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スタッフTです。

 

Sinonasal DLBCL: molecular profiling identifies subtypes with distinctive prognosis and targetable genetic features
PRG Eriksen et al, Blood Adv 2024, doi: 10.1182/bloodadvances.2023011517

原発性副鼻腔DLBCLは予後が様々で、CNSや皮膚といった特徴的な再発/播種パターンを持つリンパ腫です。
 

この不均一性や再発パターンをもたらす分子学的メカニズムが今までわかっていなかったため、作者らは117人の原発性副鼻腔DLBCLの臨床データと免疫染色データ、遺伝子発現プロファイリング、染色体データ、次世代シーケンスデータを解析しました。

結果です。
・Cell-of-origin(COO)については、58%がABCタイプで38%がGCBタイプ、4%が分類不能でした。
・COOは予後に大きな影響を与えました。(全体の5年PFSはABC 43% vs GCB 73%、リンパ腫による死亡[LSM]は ABC 45% vs GCB 14%。R-ケモ群でのサブグループ解析でも5年PFSはABC 55% vs GCB 85%、LSMはABC 28% vs 0%)
・ABCタイプはMYD88とCD79Bのmutationが多いMCDクラスが主だった。GCBではこのクラスは有意差をもって少なかった。
・ABCタイプはcMYC/BCL2の共発現が頻回に認められた(ABC vs GCB 76% vs 18%)。
・ABCタイプはHLA-II lossも頻回に認めた(ABC vs GCB 48% vs 10%)。
・PD-L1の発現とcopy数の変異は少なかった。
・EBVの関与はすべての症例で認めなかった(ちょっと意外)。

結論:今回の分子学的な解析は、原発性副鼻腔DLBCLの予後分類に役立つだろう。ABCのMCDクラスの遺伝子変異は、他のリンパ腫とも共通しており、B-cellをターゲットしたtoll-like receptor signalingを利用した治療の候補となる。

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副鼻腔DLBCLは何事もなくスッと治る方と、治療に難渋する方がいらっしゃいます。その理由が「副鼻腔DLBCLの6割弱を占めるABCタイプは、ABCの中でも特に治療が難しいとされるMCDクラスが多いからだった」と言う、非常に納得感がある内容でした。この予後の悪い群に対する治療について、今後の研究が待たれます。

おまけ

 

 

飯塚病院近くのうどん屋さんの画像です。伊藤伝右衛門にちなんだ「伝右衛門うどん」というメニューだった気がします(おぼろげ)。

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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

今回は短いですが、British Journal of Haematologyからアカラブルチニブの合併症に関する報告です。

 

Analysis of ventricular arrhythmias and sudden death from prospective, randomized clinical trials of acalabrutinib

Sharman JP et al, Br J Haematol 2024, doi: 10.1111/bjh.19469

 

【要旨】

本研究は5つのアカラブルチニブの臨床試験における突然死(SD)と非致死的および致死的心室性不整脈(VA)の頻度を検証した。合計で1299人の患者がアカラブルチニブ投与を受けた(曝露 4568.4患者年)。16人(1.2%)がSDもしくはVAを起こした(イベント率 0.350/100患者年)。非致死的VAは11人(0.8%)で起こり、うち9人(0.7%)は心室性期外収縮のみであった。SDと致死的VAは5人(0.4%)で起こった(イベント率 0.109/100患者年、イベントまでの期間中央値 46.2カ月)。アカラブルチニブ治療で起こるSDとCAの頻度は低く、アカラブルチニブによるSDもしくはVAのリスク増加を指摘するにはデータが不充分である。

 

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新世代のブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤であるアカラブルチニブの安全性に関する文献は以前にもお伝えしたことがあります。

 

 

イブルチニブと比較してアカラブルチニブの安全性は高そうである、という結果なのですが、今回の報告は特に気になる心合併症に関連した突然死と心室性不整脈にフォーカスして、前向きランダム化試験のデータから得られたデータを解析しています。これによるとアカラブルチニブによる突然死や心室性不整脈の頻度は少なく安全性は高そうだということで、結論は変わりませんでした。しかしながらリスクのある症例では注意深いモニタリングが必要であることは言うまでもありません。

 

おまけ

 

 

春の味覚の代表格、筍の炭火焼きを食べました!最近スーパーでもよく見かけますが、ついついカゴに入れてしまいます(好物)。

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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

今回は久しぶりのJAMA Oncologyからで、CAR-T細胞療法後の骨髄性腫瘍についての報告です。

 

Features and Factors Associated With Myeloid Neoplasms After Chimeric Antigen Receptor T-Cell Therapy

Gurney M et al, JAMA Oncol 2024, doi: 10.1001/jamaoncol.2023.7182

 

【背景】

印象的な臨床試験のアウトカムによって、B細胞性リンパ増殖性疾患(LPD)に対するCD19、多発性骨髄腫(MM)に対するB細胞成熟抗原を標的としたキメラ抗原受容体T細胞療法(CART)が米国FDAの承認につながった。CAR-Tの最も頻度の高い毒性である免疫エフェクター細胞関連血液毒性(ICAHT)は、一般的に3カ月までに軽快する。CART後に発生する骨髄性腫瘍(post-CART MN)も認識されているアウトカムであるが、現在までに観察された潜伏期は短い。カウンセリング、リスク層別化、潜在的な監視戦略についての情報を提供するため、我々はアップデートされたpost-CART MNイベントの頻度や、それに関連した因子を報告する。

 

【方法】

我々はMayo Clinicで2016年6月から2021年12月31日の間にLPDもしくはMMに対してCARTを受け、その後にMNを発症した患者を同定した。MNの分類はWHO分類に基づいて行われた。Post-CART MNに関連した臨床因子を同定するため、我々は6:1の割合で、MMもしくはLPDの初期診断を受け、CARTを受けたがその後にMNを発症しなかった、マッチした対照群を定義した。CAR-HEMATOTOX Score(CHS)が計算され、多変量モデルで独立した変数として扱われた。

 

【結果】

20人(年齢中央値[四分位範囲] 67歳[52-76];男性8人[40%]、女性12人[60%])がpost-CART MNを発症し、CART注入から中央値(四分位範囲)10カ月(5-18)のことだった(フォローアップ期間中央値[四分位範囲] 14カ月[6-23])。Post-CART MNの推定累積頻度は、1年、2年、3年でそれぞれ4%、6%、9%で、LPDとMMの間では同等だった。次世代シークエンスによる解析により、クローナルな造血(変異アレル頻度[VAF]2%以上)がベースラインのサンプルで11症例のうち7症例(64%)で検出され、主にTP53とPPM1Dが関与していた。評価可能な10症例のうち7症例で、ペア検体によりクローナルな関連が確立したが、3症例ではベースラインのクローンは臨床的に報告価値がないものであった(VAF2%未満)。


これらの症例と比較し、対照群の患者(n=120)は年齢が若かった(年齢中央値[四分位範囲] 61[21-81];男性72人[60%]、女性48人[40%])。単変量原因別ハザード回帰モデルにより、高齢、ヘモグロビン低値、血小板数低値がpost-CART MNに関連していた。多変量原因別ハザード回帰モデルで変数ペア間で比較を行うと、モデルB(年齢65歳以上、血小板数14万/μL以下)がconcordance indexが良好だった(0.776)。コマーシャルのCARTを受けた患者に適応すると、モデルBはpost-CART MN発症率が、それぞれ1因子がある場合に100患者年あたり4(中間リスク;コホートの48%)、2因子がある場合に100患者年あたり27(高リスク;コホートの16%)だった(P<0.001)。フォローアップ時点で80患者年を超えていたが、低リスクカテゴリー(コホートの43%)でpost-CART MNは起こらなかった。CHSはカテゴリー変数としてpost-CART MNを関連していたが、この関連性は年齢と組み合わせることで向上した。

 

【考察】

クローナルな造血にかかわらず、年齢と血小板減少という直感的なベースラインの因子によってCART後の患者で起こるMNリスクを層別化でき、このことはカウンセリングの助けとなり、監視戦略の指標となる。MMやLPDの移植後より高率であるが、全ての患者は殺細胞薬の前治療歴があることから、post-CART MNイベントがCART曝露に直接寄与するものとは言えない。CART前の次世代シークエンスを用いたスクリーニングは、まだ研究目的に留まる。クローナルな関連を有した症例の半数ではベースラインのクローンは報告限度未満であった。そのかわり、モデルBはリスク増加の実用的な代用物である。Post-CART MNは重要なICAHTの鑑別診断であり、CHSとの関連は年齢を組み込んだモデルで向上した。
 

この試験の限界には独立したコホートによる検証がないことが挙げられる。さらに、post-CART MNイベント数により多変量解析モデルがペア因子に限られ、クローナルな造血に関する不完全なデータによりモデルに組み込むことが出来なかった。その上、対照群から導出されたハザード比は豊富なサンプルを反映し、一般化できない。対してコマーシャルなCARTを受けた患者から算出された発生率は有益である。これらの観察から、より大規模な多施設もしくはレジストリベースの試験による確認が必要である。

 

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血液領域に限らず、抗がん剤治療後に発症する二次がんは重要な問題です。CAR-T細胞療法後の二次がんについては歴史が浅いため、まだよく分かっていないことが多いのが現状ですが、今回は骨髄性腫瘍に限ってMayo Clinicから報告された単施設での検証になります。それによると、CAR-T細胞療法後の骨髄性腫瘍の発生率は3年間で約9%と想像していたよりは多そうです。年齢、血小板数を組み合わせた予測モデルが有効とのことでした。これらの患者さんはCAR-T細胞療法以外に多数の治療を受けていますから、全てがCAR-T細胞療法に起因するものではないのですが、注意すべきものであることがよく分かりました。

 

おまけ

 

 

先日食した肉じゃがです。さすがプロが作ると、家とは違う美味しさがありました!