貨幣史・世界史 Ⅷ【左】変動相場制以降 ニクソンシ
貨幣の偽造の歴史
信用通貨と贋金の問題は貨幣の歴史と同じくらい古いとも言われる。価値の裏付けを金属に求めながら、地金価値と額面を厳密に一致させる本位貨幣制の確立は近代以降であり、近代以前の貨幣制度をそれで理解することは難しい。
金属貨幣はしばしば政府や領主などが貨幣発行益を得るために発行され、額面が地金の価値を上回ることがあった。貨幣発行益が大きい場合は贋金の横行を呼び、特に高額の貨幣が偽造され、権力者は取り締まりに苦慮した。和同開珎は銀銭の発行後1年以内に私鋳銭の禁令が出ており、偽造によって銀銭は廃止へ向かった。
紙幣の偽造では、初の紙幣とされる交子が990年頃に出たのちの神宗の時代(1068年〜1077年)には偽造に関する記述が見られる。日本最古の紙幣とされる羽書は1610年に発行されたが、1624年には偽札についての記述が見られる[108]。スウェーデンのストックホルム銀行券は1661年に始まり、1662年〜1664年には偽造銀行券が出回っていた[109]。大規模な紙幣偽造としては、ポルトガルの公文書を偽造してエスクド紙幣を500万ドル相当印刷させた事件がある[110]。
鋳造貨幣や紙幣以外の偽造もあり、たとえばアステカでは、通貨として使われていたカカオ豆が偽造されていたという記録がある[111]。
年表
- 紀元前30世紀 - メソポタミアで重量単位のシェケルが用いられる。
- 紀元前21世紀 - シュメルでウル・ナンム王の時代に度量衡が統一され、銀1ギン=大麦1グルとされる。
- 紀元前15世紀 - 中国の殷で貝貨が用いられる。
- 紀元前7世紀 - アナトリア半島のリュディアで初の硬貨であるエレクトロン貨が作られる。
- 紀元前6世紀 - ギリシアのポリスで硬貨が定着。
- 紀元前5世紀 - 紀元前3世紀 - 中国の戦国時代。中国に青銅貨などの鋳貨が定着する。
- 紀元前4世紀 - アレクサンドロス3世がペルシアを征服し、戦利品をもとに大量の金貨を発行。金銀の交換比率が大きく変わる。
- 紀元前4世紀 - 紀元前3世紀 - マウリヤ朝でインド初の硬貨と言われるパナ銀貨とマーシャカ銅貨が発行される。
- 紀元前280年頃 - ローマが初の硬貨としてアスを発行。
- 紀元前221年頃 - 秦の始皇帝が度量衡を統一し、貨幣の重量は銅貨の半両銭を基準とした。以後、銅貨の普及が進む。
- 紀元前118年頃 - 漢で五銖銭を発行。中国で最も長く流通する貨幣となる。
- 191年 - 董卓が五銖銭を改鋳し董卓小銭を発行。悪銭の流通が中心となる。
- 3世紀 - ローマ帝国で銀不足によりインフレーションが深刻化。
- 621年 - 唐が開元通宝を発行。中国の貨幣経済の統一が進む。
- 693年 - ウマイヤ朝がイスラーム帝国初の硬貨としてディナールとディルハムを発行。
- 708年 - 日本の朝廷が和同開珎を発行。
- 780年 - フランク王国のカール大帝が度量衡を改革しリブラを導入。デナリウス銀貨を標準的通貨として造幣権を国家の独占とする。
- 10世紀 - イスラーム世界で銀が不足。
- 1023年 - 宋が初の政府紙幣として交子を発行。
- 11世紀 - 宋が神宗期に宋銭を大量鋳造。高額面で遠距離の支払いに適した紙幣(鈔)への依存が強まる。
- 13世紀 - イングランドをはじめヨーロッパの銀貨鋳造が増加。
- 1252年 - フィレンツェがフローリン金貨を発行。
- 1260年 - 元が法定通貨として紙幣の交鈔を発行。元は銅貨の使用を禁じたため、大量の宋銭が日本や東南アジアなどの周辺地域へ流入する。
- 1284年 - ヴェネツィアがドゥカート金貨を発行。
- 1294年 - イルハン朝が西アジア初の紙幣としてチャーヴ(鈔)を発行。
- 14世紀 - インド洋のタカラガイがアフリカで貝貨として導入が始まる。
- 15世紀 - ヨーロッパで貴金属が不足。エジプトで銅貨のインフレーション。
- 1518年 - ボヘミアがターラーを発行。のちの価格革命によりヨーロッパ各地で用いられる。
- 1537年 - スペインがエスクード金貨を発行。国際的な通貨となる。
- 1545年 - インカ時代に放棄されていたポトシ銀山が再発見される。
- 16世紀 - ヨーロッパで価格革命が進む。
- 1606年 - 江戸幕府が慶長通宝を発行。皇朝十二銭以来600年ぶりの銅貨公鋳。
- 1609年 - アムステルダム銀行設立。
- 1631年 - マサチューセッツ湾植民地がトウモロコシを法定通貨とする。アメリカの13植民地で実物貨幣の普及が進む。
- 1639年 - 鎖国令により、日本からポルトガルへの銀の供給が止まる。
- 1661年 - スウェーデンのストックホルム銀行がヨーロッパ初の紙幣として銀行券を発行。
- 1668年 - ストックホルム銀行の破綻により、初の中央銀行であるスウェーデン国立銀行設立。
- 1685年 - フランス領カナダでトランプを切った紙幣が流通。アメリカ大陸初の紙幣とも言われる。
- 1694年 - イギリスのイングランド銀行が初の近代的な銀行券を発行。
- 1716年 - 財政家のジョン・ローがバンク・ジェネラールを設立。フランスで銀行券を普及させる。
- 1775年 - 13植民地が独立戦争の戦費調達のために大陸紙幣(英語版)を発行。欧米では初の政府紙幣となる。
- 1789年 - フランスがアッシニア紙幣を発行。のちに世界初とも言われるハイパーインフレーションが発生。
- 18世紀 - 清の乾隆期の中国で乾隆通宝の大量鋳造。銭票が史料に登場する。
- 1816年 - イギリスが貨幣法により金本位制を実施。国際的に金本位制が広まるきっかけとなる。
- 1871年 - 明治政府が円を正式に採用。
- 1885年 - 明治政府が最初の日本銀行券を発行。
- 1907年 - 1907年恐慌が発生。アメリカの連邦準備制度設立のきっかけとなる。
- 1914年 - 第一次世界大戦。イギリスが金本位制を停止して管理通貨制度に移行し、各国も停止。
- 1919年 - アメリカが金本位制に復帰。以後、各国が復帰をはじめる。
- 1929年 - 世界恐慌。以後、各国は再び金本位制を停止。
- 1935年 - 中国で国民党政府が銀本位制を停止。オーストリア政府が、マリア・テレジア銀貨の鋳造権をイタリアへ譲渡。翌年にはイギリス、フランス、ベルギーもマリア・テレジア銀貨を作る。
- 1944年 - ブレトン・ウッズ協定。
- 1946年 - 国際通貨基金創設。
- 1948年 - 中国で共産党政府により中国人民銀行が発足。通貨が人民元に統一される。
- 1950年 - 最初のクレジットカードであるダイナースクラブが創設される。
- 1971年 - ニクソンショック。USドルは金との兌換を停止。変動相場制への移行が開始。
- 1972年 - シカゴ・マーカンタイル取引所で通貨先物の取引を開始。欧州経済共同体の加盟国が共同変動為替相場制を開始。
- 1979年 - 欧州通貨制度が開始、欧州通貨単位が定められた。
- 1983年 - 暗号研究者のデヴィッド・チャウム(英語版)が電子貨幣を発案。のち1990年にデジキャッシュを設立。
- 1985年 - プラザ合意により、円高ドル安が進行。
- 1992年 - イギリスにおいてポンド危機。
- 1997年 - 東南アジアを発端にアジア通貨危機。
- 1990年代 - パプアニューギニアの東ニューブリテン州で、貝貨による人頭税の納税許可が進む。
- 2002年 - 欧州中央銀行がユーロ紙幣、ユーロ硬貨を発行。
- 2005年 - 中国の人民元改革。管理変動相場制に移行。
- 2007年 - 世界金融危機。
- 2009年 - ビットコインの運用開始。
- 2010年 - 2010年欧州ソブリン危機、通称ユーロ危機。