#025 60円のメロン | おもいでのヤンゴ

#025 60円のメロン

おもいでのヤンゴ

やっと、暑さもおさまってきましたね。
本当は夏のうちに書きたかった話ですが、思い出したが吉日です。


60円のメロン


小学2年生、夏のボクの話です。

ボクの家は丘の一番上にある。
ボクの住む横浜市内だけで言えば、なかなかの高さなんじゃないかな。
通学路の坂もかなり急だった。
だから、学校に行くにも買い物に行くにも、坂を上り下りしなきゃいけない。
毎日登下校で上り下りしているからもう面倒くささは感じないけど、消しゴム一つ買うために坂を下りるのは、さすがに嫌だ。

そんな丘にも、一軒だけ小さな商店がある。
「小柳商店」という名前のお店が、家から100mちょっとの距離にあった。
小さな商店だから品ぞろえは良くないけど、アイスなんかを買うにはちょうどいいお店だった。

―――僕が小学生だった頃は、100円と同じくらい60円のアイスが充実していた。
全国的にそうだったかはわからない。
ただ、僕の住んでいた丘付近の“小さな世界”だけで言えば、そうだった。―――

特別なことがないかぎり、お母さんからアイス代としてもらえるお金は60円。
それについて不満に思ったことは一度たりともない。
だって、100円をねだってお母さんの機嫌を損ねて、買ってもらえないなんてことになったら目も当てられないよ。
今日も真夏日というにふさわしい日和(ひより)で、右手には60円、左手には妹のツキを引っぱり、小柳商店に駆けていった。

メロンシャーベット

小柳商店のお店の外、入口のわきにアイスの冷凍庫は置いてある。
冷凍庫の中の左側には、スイカバー、雪見大福、パピコなんかの100円の商品が並ぶ。
でもボクは、そんな名だたる商品に目もくれず、右側の60円コーナーを食い入るように見つめた。
ガリガリ君、みぞれ、ホームランバー、100円のアイスに劣らない魅力的な商品が並ぶ。
ただ、ボクはもう買うものが決まっていた。
メロン型の容器に入ったシャーベット。
本物のメロンを食べたことなんて、片手どころか指1,2本で足りちゃうほどしかないけれど、ボクにとってのメロンはこれで十分だった。

アイスを買ったボクらは、お店のわきの郵便ポスト前にしゃがみ込み、陽をさえぎることにした。
いつもはギャーギャー騒ぐ妹も、アイスを食べている時だけは静かだった。

ポスト前のヤンゴとツキ

遠くのアスファルトには、ジワジワ滲むかげろう。
鳴きおわってはまた他が鳴きはじめる、
まるで事前に打ち合わせでもしてたかの様に響き続けるセミの声。
“夏”はせわしなくボクらに「参った」を言わせようとしていたけど、アイスを持ったボクらにはそんな攻撃ちっとも効かなかった。


あのメロンシャーベット、どんな味だったっけな。
もし今、同じ商品を食べることが出来たなら、
あの日の暑さや、あの後どこに遊びに行ったかまで思い出せそうな、
そんな気がする。


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このメロンシャーベットについて調べてみましたが、結局どこのメーカーなのかわかりませんでした。
食べ終わったカップは持ち帰って洗って、小物入れにしてました(-^□^-)