愛歩が警備会社のバイトに繰り出すと今日は涼太は来ていなかった。
「今日はお休みなんですね」愛歩は現場監督の山本に何気なく聞いた。
「体調不良だってよ。珍しいんだよ。あいつが休むなんて、変なものでも食ったのかねぇ?」
愛歩は一人で誘導灯をもって昨日の持ち場に立っていると人通りも多い訳でもなくただ、建物の横に立っていた。ーやめて、やめてって!ー
蒼ざめてふさぎこんでいる涼太の顔を思いだしていた。いくら亡くなった人の写真や動画が嫌いだといっても、心霊写真や心霊動画でもないのに、あの様子はどこか尋常ではなかったような気がした。普通に見れるものだと思うのに、ただ、女の人が海ではしゃいでいるだけなのに、極端すぎではないか?それにしても、あの人(沢村誠一)があんな動画や写真を命日ですっていって送りつけてくるなんてあの人も変わっている人なのかもしれない。愛歩はぼんやりとそんなことを考えていた。愛歩は気がつくと休憩時間になっていたから、プレハブの小屋の中に入ると、そこには涼太が着替えをしていた。
「あっ、今日はお休みではなかったのではないですか?」愛歩は涼太に声をかけた。
「もう治ったから大丈夫だよ。休んでいる場合じゃないんだよ。養わなければいけない人がいるからね」涼太は優しい微笑みを浮かべるようにいった。
「そうですね!!」
「君は休憩時間?」
「そうですよ」愛歩も微笑みを浮かべるようにいった。
「じゃあ、少し僕も休んでからいこうかな?」涼太は愛歩が腰かけた横に座った。
「君は何歳くらいなの?」
「27歳です」愛歩は少し恥ずかしそうにいった。
「あぁ、じゃあ、僕の先輩だ」
「なんかすごくしっかりしているというか、年下とは思えないほどしっかりしていますね!」愛歩は感慨深げにいった。
「そんなことないよ。しっかりしてたら、こうね、順序が逆になることもなかったけれどね」
「いや、すごくしっかりしていますよ。よいパパになるんでしょうね」愛歩はしみじみ言った。
「いや、若くして家族を持ったらもう夢みることなどなくて、ひたすら働くだけだよ。それがいいのか悪いのかわからない!君はなんでバイトしているの?就職とかはしないの?君なんていったら失礼だよね。先輩に向かってさ」涼太は少しはにかみながらいった。
「全然大丈夫ですよ。ここでは松永さんが先輩なんだから!」
「気楽でいいんですよ。就職とかって面倒くさい。それにこれから学校に通い始めるんですよ!」愛歩は前向きな気持ちで話した。
「どんな学校にいくの?」
「インテリアコーディネーターの学校にいくんですよ」
「インテリアのお仕事をするの?」
「うん。小さい頃からの夢ってずっとアイドルになることだって思っていたけれど、本当は私が求めていたことってそういうことではなくて安らぎだったんだなぁって、気がついたのよ。安らぎを与えられるインテリアコーディネーターに急になりたいって思ったのよ」愛歩は飄々と畳みかけるようにいった。
「・・・素敵だねっ!夢を実現できればいいねっ!僕はこの歳にして人生の墓場に入るような心境だよ」
「墓場なんて決めつけないで下さいよ」
「僕は夢を見る資格なんてないのかもしれない」涼太はどこか冷静な顔でいった。
「そんなことはないよ。ささやかな幸せじゃないですか?」
「そうか?ささやかな幸せか?誰かの幸せを奪ったかもしれないのに」
「えっ?」愛歩は思わず問い返した。
「なんでもない。昔のことを少し思い出しただけさ。それより、昨日のあのアイドルのプライベート写真はどこから送られてきたんだ?」涼太の顔がいつにも増して冷静な顔つきになり愛歩に聞いた。
「あれは・・・。実はびっくりするかもしれないけれど、あのアイドルの生前のフィアンセと知り合いなんですよ!」愛歩は声を潜めるように言った。
「フィアンセ・・」涼太は何かを思い出すようにいった。
「でもどうかしたんですか?昨日も少しびっくりしたんですよ」愛歩は率直にいった。
「あっ、いや。あの人、昔みたことがちょっとあって。だから少しびっくりしただけさ」涼太は極めて平静を務めるようにいった。
p.s