会計基準のコンバージェンスでM&Aはさらに加速する? | IR担当者のつぶやき

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上場企業に勤務する公認会計士の、IR担当者として、また、一個人投資家としての私的な「つぶやき」です。

ときどきIR担当者的株式投資の視点も。

10/10付 日経金融新聞では、M&Aの増加により上場企業の”のれん代”が急増し、償却負担で業績圧迫の懸念があると伝えています。


2006年度(2007年3月まで)における上場企業ののれん代総額は、5兆4,600億円(前年度比2.4倍)!!


2004年度まで1兆円台だったのれん代総額は、2005年度に2兆3,000億円に増加。

2006年度は、その伸びをさらに上回る勢いだったわけです。


背景には、事業再編や成長戦略を描くための大型M&Aが増加していることがあるといわれます。

M&Aの集計ではおなじみのレコフによると、M&A1件当たりの規模も拡大傾向だといいます。


日経金融新聞では、のれん代の大きさ順のランキングを掲載しています。

上位をご紹介しますと・・・。


第1位 ソフトバンク 1兆329億円あせる

第2位 松下電器 3,793億円

第3位 セブン&アイ 3,753億円

第4位 JT 3,606億円

第5位 花王 2,563億円  など。


ソフトバンクのボーダフォンからの携帯電話事業の買収額は、当初、約1兆7,500億円ともいわれてました(2006年3月期決算短信によれば1兆6,900億円となってます)。


ソフトバンクは、のれんについて20年均等償却の会計方針を採っているとのことで、2007年3月期は535億円の減益要因になったそうです。


それにしても、1兆円以上ののれんをこれからあと19年も償却していくなんて、気が遠くなります・・・、金額も、期間も叫び


しかし、記事では、のれんの償却を超える営業利益を稼いでいるといいます。

確かに、2007年3月期の移動体通信事業セグメントの営業利益は1,557億円となっており、のれん代(の償却分)を負担してでも、連結業績にはプラスにしているところはさすがです。


その他、松下電器は日本ビクターののれん代の減損処理で338億円減少、セブン&アイはミレニアムリテイリングの株式交換による子会社化などが響いたもよう。JTは、RJRナビスコからの買収分がカウントされており、英たばこ大手ガラハー買収分は今年度に加算されるといいますから、さらに膨れ上がるのでしょう。



多くの企業が積極的にM&Aに打って出て、事業再編やシェア拡大で成功を収めてもらいたいものです。


しかし、M&Aしても買収先企業との統合結果がうまく出なかったりすると、一転、巨額ののれん代の償却負担が業績圧迫要因として重くのしかかってきます。



そもそも、のれんとは、買収される会社の資産・負債(=純資産)を時価評価して受け入れ、その金額と支払対価総額との差額をいいます(企業結合に係る会計基準)。


そして、のれんは20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって償却することとされています。そのため、償却費の分だけ、販管費が増加することになります。

なお、こうした規則的償却を行っている場合でも、買収先企業(事業)の収益力が低下した場合には減損の対象となります。


こうしたことから、買収先企業(事業)が十分な利益を生んでくれない場合には、償却費のほうが上回ってしまい、業績を落ち込ませることになり、せっかくのM&Aが失望売りを誘うことにもなりかねないわけです。



ところで、最近話題の「会計基準のコンバージェンス問題」。

わが国の会計基準を国際会計基準と共通のものにしようという動向のなかで、のれん代の償却が変更される見込みなのです。


国際会計基準や米国基準は、のれん代を規則的に償却するのではなく資産計上しておき、買収した企業・事業の収益力が低下した場合に減損を行い、価値の目減り分を認識することになります。


すると、どうなるかはてなマーク


おそらく、M&A後の事業見通しに楽観的・強気の経営者は、もっと積極的にM&Aを推進するものと予想されます。


というのも、経営者は償却しなければならないなら、1~2年でパパッと償却してしまいたい、償却しなくていいならなおさらいいと思うはずだからです。


私が数年前に出席したカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の株主総会に、社外取締役で楽天の三木谷さんが来られていましたが、株主の質問に答えて曰く、


できることなら早期に償却してしまいたい、欧米などでは償却不要なのに、日本では数年間かけて償却が求められるが、経営の視点から言えば、そんな先のことなどわからないんだから、さっさと償却してしまいたいのがホンネだ。


という趣旨の発言をされていたと記憶しています。


相前後して、私の好きなACCESSも、米パームソースの買収に際して多額ののれんを計上しましたが、その後の株主総会で荒川社長は監査法人との熾烈なやりとりを披瀝し、欧米のような考え方もあるにも関わらず、日本の監査法人の強硬なスタンスに泣く泣く償却せざるをえなかったと株主に説明していました。


こうしたことから推察するに、会計基準のコンバージェンスが順調に進むならば、おそらく2011年前後に、償却負担に気を揉まなくて良い経営者が増え、日本では現在よりももっとM&Aが盛んになっていることが予想されます(もちろん、将来の日本の景気動向にも左右されると思いますが・・・)。



私も、現在、一生懸命、役員さんにあの会社は買いだビックリマーク とお勧めしているところがあるのですが、なかなか乗ってこないんだよなぁ・・・。

財務論の教科書にのっとって算定した企業評価額に比して大幅に割安だし、不動産も持ってるし、事業上のシナジーもあるし、これで買わないのはアホかはてなマーク っていうくらい条件は揃っているんだけど。

気持ち的にはウチのほうがやや格下で、やるなら敵対的になるかもっていうくらいの度胸がいるのが引っ掛かっているのかなドクロ

リスクのとれない経営陣にちょっとイラついているこの頃です(^^;


あと2年くらい経って、のれんの償却の心配がなくなったら動いてくれるかなラブラブ




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