NEXT LEVEL | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

APMAで、ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードから正統メタル継承者の証印を受け、日本では「大物外タレ」の地位を確立したBABYMETAL。次のターゲットは何か考えてみたい。

問い合わせ殺到中というESP製の赤いARROWフライングV(BABYMETALシグネチャー)を持った三人が表紙を飾った「ヤングギター」2016年4月号には、2代目ANIMETALもインタビュー記事を載せていた。「Metal Resistance」と同時期に、セカンドアルバム「Blizzard of ANIMETAL the SECOND」がリリースされていたからである。

2代目ANIMETALの1stアルバムの1曲目は、SU-が中元すず香だったASH時代、姉の中元日芽香とのデュオでカバーした「ライオン(マクロスF)」であった。

ぼくはこれを初めて聞いたとき、正直、「やられた!」と思った。青山神の得意とする、いわゆるメタル2ビート。「あ、SU-の曲だ」と思っていると、最後、一気に持っていかれる。凄い。

ヴォーカルのQUEEN. Mという人は、性別、年齢不詳で、その声と歌から判断するしかない(実際には正体がバレているらしい)のだが、少年のような低音から、ロックシンガーらしいハスキーな中域、そして超絶的なシャウトハイトーンの持ち主。スピードメタル楽曲では、基本的にビブラートを使わないが、1stアルバムの中盤、松任谷由実の「ひこうき雲」のカバーでは、表情豊かに使っているから、できないのではなく必要以上に使わないのだろう。「ライオン」の最終部のハイトーンシャウトは、聴くものを圧倒する。これは「Painkiller」のSU-も敵わない。

初代のANIMETALは、日本のメタル人気が低迷していた1996年、野村義男(!)が、アニメソングをメタルでやったら受けるんじゃないかと発案したことから始まった。さかもとえいぞう(Vo、元ANTHEM)、屍忌蛇(G、元ガーゴイル)、TAKE-SHIT(B、ココバット)、KATSUJI(D、ガーゴイル)ら往年のメタルミュージシャンが集められ、アニソンをメタル風にやった1stシングル「アニメタル」が「宴会芸」として受け、15万枚の大ヒットを飛ばした。その後、ヴォーカルに元ピンクレディの未唯が入ったり、Dに樋口宗孝(元LOUDNESS)、BにMASAKI(B、元聖飢魔Ⅱ、つい先日BOH神とセッション)、GにSyu(Galneryus、GIT講師で神バンドメンバーともお仲間)が入ったりするが、2006年に活動停止。

2011年には、マイク・ヴェセーラ(Vo、元LOUDNESS、イングウェイ・マルムスティーンバンド)、クリス・インペリテリ(G、世界一の速弾き男)、ルディ・サーゾ(B、クワイエットライオット、ホワイトスネイク)、スコット・トラヴィス(D、ジューダスプリースト)の4人にマーティ・フリードマンが編曲で加わり、ANIMETAL USAが結成される。綺羅星のようなメンバーだが、主に日本での活動やアニメフェスティバルでの出演が中心で、水木一郎や影山ヒロノブ(JAMプロジェクトで、2013年に松戸のライブにSU-がソロ参加)とも共演し、LOUD PARK2011では、ももいろクローバーZが飛び入りで共演した。活動停止、という正式なアナウンスは今のところ、ない。

しかし、これとはまったく別に、ソニーミュージックで、Dark Nightという人がプロデューサーになって、昨年3月、2代目ANIMETALが結成された。ヴォーカルのQUEEN. M以外は固定されず、アルバムごとにゲストプレイヤーが加わる、という構成。これが凄い。ギタリストだけでも、1st アルバムには、ジョージ・リンチ、高崎晃、e-ZUKA、2nd アルバムには、スコッティ・ヒル、ポール・ギルバート、リッチー・コッツェン、ルーク篁という錚々たるメンバー。

一応解説しておくと、ジョージ・リンチは80年代LAメタルで一世を風靡したDokkenの名ギタリスト。1st アルバムで「ライオン(マクロスF)」を弾いているのはこの男だ。

高崎晃は言わずと知れたLOUDNESSのギタリスト。1st アルバムで「創聖のアクエリオン」を弾いている。

e-ZUKAはGRANRODEOのギタリストで、「ヤングギター」のギター講座の常連。1st アルバムで「残酷な天使のテーゼ(新世紀エヴァンゲリオン)」を弾いている。

スコッティ・ヒルは、ボン・ジョヴィとともに90年代NYメタルシーンを代表するSkid Rowのギタリスト。2nd アルバムで「Rise」を弾いている。

ポール・ギルバードはアメリカのHMバンドMr. Bigのギタリストで、超絶速弾きテクの持ち主。日本語はしゃべれないが、マーティ・フリードマン同様、日本贔屓で、オリジナルデザインのギターには新潟の銘酒「菊水」のマークが刻まれている。2nd アルバムで「ムーンライト伝説(セーラームーン)」を弾いている。

リッチー・コッツェンは、今はWINARY DOGSというトリオバンドでブルースロックをやっているが、おしゃれなクロスオーバーから、ブルージイなハードロックまで、なんでもできる超絶テクの持ち主。愛用しているのはゴールドパーツのテレキャスターで、ぼくにはCharとセッションしている番組(YouTubeにアップされている)の印象が強く、ヘビメタの要素はまったくなかった。

それが、2nd アルバムで「1/3の純情な感情(るろうに剣心のテーマ)を、モロ、ヘビメタ風に弾いている。

ルーク篁は、日本一のお笑いバンド(Copyright by泉麻人with タモリ)元聖飢魔Ⅱ。2nd アルバムで「ウィーアー(One Piece)」を弾いている。

まあ、ソニーが総力を挙げて、神バンド以上の凄腕ギタリストを集めているといってよい。

「ヤングギター」2016年4月号には、QUEEN.MとプロデューサーのDark Night氏のインタビューが載っているが、2代目ANIMETALに参加するには、凄いテクニックが要求されるのでビビったというギタリストのルーク篁の発言も載っている。それほど、アルバムに参加したギタリストは、超絶テクニシャンばかりで、それがメタルに編曲されたアニソンをこれでもかと弾きまくっている。

2nd アルバムには、Legend“1997”(2013年12月幕張)で、SU-がカバーした「魂のルフラン」も収録されている。

2代目ANIMETALは、デビューが2015年3月だから、なんとなくBABYMETALを意識している感も否めないのだ。

もちろん、初代の例があるから、このバンドがBABYMETALのように長期的に継続していくというスタンスは今のところ感じられず、レコード会社(ソニー)の企画色が強いのであるが、QUEEN. Mの歌唱、楽曲(編曲)、演奏の完成度は極めて高い。トラックの向こう側から、その熱が感じられるのだ。フェスの同じステージでBABYMETALと「対バン」状態になっても、互角以上に客席を沸かせるポテンシャルを持っていると思う。

1st、2nd が出たばかりということは、バンドとしてのキャリアはBABYMETALと同等。勝手な想像だが、キャリア、実力的には絶対“上”なのに、今年はBABYMETALが世界的な脚光を浴びてしまったから、悔しい思いをしているかもしれない。今はアニソンの企画性で売っているが、2nd で1曲だけオリジナルが入ったように、3rd アルバムがオリジナルメインで出てくる、という展開もあるのか。

ただまあ、QUEEN. Mの正体がネットで言われている通りの人物だったら、年齢が違いすぎる。その意味で、あらためてまだ10代で、「KERRANG!」認定Best Live BandタイトルホルダーとなったBABYMETALは異常なのだ。

ただ、征服すべき山のひとつ、おひざ元である日本のメタルレジェンドのレベルは、このあたりだと思う。高崎晃(G)、山下昌良(B)(LOUDNESS)、ルーク篁(G、聖飢魔Ⅱ)、本間大嗣(D、  EZO→ANTHEM→LOUDNESS)、そしてQUEEN. M(Vo)。これがアルバムに参加している日本人レギュラーメンバーなのだから。

ダンスやKawaiiでは圧倒的に優位だが、歌、ギターの「情念の密度」や「ライブ感」はどうか?

1st アルバムのボーナストラックには「ライオン」のカラオケが入っている。2nd アルバムの「魂のルフラン」は凄いぞ。

もうとっくにSU-は聴いて心を燃やしたのかもしれない。4月当初の、「まだまだ東京ドームに立てるとは思っていません」というインタビューや、5月以降の欧米ツアーでの歌の気合の入り方、パフォーマンスのレベルアップを見ると、きっとそうだと思いたい。

ぼくらも、ついていかなければ、ね。