IPOをめぐる証券会社の戦略 | IR担当者のつぶやき

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上場企業に勤務する公認会計士の、IR担当者として、また、一個人投資家としての私的な「つぶやき」です。

ときどきIR担当者的株式投資の視点も。

日経金融新聞から、IPOに関する証券会社の戦略をご紹介します。


1.主幹事証券の比率が上がっていること


大きな流れとしては、取引所の審査の厳格化に伴い、主幹事証券としての審査やコンプライアンスに関するアドバイスなどの手間が、これまで以上にかかるようになっていることが背景にあります。


日経金融によると、2007年4-6月期のIPO銘柄での主幹事の引受割合は73.3%

2002年度に63.4%だった割合は、これだけネット証券が広まっているにもかかわらず、上昇し続けているのだそうです(岡三証券調べ)。


2.ネット証券の幹事比率が下がり、IPO獲得競争激化


いまだに大手証券会社が主幹事をとるケースがほとんどでしょうから、1.のように主幹事比率が上がると、ネット証券がシンジケート団に入れなかったり、幹事比率が下がることになるのは自明です。


イートレード証券の調べでは、8月上旬までのIPO引受実績で、ネット証券が参加しなかった銘柄は15%と、2005年度から5ポイント上昇したそうです。


こうした流れを受け、ネット証券各社では、IPO企業の争奪戦が激化しているとのことです。


例えば、イートレード証券は、公開準備企業との接点の部署(コーポレート部)の人員増(5人追加の17人)で対応し、準備企業約2,000社を注視していく構え。

イートレードは、ネット証券のなかでも、口座数や売買代金が最も多いとされ、個人投資家への販売力が高いことをアピールして、シンジケート団に食い込んでいってます。

2006年度は121社のIPOに加わり、125億円の公募・売出しを引受けており、大手も含めたランキングでは、社数で2位、引受金額では10位と、ネット勢ではトップの成績です。


3.ネット証券の独自戦略や戦略転換も


マネックス証券は、2006年度の引受け社数・金額が前年実績を下回ったため、松本大社長は、IPOの5割以上の(銘柄数?)引受けに参加することを目標に掲げ、営業体制を見直すとしています。

また、日本の取引所に上場する中国企業のシンジケート団に参加することを重点課題とし、中国国籍を有する担当者3人で構成する中国資本市場部を設けているとか。


そういえば、チャイナ・ボーチーでも、マネックスは5%だけですがシ団2位の幹事会社となってますね。


■東京IPO

 http://www.tokyoipo.com/top/ja/index.php?id=post&seqid=1812



また、一方では、シ団への参加をやめる、という戦略転換を選択した証券会社もあります。

カブドットコム証券は、2006年10月から三菱UFJ証券からIPO銘柄の販売委託を受けるようにしたそうです。

これは、販売手数料収入をしっかり確保したほうが効率的だという冷静な判断があるようです。

2006年度下期には、前年同期3.2倍の58銘柄も取り扱ったそうです。


■三菱UFJ証券とカブドットコム証券の業務提携範囲の拡大について

 http://www.sc.mufg.jp/company/press/pdf/press20060926.pdf


さらに、別の記事では、こんな内容も紹介されていました。


ネット証券のみ、というわけではありませんが、

松井証券-中央三井信託銀行、

SMBCフレンド証券-住友生命保険

新光証券-第一生命保険

といった銀行や生命保険会社と相次ぎ提携し、IPO準備企業の紹介を受ける戦略を強化しています。


これらは「市場誘導業務」と呼ばれるようで、証券会社が顧客を紹介してくれた提携先金融機関に手数料を払うというビジネスモデルだそうです。


松井証券は主幹事を狙いに行くのではなく、販売に特化する方針をとっていますので、上場時の販売シェア拡大をもくろむ戦略のようです。


一方の、SMBCフレンド証券主幹事獲得をめざす戦略のようです。

住友生命の顧客のうち非上場企業は、なんと11万社もあるそうで、IPOを望んでいる企業も多いのだとか。


人気を誇ってきたIPO市場も、最近ではブックビルディングの上限で決まらないケースや上場を延期するケースもありますし、新興市場の低迷から上場後、株価がすぐに急降下するケースが目立ちます。


それでも、証券会社にとってはIPOはおいしいビジネスなのでしょうし、ネット証券各社は個人投資家囲い込みのためにも、IPO取扱い銘柄を減らすわけにはいかない事情があると思われます。

各社各様の戦略があるようで、ネット証券もみんな一緒というわけではありませんから、個人投資家は自分にあった証券会社選びがますます重要になってきそうですね。


また、銀行や保険会社との提携関係が強まると、IPO準備企業では、個人に人気のネット証券に多く配分したくても、取引関係などから思うように行かないケースも多くなりそうですね。

ネット証券のシ団への参加までしがらみが出てくると、面倒くさそうです・・・。



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