#034 小さな贅沢とあふれんばかりの罪悪感
![おもいでのヤンゴ](https://stat.ameba.jp/user_images/20101008/10/jango-of-memories/49/e4/p/o0100007110789194901.png?caw=800)
小学生の頃、僕にとってのの夏休みは、「カブトムシ」「クワガタ」でできていた。
後は少しの割合で、「田舎に帰る」「縁日」などのイベントもあり、残り1%あるかないかの割合で「チューペット」があった気がする。
(※「チューペット」は棒形ドリンクの事です。年代・地域によって呼び方が異なるそうで、チューチューアイス、パッキンアイス、チュッチュなどなど多くの名称があるそうです。)
小学校2年生の頃のボクの話です。
ボクは妹とにらみ合いをしている。
別に笑ったら負けのにらめっこをしている訳じゃなく、お互いがゆずれない事のために一歩も引かない。そういう状況だ。
ボクの両手には2つに割ったチューペット。
そのどちらを取るのかで妹ともめている最中だ。
考えれば、チューペットほど不公平なものはない。
チューペットには何のためにあるのかわからない部分、「取っ手」というのか「でっぱり」というのか、はたまた「しっぽ」というのか、微量だがドリンクが詰まっている部分がある。
この部分を勝ちとることがステータスの一つだと信じてやまなかった。
でも、頭のどこかでこの争いの結末は何となく予想できていた。
「お兄ちゃん、譲ってあげなさい」
たいていこのお母さんの鶴の一声で収まることになっていた。
妹と取り合う時は、取っ手つきチューペットがボクの元にくることはなかった。
ボクはチューペットを一本丸々食べたことがなかった。
ボクんちではチューペットは2人で分けるもので、お母さんに聞かなきゃ食べちゃいけないもの。
別に誰がそう言った訳じゃないけれど、そこは暗黙のルール。
ボクの7、8年の人生経験がみちびき出した“うちのルール”ってやつだった。
ある日、ボク以外の家族はみんな出かけて、ボク一人でお留守番をしていた。
エアコンはあるけど、うちはあまり使わない家。
そのせいか、全身に常にうっすらと汗をかいている状態で、次第にのどが渇いてきた。
麦茶を飲もうと冷蔵庫に手をかけると、冷凍庫にはもっと冷たいチューペットが入っているのを思い出した。
「今日はチューペットを分ける人が誰もいないや。お母さんもいないし。でも…」
ボクはチューペット食べていい理由を必死に探した。
でも、行き着く答えは「お母さんがいないから食べちゃダメ」しかなかった。
ボクはとりあえずガマンすることにした。
それでも、チューペットを食べたい衝動が頭から離れることはなかった。
やがて、ある瞬間に何かがふっ切れて、ボクは冷蔵庫に向かった。
たぶん、「バレないだろう」という気持ちがルールを守る気持ちを上回ったのだろう。
僕はためらうことなく冷凍庫を開けチューペットを手に取り、両はしをつかんだ。
「あとはこれをヒザに振り下ろして折るだけ。
でも…折ってしまったらもうくっつけることはできない。」
折ったら後戻りはできない、そう思うと緊張がジワジワと押し寄せてきた。
そんなためらいの心と同時に、早く折って早く食べてしまわないと誰か帰ってきちゃうかもしれない、とあせる気持ちもあった。
煮え切らない気持ちを持ったまま、ボクはチューペットを力いっぱい折った。
ポキッ
あっ!
チューペットは二つに折れはしたが、真ん中から等間隔に折れてはくれなかった。
「損しないためにもチューペットはキレイに折るべし」
そう思って今まで失敗したことなどほとんどなかったけど、今回は取り合う相手がいない心の緩みからか失敗してしまった。
「お母さんに黙って食べようとしたからキレイに折れなかった」
その失敗は、ボクが罪悪感を感じるには十分だった。
食べづらいチューペットをなめつづけたけれど、全然おいしくなかった。
チューペットで涼しさを感じる前に、罪悪感で寒さを感じていた。
「チューペットを丸々一本食べたい」
それが贅沢なことだと思っていたのに、両方のチューペットを交互になめるのが豪華だと思っていたのに、ちっともそんなことは感じなかった。
不恰好なチューペットを両手に持って感じるは、
ほんの小さな贅沢とただただあふれでてくる罪悪感。
あの時の気持ちはまだよく覚えている。
「悪いことをすれば自分に返ってくる」
よく言われる道徳が本当の事だったと思い知らされた出来事だったのだから。
大人になった今でも、ズルイ事をすれば自分に返ってくるという事を思い知らされることがある。
自分ではうまくバレないようにやっているつもりでも、最後まで悪人に徹することができないからだ。
どうやら僕は、今も昔も、悪いことを最後までやり遂げる心臓は持ち合わせていないみたいだ。
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久しぶりの思い出話になりました。
当ブログのメインテーマでもあるので、夏休み真っ盛りの8月は「思い出アンテナ」を張っていこうと思います。
夏休みの思い出はたくさんあるはずですからね。
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