愛歩は店舗から出ると大きなため息をついた。祖父に対する想いを知って少し気が重たくなった。愛歩はダンボールを一箱分を持ってトボトボと歩いていた。
愛歩は家に戻るとダンボールを部屋の片隅に置いて眺めていた。
(これからどうやって生きてゆこう。救世主が現れないだろうか?神・仏とはいうけれど、こういう時には助けてくれないのかしら?)
プルルー、プルルー、プルルー
愛歩のスマホが鳴っていた。愛歩はびっくりすると、見慣れない番号からだった。愛歩は困惑気味に電話にでると、誠一からだった。
「もしもし・・」
「あっ、飯田さん?沢村です」
「どーも」
「今、少しいい?」
「この派遣が終わったらそのあとどこかで働く予定はある?」誠一は唐突に聞いた。
「あっ、いいえ」愛歩は少し期待をこめていった。
「君にお願いしたい仕事があるんだ」
「えっ?」
「あさって家にきてくれないか?」
「本当ですか?」
「ちょっと人出が足りなくてね。無理でなければ力を貸してくれないか?」誠一は低い声でいった。愛歩はその声に少しドキッとした。
「あっ、はい」愛歩はゆっくりと返事をした。
「ありがとう」誠一は限りなく優しい声でいった。
愛歩の胸は少しときめいた。愛歩の胸のときめきとは対照的に電話口の向こうで誠一が窓の外の遠くをみながら皮肉な笑みが含まれていることに愛歩は全く知る術もなかった。
愛歩は清々しい気持ちで夜の窓をあけた。誠一から思いがけない電話をもらい、何とか仕事が出来そうだという安堵と困った時には助かったことが2回も続いたものだから愛歩は何か不思議なものを感じていた。
愛歩のスマホがバイブレーションで鳴っていた。見ると、真理絵からだった。
<明日の20時にみんなで飲もうと思うから明日、20時位に店の前に来れる?>愛歩は勿論と返信をした。
賑やかな店内にはすでに10人位の昔の仲間たちが集っていた。愛歩は最後のティシュ配りの業務を終えると急いで真理絵からメールがきていたため指定されていた店に直接むかった。
「よぉ、愛歩じゃない」懐かしい顔が顔を揃えていた。店長だった山本は変わらないチャキチャキしたような人なつこい人のいい顔を浮かべた。
「おいっ、飯田っ!」山本は笑顔を浮かべて手をあげた。
「あっ、店長っ!」愛歩も懐かしさに笑顔を浮かべた。
愛歩も適当に腰かけた。
「飯田、元気にしていたか?」
「ええっ、何とか」
「今、何の仕事をしているんだ?」
「まぁ、ぼちぼち・・」
「今後先々、大丈夫なのか?」山本は少し心配そうにいった。本音は心許ない気持ちでいっぱいだったけれど、誠一からの電話を思い出して気持ちをぐっと堪えていた。
「大丈夫です」愛歩も笑顔を精一杯つくった。
「また仕事にあぶれたらいつでも連絡しなさい。あっ、そうだ、あの子から聞いたけれど、前に藤本真広のことを君が気にしているって聞いてさ。最後だし、こういってはなんだけれど、店の防犯カメラのデータを消去しようと思っていたけれど、最後だし、特別にこれ渡すよ。君の心の中だけに留めておいてくれよ」山本はそういって、愛歩に小さな封筒を渡した。