第2部トライアングル 第3章・誰かの背中 | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー

「お金は払ったじゃない・・きりがないじゃない」蚊の鳴くような声で由花は呟いた。カン・ヨンクは胸ポケットからフルーツナイフを取り出すと由花の頬をパンパンと軽くなで寄せながら

「あと百万用意しろっ!」由花の顔面に顔を近づけるとポマードの匂いが鼻を劈いた。

「百万用意したら解放してやる。日本人と偽装結婚して情が移ったか知らないけどな、君も上手く事を運んだよな。」口端にいやらしい笑みを浮かべながらフルーツナイフで由花のYシャツの第一ボタンを切り外した。

「殺さないで・・・幸せを奪わないで!」

由花は顔面蒼白に顔を引きつらせながら、ふりしぼりながら言葉を続けた。

「約束のお金、ちゃんと渡した。福建省でとても貧しかった。日本人は冷たいって聞いていたし2週間もすればすぐ別れるつもりだった。」由花はすがりつくような目をカン・ヨンクに向けた。そんな由花をあざ笑うように

「だったねぇ・・そこに愛が芽生えちゃったかぁ。けど俺らは仲間の誰かが口をわればここでは生きてゆけない。秘密を共有している訳だろ。そんな君に幸せなんかありゃしないんだよ!」カン・ヨンクの腹の底から出る野太い声は由花の鼓膜を破りそうだった。

「あと百万用意しろ」絶望に泣きくずれる由花の首筋にナイフの先っぽをふとたてかけた。

「ねぇ、偽者さん」            つづく、、