イタグレの志庵 Go onこれがMY WAY! -28ページ目
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お別れ

その場に立っているのがやっとだった。


待合室に響く ゴー…という音。


もかが離れていく。

いなくなってしまう。


もう  触れる事はできない…


離れたくないって思っているのに

なんで見送らなきゃいけないのか。


なんであたしはなにもできないのか。


悔しかった。


母親も泣いていた。


今、どんな気持ちだろう。


辛いよね。

悔やんでるよね。

きっと、「あの時、目を離さなければ…」って思っているだろう。

車に轢かれた瞬間を、見てしまったのだから。

そして、呼びかけても動かないもかを

病院まで連れていってくれた。


あたしよりも辛い思いをしているはず。


考えるだけで震えてくる。


申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


こば氏も仕事の合間に来てくれた。

父親も職場から飛んできて、なんとか間に合った。

4人で一緒にお骨をひろった。


小さな骨壷。


それでもまだ、離れるのは怖かった。

納骨堂には納めずに、自宅供養する事にした。


少しでも、近くにいたかった。


ねぇ もか。


イタグレ もか との日々。

今もあたしを見てくれてる?



もか。



イタグレ もか との日々。

うちに来て、幸せだった?



もか。 もか。





イタグレ もか との日々。


大好きだよ。


ずっと忘れないよ。


ありがとう。  


出会わせてくれて ありがとう。







10月31日 ②

ただ泣く事しかできないでいた。

なにも考えられなかった。


火葬の手配をこば氏が全部やってくれていた。

それだけでなく、職場へ休む旨を連絡してくれていたのもこば氏。

社会人として、人間としてどこまでダメな奴なんだろう…

こば氏がいなかったら

あたしはなにもできなかった。


友人にも電話で報告した。

たぶん、泣きわめいてなに言ってるかわからなかっただろう。。

すぐに駆けつけてくれた。

なんて優しいんだろう。

今までも、どれだけ勇気づけられたかわからない。

よく話を聞いてくれた。

悩みも喜びも、いつもそばでわかちあってくれた。

「トイレがうまくできたんだよおんぷ

「まてができるようになったよにこ

「また部屋を荒らされたよガクリ


そしてまた今回も 助けてくれた。

この場をかりて改めてお礼を言いたい。

ありがとう。


しばらくして父親も帰ってきた。

大声をだして、母親に怒る声が聞こえた。

そして泣き崩れた。


みんな、悲しんだ。



あたしは、起きてくれるのをずっと待っていた。


あと数時間で

この小さな体が、大好きな顔が、しっぽが、すべてが

骨になってしまうなんて まったく現実味がなかった。


”誰か知らない人の、悲しいストーリー”みたいな感覚で

自分の身に起こっている事だとは思えなかった。


ほんと嫌な夢だ。

起きたらいつものように うでまくらで寝ているんだろ?

「おはよ」って言ったら しっぽぶんぶん振って応えてくれるんだろ?


…あぁ

昨日は夜に雨が降ってて散歩いけなかったんだよなぁ。

今朝はあたしが「いってきます」って言ってるのに

見送りもしないでこたつにもぐって出てこなかったよなぁ。

こいつめ。

引き返して、わしゃわしゃって顔なでながら怒ってやればよかったなぁ。


こないだ3kgのごはん買ってきたばっかりだし

トイレシーツもネットで箱買いしたのに

誰が使うっていうんだ。


おやつだって、出し惜しみしてた高級なうまそうなやつが

いーっぱいあるんだぞ。


だから早く起きなさい。


今度の休みは仙台に行くって話したじゃん。

起きないと行けないんだぞ。



…ずっと呼びかけた。


何度も何度も名前を呼んだ。


離れるなんて、もう会えないなんて、

考えられなかった。



まだ連れていかないでください。

神頼みなんか した事ないけど、お願いします。

もう少し 一緒にいさせて下さい。


もう朝になろうとしていた。









10月31日

その日は、仕事だった。


夕方くらいに 電話が鳴った。


出るなり


「どうしよう、どうしよう」


泣いているような、パニック状態のような、

とにかく今まで聴いた事のない 母親の声だった。



「もか…もかが車にひかれちゃった」



ドクン、と心臓が鳴った。

なぜかその時は冷静に、とにかく早く病院に連れていってくれとだけ言い、電話を切る。


目の前が真っ暗になった。

無事だろうか?

きっと痛がってるだろうな。

なんでちゃんとみていなかったんだ?

いや、そんな事より 早く伝えなきゃ。


こば氏に連絡をした。

「すぐに病院に向かう」と言ってくれて 安心した。


大丈夫。絶対大丈夫。


職場で平静を保っていたつもりだったが、心配で心配で

何度も母親に電話をした。

けどつながらない。

病院にいるからなのか?


早く帰らなくちゃ。

もかが待ってる。

車を飛ばしながら、家へと急ぐ。

こらえていた涙がぶわっと溢れた。

もうすぐ着くよ!! 大丈夫だよ!!


もかはまだ病院で横になってて、あたしが駆け寄ると

嬉しそうにしっぽをパタパタ振る



そんなシーンが頭に浮かんでいた。

ふいにあたしもふっと笑みがこぼれた。


家に着くと、こば氏が待っていてくれた。


母親も出てきた。


…?


早く病院に行こうよ!!もか、待ってるんでしょ!?


…??


もかはどこにいるの!?早く行かなきゃ!!


とりあえず、家に入ろうと促される。

意味が分からなかった。

もかは今どうしてるの?一人でいたらかわいそうじゃん

 

「ごめんね…」

母親が泣いていた。

さっきの電話の声も、泣いている姿も、今まで一度も

見たことが無かった。


なぜ泣くの?



ドクン。ドクン。鼓動が早まる。

嘘だ。

じわじわと感じていた黒い不安に押しつぶされそうだった。


こば氏が車から大きな白い箱を部屋へと運んできた。


嘘だ。

息がつまる。

苦しい。

視界が滲み、前が見えない。


いつもと同じかっこで、眠っているもかがそこにいた。

けど、”同じ”じゃない。

呼んでも 何度呼んでも 目を開けてくれない。

こっちを見てくれない。


体も冷たい。まったく別のものみたいになってしまっていた。

嘘だ。

これは夢だ。

頭のなかで繰り返す。


ただ

必死に温めようとしていた。


もう寒くなってきたから、ここのとこ朝も夜もぷるぷる震えてたもんなぁ。

かわいそうになぁ。

こんなに氷だらけにされちゃって。


動かないもかを、何度もさすって温めた。


この時の もかの顔、背中、足、しっぽ、全身の感触を

あたしは一生 忘れないと思う。










まず一歩。

もかがいなくなってから、一ヶ月が過ぎた。


まだ、闇のなかにいるような感覚。


いったいいつまで 


悲しいままなのか


あとどのくらい


後悔し続けるのか




まったく わからない。



本当は、このブログはもかの成長記録とするはずだったんだけどなぁ。


こんなはずじゃなかった。


もかには会えないけど、もう触れないけど


思い出だけは色褪せることなく


あたしの心。 目。 耳。 全身で覚えている。


昨日の事のように。



これからの毎日を過ごすなかで、いつも胸にいるもかを綴っていこうと思う。

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