10月31日 | イタグレの志庵 Go onこれがMY WAY!

10月31日

その日は、仕事だった。


夕方くらいに 電話が鳴った。


出るなり


「どうしよう、どうしよう」


泣いているような、パニック状態のような、

とにかく今まで聴いた事のない 母親の声だった。



「もか…もかが車にひかれちゃった」



ドクン、と心臓が鳴った。

なぜかその時は冷静に、とにかく早く病院に連れていってくれとだけ言い、電話を切る。


目の前が真っ暗になった。

無事だろうか?

きっと痛がってるだろうな。

なんでちゃんとみていなかったんだ?

いや、そんな事より 早く伝えなきゃ。


こば氏に連絡をした。

「すぐに病院に向かう」と言ってくれて 安心した。


大丈夫。絶対大丈夫。


職場で平静を保っていたつもりだったが、心配で心配で

何度も母親に電話をした。

けどつながらない。

病院にいるからなのか?


早く帰らなくちゃ。

もかが待ってる。

車を飛ばしながら、家へと急ぐ。

こらえていた涙がぶわっと溢れた。

もうすぐ着くよ!! 大丈夫だよ!!


もかはまだ病院で横になってて、あたしが駆け寄ると

嬉しそうにしっぽをパタパタ振る



そんなシーンが頭に浮かんでいた。

ふいにあたしもふっと笑みがこぼれた。


家に着くと、こば氏が待っていてくれた。


母親も出てきた。


…?


早く病院に行こうよ!!もか、待ってるんでしょ!?


…??


もかはどこにいるの!?早く行かなきゃ!!


とりあえず、家に入ろうと促される。

意味が分からなかった。

もかは今どうしてるの?一人でいたらかわいそうじゃん

 

「ごめんね…」

母親が泣いていた。

さっきの電話の声も、泣いている姿も、今まで一度も

見たことが無かった。


なぜ泣くの?



ドクン。ドクン。鼓動が早まる。

嘘だ。

じわじわと感じていた黒い不安に押しつぶされそうだった。


こば氏が車から大きな白い箱を部屋へと運んできた。


嘘だ。

息がつまる。

苦しい。

視界が滲み、前が見えない。


いつもと同じかっこで、眠っているもかがそこにいた。

けど、”同じ”じゃない。

呼んでも 何度呼んでも 目を開けてくれない。

こっちを見てくれない。


体も冷たい。まったく別のものみたいになってしまっていた。

嘘だ。

これは夢だ。

頭のなかで繰り返す。


ただ

必死に温めようとしていた。


もう寒くなってきたから、ここのとこ朝も夜もぷるぷる震えてたもんなぁ。

かわいそうになぁ。

こんなに氷だらけにされちゃって。


動かないもかを、何度もさすって温めた。


この時の もかの顔、背中、足、しっぽ、全身の感触を

あたしは一生 忘れないと思う。