書いたが、KPPがYouTubeの「PONPONPON」でKawaiiはペドフィリアではなく、芸術的アイコンなのだ、という価値観を広めてくれたおかげで、BABYMETALもKawaii+METALという最先端音楽として認知された。BABYMETALにとってKPPは、世界への道を開いてくれた恩人なのであり、さらに半アイドル半アーティスト、といういわばOnly One道の先輩でもあるのだ。
KPPの世界は、よくできている。音楽性、歌詞、プロモーション、どれをとってもお手本になりうる。特に、歌詞は、言葉の選び方、語尾など、働く若い女の子の心情を、良く描いている。タッチは違うが、その世界は「GJ!」「Sis. Anger」と共通する。AKBやMCZの曲にもあるが、主語が男性であることが多く、ぼくの好みから言うと、KPPが一番、“詩”になっていると思う。
なので、BABYMETALのアイドルとしての進化のヒントは、KPPなのではないか、というのが結論だ。メタルとテクノがぜんぜんちがうように、BABYMETALとKPPのめざす世界は異なる。しかし、その楽曲としての完成度や作品としての芸術性という意味で、学ぶべき点はあるだろう。
半アイドル半アーティスト、という立ち位置を維持しつつ、長く活躍するには、両方ともどんどん進化していかなきゃだと思います。日本人は若く見えるから、40歳までは、世界ではアイドルで通用すると思うよ。